2018/05/14 毎日新/山形
「推薦したい人がいたのに公募を知らなかった」。ある中国残留孤児がつぶやいた。
県は4月5日、残留孤児の新たな支援策として設けた「中国帰国者相談センター」に配置する支援相談員3人をハローワークで公募。翌日午後2時には募集を取り下げた。
公募について県から事前の相談はなく、孤児たちは「支援を受ける自分たちの声を聞いてほしかった」と残念がった。相談センターの設置を評価する「中国残留帰国者山形の会」の佐藤安男代表(80)も、一方的に見える県の進め方に首をかしげた。「担当の部長、課長らが代わり、新たな信頼関係を期待していたのに」
県は、2016年度の残留孤児支援に対する国庫支出金746万円のうち324万円を不用額として17年度に返還している。残留孤児の国家賠償訴訟で県弁護団長を務めた加藤実弁護士は「国が手厚く支援しているのに、県が支援を縮小させ独自の支援策も廃止したのではないか」と疑問視する。ある県議は「約2年ごとに県の担当者が入れ替わるので、支援の意味が徐々に薄れてしまう」と嘆く。
これに対し、県は「支援の充実に取り組んでいる」と主張する。県地域福祉推進課の遠藤健悟課長は、3月から県内の残留孤児44人の家庭訪問を実施していることを挙げ、「まずは一人一人の状況を把握し、どんな支援が必要なのか、担当者全員で情報を共有して対応できる態勢にする」と説明する。今月8日までに24人の訪問を終えており、孤児全員の個人票を作成して支援の基礎資料にする考えだ。
さらに相談センターが県独自の予算措置(年間240万円以上)と強調。一方で支援相談員の公募については「切れ目のない支援を目指し短期間で相談センターを始めたので、趣旨が伝わりにくかった」と釈明した。
相談センターは4月17日、県嘱託職員として正式に採用された支援相談員3人がローテーションを組み、業務を始めた。当面は相談員1人と県職員1人が常駐する。4月の電話相談は20件、センターに直接来た相談対応は1件。病院への通訳の手配や、医療費などに関する相談が中国語であったという。
遠藤課長は「センターが支援の中核になるようにする。家庭訪問を契機に少しずつコミュニケーションをとりながら、信頼の回復に努めたい」と話した。
◇新体制への移行に不十分だった準備
中国残留孤児に対する支援事業の充実と見直しについて、県は2年前から検討してきたという。だが、実施1カ月前になっても当事者に新しい体制を具体的に提示できなかった。準備と説明の不足を指摘されてもやむを得ないだろう。
26年間、支援相談員兼通訳を担当した嘱託職員の雇用を更新しなかったことも、時間をかけて丁寧に説明すれば納得が得られたのではないか。残留孤児の多い長野県では、支援を担当する嘱託職員の雇用期限を5年と定め、雇用時に伝えているという。
取材を通じ、県には残留孤児との対話や日常的な信頼関係を構築する努力が足りなかったと感じた。今春発足した「中国帰国者相談センター」が支援充実に結びつくのか、期待を込めて見続けたい。【佐藤良一】
写真説明 定例記者会見で「中国帰国者相談センター」の設置を発表する吉村美栄子知事=3月27日、県庁で