2024/06/01 信濃毎日新聞朝刊 

 「タカの彫刻があるので、この辺りの市民は『タカのビル』と呼びます」。5月2日に記者が訪ねた中国黒竜江省ハルビン市で、重厚な造りの建物を前に現地ガイドが説明した。戦時中、日本の関東軍防疫給水部(731部隊)を率いた石井四郎の旧邸の隣にあり、部隊の出張所として使ったという。731部隊は旧満州(中国東北部)を拠点に細菌兵器開発を進めた。

 建物の説明板に、731部隊に関連する内容はなかった。ガイドは「731部隊の関係はイメージが悪い。中国人は細菌戦や毒ガス戦をすぐ思い出します」と言った。日本が事実上支配した時代の負の記憶を垣間見た。

 関東軍の特務機関、日本総領事館、731部隊の爆弾製造工場跡…。日本の傀儡(かいらい)国家「満州国」でも中心都市の一つだったハルビンには、当時の建物が随所に残り、かつての面影を伝えている。日本総領事館だった建物は現在、鉄道関係の貿易会社が利用。その地下室ではスパイ容疑者を拷問した―との話も伝わる。

 できたばかりの図書館を日本が接収して警察庁とした建物は、抗日活動家を「烈士」として顕彰する博物館になった。その人名を冠した「一曼街」「尚志街」といった名称の通りが市内には目立つ。民族独立のために命をささげた人の存在を忘れないよう、刻みつけているのだという。

 同5日、日露戦争後に日本が統治した旧関東州の遼寧省大連市。「東アジア一のロータリー。ここに街の中心が造られました」。大連長野県人会長の吉川俊介さん(57)=長野市出身=が放射線状に道が延びる「中山広場」を案内してくれた。そこには南満州鉄道(満鉄)が沿線主要都市で運営した高級ホテル「ヤマトホテル」や大連市役所、警察署など当時の建物が並ぶ。

 広場から少し足を延ばすと、満鉄の本社や病院、図書館だった建物が点在する。「満鉄が大きな権益を持ち、経済の中心を担っていたことが分かります」と吉川さん。現在もそれぞれ利用されている。