2024/06/23 信濃毎日新聞朝刊
 研修受けた「語り部」阿智で講話 「あったことをないことにしたくない」

 阿智村の満蒙開拓平和記念館は22日、戦時下の満州(現中国東北部)に渡った開拓団の記憶を次世代が語り継ぐ姿を探ろうと、首都圏中国帰国者支援・交流センター(東京)の研修を受けた「戦後世代の語り部」による講話会を同館で開いた。戦後80年を前に体験者が少なくなる中、満蒙開拓の経験や記憶の継承の在り方を検討している一環。

 同センターは帰国した中国残留日本人らに向けた日本語教室などを開いており、2016年から厚生労働省の委託で「戦後世代の語り部」の養成講座を実施。満蒙開拓の歴史を知る授業や体験者への聞き取りなど3年間の研修を経て、これまでに13人が修了。全国各地で講演している。

 この日は研修を終えた1期生で、残留婦人の祖母をもつ巻口清美さん(58)=埼玉県=が話した。新潟県の柏崎開拓団員として渡った祖母シズさんについて、本人の手記や手紙を読み解きながら向き合い、自身の言葉にした。

 シズさんは敗戦後の逃避行で死を覚悟したが、子どもから「学校に行きたい、友達もほしい」と言われ「子の望みをかなえるのが親の役目なのに忘れていた」と目の覚める思いがしたという。子どもと共に生き延びるため、親切な中国人男性の妻になった。

 「自分の過去を振り返ると悔しくてなりません」とつづっていたシズさん。巻口さんは、国策に翻弄(ほんろう)された祖母や自身の人生の背景を知ろうと受講。「あったことをないことにしたくない」と歴史を語り続けるつもりだ。記念館は9月にも講話会を開く。