2008/08/15 毎日新聞

 ◇米濱泰英(よねはま・やすひで)さん(63)
 中国残留孤児は誰もが知るが「戦後も中国から帰らず戦った人のことを知らず、それを書き残したかった」。「山西残留」は国民党の軍閥に組み込まれ、国共内戦を戦った日本軍将兵の一群を指す。軍命だったともされ、その数2600人。約550人が戦死した。眠っていた資料などから始終を調べ、訪ねあてた帰還元少尉の個人史をたどった。
 岩波書店の元編集者。終戦間際の1945年7月、山東省の映画館主の末っ子に生まれ、抱かれて引き揚げた。「残留孤児になっていたかもしれない」との思いから中国にこだわり、著作は定年後の目標だった。
 6人きょうだいの兄たちは、長崎ちゃんぽんの全国チェーン「リンガーハット」を創業し、立志伝中の人となる。80年代の急成長期に事業参画を促されたが、「畑違いが居てもいい」と我が道を通した。
 波風続く日中関係にあって、長女は上海で暮らす。さかのぼれば、旧満州(中国東北部)で郵便局長だった祖父から4代の縁だ。中国人留学生4人の身元引受人にもなった。「基本的には人と人とのつながりで、いい関係を築くしかない」。「もしかしたら自分も」の思いを共有する兄たちは支援を惜しまず、「次書は鉄道建設に携わった残留邦人の歴史発掘」と決めている。<文・小川敏之/写真・野田武>

 ■人物略歴
 引き揚げ後、鳥取市で育つ。一橋大中退。岩波書店では森鴎外らの全集を手がけた。千葉県在住。