刀剣の使用感に最も影響を与える装置は柄前です。柄前は、お刀と使用者をつなぐ唯一の装置なのです。

特に、武道や試し切りに用いる場合には、柄の良し悪しで使用感がまるで違います。



柄前の形状のことを柄成り(つかなり)などと言いますが、柄成りは刀剣一振り一振りによって、使用者一人一人によって、また使用法によっても形状が異なってきます。
さらに、製作する職人によっても、違う職人が同じ目的意識の元に製作した場合ですら、違いが生じます。
これは、職人の目的意識の違いや注力する視点が各々違う事に起因するからです。

鑑賞を主目的とする場合、形稽古を主目的とする場合、藁や竹などを斬る場合などなど、必ずしも設計が同じとは限りません。

工作上、刀剣の使用感を最も決定付ける工程は、柄下地の整形です。
柄下地にはホウの木を用いますが、木材も同じものは一つとしてありませんので、刀身との相性・形状から見た強度との兼ね合い・使用者様のご要望などを鑑みて、選択します。

最近、これぞ!というホウの木が少なく、何年も寝かした後に切り出してみるものの納得のいく木材にめぐり合えないことが続いています。

とはいえ、柄成りが定まった時のうれしさといったら、何ものにも代えがたい喜びに包まれます。
2015年3月28日(土)、東京都大田区にある長久山安詳寺にて、伝統文化イベントが開催されました。



当該イベントは、株式会社ガイアックス様が展開している伝統サポーターズが主催する、工芸職人のご紹介活動です。



当日は、私こと大塚も、講師として『刀剣のいろは』についてご案内させていただきました。



また、会場では竹工芸家の佐川さんが直接指導される体験教室も同時進行で開催されており、参加者の皆さんは充実したイベントを満喫していただけた事でしょう。



私が担当した刀剣講座では、基礎講座をはじめ職人の技術紹介や、実際に刀を使った武道を披露させていただきました。
駆け足ではございましたが、武家文化に楽しく触れられる切っ掛け作りになりましたら幸いです。

今後も継続的な伝統文化の紹介活動を続けてまいりますので、皆様お誘い合せの上お気軽にご参加下さい!今後とも応援の程、よろしくお願いいたします。
鍔の修復です。



この鍔は、江戸時代の名品です。
数百年かけて良い色に育った古色が、作品に趣きと気品を漂わせていたことでしょう。
ところが、素人さんの手により、完全に錆が除去されてしまっています。

元来日本人には、時代を帯びて美しさを纏った美に対する尊敬や敬意の念がありました。
それらを愛でることは最高の贅沢の一つとされ、そこに古美術品を大切にする日本人独特の文化意識が育まれてきたのです。その意識は、刀剣や刀装具にいたっても同じです。
特に錆を鑑賞する文化は、日本独自といってもよいのではないでしょうか。

時々、古美術品の価値をご理解いただけず、刀身の茎や刀装具の錆を鏡面仕様に磨き上げてしまう方がいらっしゃいますが、これはただの文化財破壊行為に他なりません。くれぐれもご用心下さい!

今回の鍔も、誤った扱われ方をされて、本来の価値が損なわれてしまっています。
ここ数ヶ月、付きっきりで面倒を見て、古色の再現を試みてきました。
やっと、錆が付いてきましたが、まだまだ本来の美しさを取り戻せていません。

今日までカタチを留めてきた古美術品には、必ず現代まで残った理由があり、大変貴重な価値を内包しています。
くれぐれも、ご自身の独断や自己解釈で、数百年の時代を経た日本人の心を傷付ける事のない様、お願いいたします。
武道の稽古から帰ると、ジブリ映画『かぐや姫の物語』が放送されていました。



はじめて見ましたが、とても作り込まれた大作です。
独自の解釈に奥行きがあり、大人が見ても楽しめます。

日本最古の物語「竹取物語」は、読むたびに目頭が熱くなります。
邪推かもしれませんが、作者(父親?)の娘への愛情がそこかしこに滲み出ていると感じるからです。

私は和歌や古典が大好きで、刀剣製作の合い間に暇さえあれば万葉集などを引っ張り出し、下校する生徒のごとく心弾ませて解釈を楽しんでいるのですが、中でもずば抜けて卓越した詩人は、紀貫之!
昨今の説にて、「竹取物語」の作者が紀貫之ではないか?とするものがあるのです。

