2018/05/21 毎日新聞 夕刊

 東京・練馬の介護施設に相部屋の人とも、職員とも話そうとしない女性(77)がいた。周囲が心配して頼ったのは、中国語による「語りかけボランティア」。女性は終戦時の混乱で親と離ればなれになった中国残留孤児で、56歳で日本に永住帰国した。話し相手が来ると、言葉があふれ出した。
 帰国した残留孤児の多くは75歳を過ぎ、介護施設で孤立する姿が目立つようになった。中国帰国者支援・交流センターの馬場尚子所長は「年を重ねるごとに身につけた日本語がはがれ落ち、中国語に戻っていく」と話す。
 センターは昨秋から介護施設に語りかけボランティアを派遣し、その多くを帰国者の2世や3世が占める。逃げ惑った終戦間際の記憶を泣きながら話すお年寄り。2世や3世は耳を傾け、自分の父母らの姿を想像するという。
 練馬の介護施設の女性は、中国語に堪能なセンター職員と話すうちに表情が緩んだ。「今度、娘がおいしいギョーザを作って持ってきてくれるの」。心を許してくれた女性の姿が、周囲の人々も笑顔にした。【木村哲人】