2008/09/10 朝日新聞秋田
中国で生まれ、育った蔡英武(サイエイム)さん(46)が、秋田市土崎港のポートタワー「セリオン」で、水ギョーザをつくって生計を立てている。吉林省から1200キロ先の母のふるさとに渡って11年。「両国が好き同士になれば」と日中友好を願っている。(矢島大輔)
「茶苑」と書かれた看板の下、4畳ほどの厨房(ちゅうぼう)に蔡さんは週6日立っている。細かく刻んだ豚、エビ、ニラを小麦粉で練った厚めの自家製皮で包み、鍋でゆでる。ふっくら丸みを帯びた形を崩せば、熱々の肉汁があふれ出る。
中国人の妻と高校3年の長男の3人で、八郎潟町の築30年の町営住宅で暮らす。生活保護費のほか、月4万~5万円の収入で生活している。
蔡さんの母菊地ミネさん(66)は五城目町出身。戦時中、満州(中国東北部)に移住したが、まもなく両親を失い、残留孤児に。中国人と結婚し蔡さんらを育て、94年、夫とともに日本に永住帰国した。蔡さんは北朝鮮近くの吉林省のガス会社に勤めていたが、「母にさびしい思いはさせられない」と97年に家族と日本海を渡った。
縫製工場や造園会社で働いたが、言葉が不自由でつらい思いをした。07年7月、中国残留邦人の支援者から「セリオンで店を出さないか」と誘われ、転身を決めた。
蔡さんの頭には中国にいた頃、毎年旧正月に母とつくった水ギョーザが浮かんだ。家族や親類が集まって爆竹や花火を見ながら、腹いっぱい食べたあの味――。
セリオンでは、女性にも食べやすいようにと、本来はたっぷり入れるニンニクを抜いている。5個にウーロン茶付きで210円。
秋田市新屋朝日町、元コックの高橋堅祐さん(61)は食材運びを手伝い、友人と食べに来るなど応援している。中国製ギョーザ中毒事件が起きたときは中傷する声も上がったが、常連客は「加油(がんばれ)」と励ましてくれた。土日は50皿を超え、売り上げはむしろ増えたという。
北京五輪開催中は、厨房から食堂のテレビを見上げ、中国選手と同じぐらい、日本選手を応援した。
「日本、中国いまは仲が悪いけど、未来はどっちも好き同士になればいいね」
ミネさんはひざを痛め、蔡さん宅近くで暮らす。蔡さんは母の大好きな大根や白菜をたっぷり入れた特製ギョーザを家でも作り親孝行している。夢は、長男を日本の大学に通わせること。「自分たちは苦しい生活をしたから、活躍してほしいね」
県福祉政策課によると、現在、県内の中国残留邦人は27人で、約6割が国の支援給付を受けている。蔡さんのような2、3世で来日した人は原則適用外だ。