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前回の記事はこちら → 俺様帝国＜9＞ ～Ｂ社～
【登場人物】
Ａ社 ．． Ｏ社の持ち株会社
朝倉さん Ａ社社長。実質的な黒幕
Ｏ社 ．． 元同じ会社の村松君が興した会社
村松君 Ｏ社社長。僕より先に辞めて会社を興した。
大浜さん 取締役専務・経理担当
金田君 会社を辞めた後、村松君の会社に入社。
菊間さん 事務一般
小泉さん デザイナー
桜井さん デザイナー
Ｂ社 ．． 出資会社の一つ
小泉さん Ｂ社代表取締役専務。後にＢ社の社長になる。
※2010年～2012年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
Ｂ社見学ツアーの後、特に変わった事は無く、元の日常が続く。
相変わらずレシートや領収書が多い。
品目は、ほぼほぼ家庭でのお買い物。
食料品や種類が圧倒的に多いが、衣類やレジャー用品など多岐に渡った。
それともこの会社は、お客さん先の手土産に、
犬用のトイレシートとか、お徳用バナナとか持って行くのだろうか．．
レシートや領収書は、村松君が「見てください」と言わんがばかりに、
机の上に広げてある。
Ａ社側に行く時、戻ってくる時、普通に目に飛び込んできて、
ついつい見てしまう。
罠かもしれないけど、好奇心が勝ってしまって．．
僕が見ていると、大浜さんが慌てて回収する、いつものパターン。
仕事は相変わらずだが、会社の方針がコロコロ変わるのが困る。
今後は〇〇に力を入れる！
と発表して、確かにその方面の仕事を取ってくるのだが、
起動に乗る前に、朝倉さんの気分が変わり、
〇〇は儲からんけん、今後は△△をする事にした！
と、朝令暮改的に方針が変える。
売り上げが伸びて行かないのも、納得できる。
僕の正社員の話しも、全く出なくなった。
人との約束を守らず、人には約束を守らせようとするし、
僕のモチベーションも低下気味で、なかなか上がらない。
方針がコロコロ変わり、振り回される事に嫌気がさして、
会社の方針の文句を言う人も出てきた。
そんなある日、朝倉さんに呼ばれた。
朝倉：
小泉さんが、うずらさんに頼みたい仕事があるらしいんですわ。
近日中に、一緒に行ってもらえませんか？
行き先は、Ｂ社本社ではなく、隣県にあるＢ社の工場。
小泉さんも合流して、その工場に向かうらしい。
小泉さんとは、１度話したいと思うけど、
朝倉さんが付いて来るのが、正直面倒臭い。
朝倉：
今度は前日に行って１泊します。
ワシは少し話をして帰りますけど、うずらさんは打ち合わせをしてもらって、
夕方の便で帰るようになります。
僕：
わかりました。
仕事の概要は、何も分からない。
でも、何か作って欲しい物があるらしい事と、
断る選択肢が無い事だけは、よく分かった。
当日。
朝倉さんと飛行機で某県某市へ。
小泉さん、Ｂ社社員さんと合流して、隣県の工場へ。
地図では近いけど、実際に行くと結構遠い．．
移動日当日は、仕事の概要の話を聞きつつ移動し、
工場の場所を案内してもらい、宿泊施設へ。
そこは、スーパー銭湯の様な、温泉宿泊施設。
小泉：
ここの温泉、結構ええんですよ。
誰を連れて行っても評判がよく、小泉さんもプライベートで、
よく利用しているとの事。
朝倉：
ほぉ！凄いですね！
部屋にも風呂はあるんですか？
小泉：
ありますよ。
でも折角だから、ゆっくり温泉に入ってください。
朝倉：
そうですね。そうします。
よかったですね、うずらさん！温泉ですよ！
ハイテンションな朝倉さん。
出資者の前だと、日頃の“俺様”は見る影もない．．
翌朝迎えに来るとの事で、この日は解散になった。
