2024/06/18 信濃毎日新聞朝刊

 

 筑波大の伊藤名誉教授、佐久穂で経緯など解説 全国初の大日向の事例14年間調査

 佐久穂町公民館は16日、町生涯学習館「花の郷(さと)・茂来(もらい)館」で、戦時中に大日向村(現佐久穂町大日向)から満州(現中国東北部)に渡った分村移民の経緯を知り、記憶の継承を考える講座を開いた。町内で14年間調査した筑波大名誉教授の伊藤純郎さん(66)=伊那市出身=が講演。「全国初の事例として、大日向の分村は町内よりも町外で有名だ。町民も歴史を再確認し、伝えてほしい」と訴えた。

 大日向村は1938(昭和13)年から2年間で移民を送り出した。伊藤さんは、32年からの初期段階に渡った弥栄(いやさか)村開拓団などは農業経験のある在郷軍人が中心の武装移民だったため、襲撃されたり、ホームシックで退団者を出したりして「うまくいかなかった」と解説。「全国から団員を寄せ集めるのではなく、村を分けて片方を満州に送る分村移民が生まれた」とした。

 大日向村の分村移民が全国初となった要因については、主産業の鉱山採掘や炭焼きが資源の枯渇で衰退したことに加え、小学校建設を巡る横領事件で県から村長が送り込まれたためと分析。「村を立て直さないといけないという雰囲気が生まれて、満州移民に傾いていった」と説明した。

 町民ら約100人が聞いた。伊藤さんは「歴史を学び、現場を歩いて、記憶を継承してほしい」と呼びかけた。