2010/06/17 毎日新聞  /奈良

 ◇「残留孤児」に学ぶ場提供--李洋(リヤン)さん(23)
 さまざまな理由で学齢期に義務教育を受けられなかった人たちが通う奈良市立春日中学校夜間学級(奈良市西木辻町)。日曜日は「中国残留孤児」につながる小学生たちでにぎわう。「残留孤児」2世で京都産業大外国語学部に通う李洋(リヤン)さん(23)は、この「日曜学習会」で子どもと触れ合う「先生」の一人だ。
 9歳だった96年、両親と弟の4人で吉林省から帰国、奈良市内の団地で生活をスタートさせた。ところが、中学生になった年、両親が中国に戻ることになった。環境の変化によるストレスから体調を崩してしまったからだ。「母は『家族全員で帰る』と言いました。けれど、僕は、一人でも日本に残って頑張りたい、と考えた」。奨学金を得ながら、一人暮らしを続けている。大学では音韻学を学び、仲間との自主学習会も活発に開いている。
 夜間中学の存在を知ったのは、親族が春日夜中に通うようになったから。しかし、学びたいと思っても、仕事の関係で通えない人たちがいる。「日曜学習会」はそんな人たちのために、4年前に始まった。「同じ経験をした者のほうが、課題は見つけやすい。先生方も一緒に、みんなでアイデアを出し合いながら活動しています」
 気になるのはやはり、自分と同様の環境で育っている子どもたちだ。「せっかく、両方の国の文化を受け継いでいるんやから、日本語しか話せないのはもったいない。僕も日々、新しい発見をしながら、一緒に成長していきたいと思っています」【山成孝治】
■写真説明 中国から帰国した子どもたちの「先生」を務める李洋さん