紀貫之は、言わずと知れた古今和歌集の選者ですが、土佐日記と対になる名作が「竹取物語」なのではないか?とする考えには、私も大賛成です。

紀貫之の足跡を調べると、土佐の国司として、930年から934年までの4年間、転勤生活を送っています。
その間に愛娘を亡くしており、土佐日記の物悲しげな雰囲気は若くして旅立った娘への思いが投影されているといいます。

土佐日記の中で紀貫之がつづった歌の中には、娘への思いが詰まっているのです。

・寄する波 うちも寄せなむ 我が恋ふる 人忘れ貝 下りて拾わん
(ああ寄せる波よ、お前の力で記憶を奪うという忘れ貝を打ち上げておくれ、娘との日々を忘れられるなら、どんなに危険でも舟から降りて取りにいくから)

・住之江に 船さし寄せよ 忘れ草 しるしありやと 摘みて行くべく
(遠回りになってもいい住之江へ寄航しておくれ、娘との楽しかった思い出を忘れられるか、忘れ草を摘んで試してみたいのだ)

・生まれしも 帰らぬものを 我が宿に 小松のあるを 見るが悲しき
(いとしい娘が生まれたこの我が家、あの子が楽しみにしていた庭木の芽吹きを一人で見るのは悲しすぎる)

タイタニック号の沈没で、奇跡的に生還した少年が、のちに米国初となる自動車事故で亡くなり、その数奇な運命を嘆く母が人知れず残した、少年の体験をつづった悲しい絵本の存在を知りました。
なにか、「竹取物語」に同じ思いが込められているように思えてなりません。

震災によって子供を亡くした親の苦しみ・悲しみは、いくばくのものか計り知れません。
子を持つ親の気持ちは、何千年経とうとも、たとえ地球の裏側でも何一つ変わることはないのです。
初めて日本刀の魅力に触れる方向けに、二振りの研修刀を作りました!



刀剣鑑賞は大変奥が深く、初心の方には所作を覚えるだけでも一苦労です。

しかも、持ち主からすると、「刀身に触るのではないか?」、「唾を飛ばすのではないか?」、「不慣れな仕草で落としてしまうのではないか?」と気が気ではありません。
やっとの思いで手に入れた大切な愛刀ですから、乱暴に扱われたら誰だって怒ります。

最近では、一部の鑑定家や愛刀家の中にも雑な扱いをして人様のお刀をヒケだらけにしたり、傷付けてしまう不届き者まで現れる始末。

そこで、写真のような研修刀を製作しました!
ベースは模造刀ですが、中心仕立てを行い錆びつけを施しました。
また、切っ先でケガなどがおきない様に、横手から刃引きをしてあります。



一見、真剣の様にも見えますので、記念撮影や所作の勉強会などに、大活躍してくれることを期待しています。
刀剣を用いるイベントを開催される方や職方に貸し出しますので、お気軽にご相談下さい!
ちなみに、上は兼元クン、下は慶長クンと名付けました(笑)なんて・・・。
毎年恒例の税務署の往復です。
言わずと知れた確定申告ですが、この手の作業に滅法弱いこともものつくりの職人の特徴です・・・(多分)。

申告期限が迫っているため、今日も税務署は大混雑です。
相談窓口の税理士さん曰く、「例年明日はもっと混む」とのことでした。



そして、今日は日本国民にとって特別な日でもあります。
14時46分からの一分間、その場に居合わせた税務署職員や納税者が全員で黙祷をささげました。
短い本当に短い間でしたが、申請会場は静まりかえりただ時間だけが過ぎていきました。

生活は厳しいですが、今生きていることを感謝する気持ちを大切にし、犠牲になった方々のご冥福をお祈りしたいと思います。

また、今私たちに何が出来るのか、何をするべきなのか、もう一度考え直してみたいと思います。
製作中の拵えニ振り分の柄下地です。



一口に柄下地と言っても、個々に大きく異なります。その違いは、写真の通り一目瞭然です。

柄下地の形状(柄成り)は、刀身の形状・長さ・重さ・バランス、中心の形状・長さ、刀装具の選択などによっても大きく変わります。
写し拵えの場合には、掟や拵え全体とのバランス、本歌拵えとの兼ね合いも影響し、また、使用目的やご依頼者様の体型、身体的特徴に合わせた調整も必要です。

