2018/04/21 神奈川新聞 

 今書き残しておかなければの思いに突き動かされ、敗戦後の満州(現中国東北部)で望まぬ妊娠をした女性の人生をつづった本を、自身も引き揚げ者であるフリーライター鈴木政子さん(83)=藤沢市辻堂東海岸=が出版した。出来事の性質上、開拓団や人物の名は仮名を用いたが「本当にあったことを書いた。若い人に知ってほしい」という。 (青木 幸恵)

 タイトルは「語らなかった女たち 引揚者・七〇年の歩み」。敗戦時に10歳だった鈴木さん自身が見聞きしたことに、年上の女性たちの証言や、堕胎が行われた施設跡などを訪ねた記録、中国残留孤児との交流などを加えた。
 主人公のゆう子は当時17歳。開拓団の小学校校長だった父と母を戦後の襲撃と過酷な収容所生活で亡くし、ソ連軍や八路軍(共産党軍)の兵士に暴行され身ごもったまま、日本への船に乗る。福岡・博多で堕胎した赤ちゃんをずっと心に抱きしめながら、日中両国の戦争被害を少しずつ学び、82歳の生涯を終える。
 自分史に取り組むことから執筆活動を始めた鈴木さんは、これまでに3冊、満州での体験を基にした著書がある。40代で初めて出版した「あの日夕焼け」では、引き揚げまでにきょうだい4人を失った日々をやっとの思いで書き上げた。
 「書いてみて、収容所で病気の弟に思わず言ってしまった『早く死ねばいい』の言葉に自分が苦しんでいることが初めて分かった」と、振り返る。
 「あの日夕焼け」では幼い戦争被害者の視点だけで日本の加害に触れていないという批判も受けた。
 確かにもっと俯瞰(ふかん)した視点は必要だが、敵味方を問わず弱者を痛めつけるのが戦争-。その痛みをなかったことにしたくない。モデルとなることを了承して語ってくれた出来事、兵士たちによる暴行、幼子を手にかけた母親たちなどは、当時は意味が分からないなりに見聞きしていたことだった。
 「当事者が書き残すのが一番いいとは思うが、強制はできない。だからこそ、ぎりぎり状況を体感した自分が、聞き書きという形ででも伝えなければ」と語る。
 「語らなかった女たち」は本の泉社、1404円。

<以下写真説明>
「語らなかった女たち」を手にする鈴木政子さん=藤沢市辻堂