2024/08/07 朝日新聞/和歌山県

 紀の川市桃山町野田原の上村正次さん(95)の戦争体験をもとに作られた紙芝居がある。紙芝居のタイトルは「赤い夕陽に―満蒙開拓青少年義勇軍体験記」。上村さんが義勇軍に参加するため15歳で志願して旧満州(中国東北部)に渡り、現地で終戦を迎え、日本に帰還した体験が描かれている。

 上村さんは旧満州に渡り、1945年8月に畑で農作業をしていたときに終戦の報を聞いた。たちまち生活が一変し、食料や仕事がなくなった。多くの仲間が飢えや寒さで命を落とし、旧ソ連軍や、現地の人から暴行も受けた。上村さんも仕事を探し回り、雪の中で倒れたときにある夫婦に助けられ、「生きて日本へ帰りなさい」と、飯ごうを渡された。生きるか死ぬかの状況を生き抜き、米軍の船で日本に戻った。

 紙芝居にはこうした実体験が上村さんの手記をもとに描かれている。上村さんは2021年に知人らと4人で「赤い夕陽グループ」を結成し、体験を語り継いできた。紙芝居の「赤い夕陽に」の題字と、表紙の絵は上村さんが描いた。これまで小学校や地域の公民館などで上演してきた。

 5日、紀の川市立西貴志小学校の児童を前に28回目の紙芝居が披露された。夏休み中の登校日だったが、平和学習の一環として6年生約50人が参加した。

 上村さんは体調を崩して参加できなかったが、グループ代表の木村百合子さん(76)が物語を朗読。児童はその声に耳を傾け、紙芝居に見入っていた。

 木村さんは紙芝居の後、上村さんが旧満州で受け取った飯ごうの実物を児童に見せた。そして、こう語りかけた。「日本のこの平和をずっと守っていかないといけません。それは若い皆さんが守っていくんですよ」
 紙芝居を見終えて、秦野柚咲さん(12)は「上村さんはしんどかったんだろうなと、つらさが伝わってきました」と話した。

 木村さんは「戦争を体験した人や体験を語れる人が少なくなっている。戦争の残虐さや悲惨さ、平和を守る大切さを多くの人に伝え続けていきたい」と訴えている。(松永和彦)
 【写真説明】
 上村正次さんが旧満州から持ち帰った飯ごうを児童に見せるグループのメンバー
 上村正次さんの戦争体験を伝える紙芝居に見入る児童=いずれも紀の川市貴志川町長原