材料となるホウの木の選択では、一振り一振り最善のものを選ばなくてはならず、場合によっては材料の見えない部分に補強を施すこともあります。

その中にあってご指定の刀装具を持ち込まれる場合には、極力ご要望に沿う工作を施さなければなりません。
しかしながら、どうしても強度上の安全性が担保出来ない場合や刀剣の美意識から逸脱することがあり、そのような場合には工作が難しい旨を正直にお伝えしています。

それでも思い入れがあり、頑なに刀装具の変更を拒まれる場合には、ご依頼者様の承諾の下に不恰好であったり使用不可能な外装であってもお作りすることがあります。
何とも煮え切らない思いを抱えたまま作業を進める羽目になりますが、基本的に職人サイドが難色を示すケースは職人の感や経験を信じて頂くことをオススメします。

ちなみに写真の二振りは、ベストセッティングの柄下地です!まだまだ荒削りの状態ですが、たしかな手応えを感じます。
切羽の中心穴の補修です。



ご予算の都合に応じた工作を心がける場合、どうしても材料費の捻出に苦心します。
と言いますのも、拵え製作で最もコストがかかるのが材料費だからです。

最近特に多い問い合わせの内容は、拵え一式いくらでやるか?という金銭面の質問です。
確かに、最も気になるところかもしれませんが、材料費どころか白鞘すらも作れないようなご予算を提示されるとビックリしてしまいます。

模造刀の外装や武道具屋さんのイメージでご想像されていらっしゃるのだろうと思いますが、伝統工芸である以上、最低限の材料と専門技術をもって責任ある工作に挑んでいます。
当然、数日で出来上がるなど考えられません!
基本的には、刀身と外装は同価値というご認識をお持ちください。

今回も極力材料費を抑えるため、大き目の既製品の切羽を取り寄せました。
ところが、ご丁寧にも中心穴まで大きく開けられているのです。
このまま用いるにはブカブカですので、やむなく中心穴に責金?加工を施しました。
鍔の責金と違って、ロウ付けで完全に固定します。
また、修正時に全体に火がかかりますので、再度整形を行い、周囲にダンダラ模様風の加工を加えました。
結局、一から作った方が楽だったりします・・・(トホホ)。
昨年インドネシアで入手した砥石です。



粗砥の石目を抜くのに大変重宝します。

現地では、一つ100円程度の物ですが、日本ではなかなか手に入らない質感です。

世界中には、日本に劣らず鉄の文化が脈々とあるので、当然砥石もあります。
そんな世界各地の砥石の研究をしたら面白いでしょうね!
外装製作にて刀装具を持ち込まれる場合、特に柄縁の選択には注意が必要です。

これは、柄成(最も柄の形状や使用感に影響を与えます)が柄縁金具依存的に立ち上がり、拵えに表情を与えているからです。

特に現代刀など身幅が広く重ねが厚い造り込みの刀身に用いる場合、江戸期の平均的な柄縁(天板の直径が3.8cm程度)ですと、ハバキよりも小さい場合などもあり不恰好な拵えに仕上がります。



フリーハンドの概念図です。縁金具の天板の直径が4cmの物でも、テーパーのある金具と寸胴な金具とでは、完成後の外装が大きく異なります。
上の概念図は若干大げさですが、柄成ばかりか鞘の鯉口の径も、縁金具に依存していることがお分かりいただけると思います。

刀剣外装は、時代背景、地方色、製作時の所有者の好みによっても様々な形状があります。
さらに、写す場合は本歌拵の掟、刀身との相性、依頼者様の体型、お刀に拵えを着せた時のバランスなども考えなければいけませんので、よほどの幸運が舞い降りない限りネットオークションなどで入手した刀装具では使えない場合がございます。

ちなみに、時々武道に用いる拵えの刀装具(鍔など)を着け替えて楽しんでいらっしゃる方をお見受けしますが、こと工芸家が製作した柄前の場合は、鍔も拵えの一部としてファイナルセッティングを施している関係上あまり好ましくないと思います。
特に柄縁に関しては、大変重要な機能を有していますので、加工したり着け替えたりしないことをお勧めします。