小泉さん達を見送り、部屋に行こうとしたところを、
朝倉さんに呼び止められた。
ちょっと．．と、ロビーの隅に連れていかれ、
真顔で話し始める．．
朝倉：
うずらさん、ワシ、こういう温泉には入れんのですわ。
僕：
温泉苦手な人とか、たまにいらっしゃいますよね。
朝倉：
それが、温泉は好きなんですよ。
ワシ、夏場でも、ずっと長袖でしょ？
僕：
そう言えばそうですね。
朝倉：
ワシ、前の仕事で、体中に紋々入れとるんですわ。
それで、人前では脱げないんですよ。
と言い、周囲に見えないように、腕まくりをした。
そこには、手首より少し上まで、びっしりと絵が．．
長袖のＹシャツの下も、しっかりと長袖のシャツを着こんでいるのは、
間違えても、入れ墨が透けないようにするために、着こんでたのか．．
朝倉：
ね？
あ！心配せんでくださいよ？
もう過去の事で、今はきれいサッパリ足洗ってますんで！
と、過去の武勇伝を色々と語って頂いた。
やっぱり．．
最初に会った時から、そんな感じはしていた。
目が、“ホンモノ”の目だもん．．
とは言え「分かってました」や「そんな気がしてました」とは言い辛い。
朝倉：
びっくりしたでしょ？
でもこれ、小泉さんには言えんのですわ。
あの人固いでしょ？
他の二人はどうでも良いんですが、小泉さんは会社で投資してくれてるし、
固い人なので、これがバレるとマズイんですわ。
僕：
全部ご存知で、投資して下さってるのかと思いました。
朝倉：
これ見せたら、誰も投資なんかしてくれませんからね。
知っているのは、村松君と大浜さんだけですよ。
金田君や、他の人達には言ってません。
あいつ．．
元その筋の人が、皆が皆「あれ？」と思う人じゃないのは知っている。
でも、この人は、少なくとも「会社経営」は向いてないように思う。
僕：
わかりました。
胸の内に留めておきます。
その後も少し話をして、この日は解散になった。
翌日、Ｂ社で話した後、僕は担当者を紹介され、打ち合わせに入る。
小泉さんは自分の仕事に戻り、朝倉さんは一足先に帰っていった。
打合せが終わり、担当者と雑談している所に、再び小泉さんがやってきた。
小泉：
遠いところご苦労様でした。
やって欲しい事、わかりました？
僕：
大体わかりました。
小泉：
実はね、朝倉さんから、追加出資を頼まれたんですわ。
Ｂ社は会社の事業の一環で投資していて、もう1000万に迫る額を
注ぎ込んでいるらしい。
結果も出てなく、経営安定化の目途も経っていないのに、
会社として、これ以上の追加出資は難しく、かと言って、
個人の資金を注ぎ込む気はないとの事。
小泉さんとしては、最大限に譲歩したのが、
何か仕事をしてもらい、仕事の対価と言う形で、お金を支払う
と言う事。
小泉：
言われるままポンポンお金出してると、朝倉さんにも村松君も甘えてしまって、
自分達で業績を改善しなくなるでしょう。
僕：
そうだと思います。
小泉：
だから、仕事をしてもらって、その対価を支払う．．
まぁ本来あるべき形にしよう思たんです。
僕：
わかりました。
小泉：
うちの内情を言えば、もう結構な額の出資になっているので、
失敗しました．．はマズいんです。
役員会でも指摘され始めましたしね。
なんとか売り上げが上がるように、うずらさんも力を貸してください。
僕：
大変ですね．．
事情は分かりました。
小泉：
それとね、早く うずらさんを正社員にしろと言ってるんですけどね、
朝倉さんが「いやもう少し．．」と言って、正社員にしないんですよ。
朝倉さんの話しと食い違う。
朝倉さんからは「出資者がウンと言わない」と聞いていたけど、
出資者本人が「はやくしろ」と言っていて、朝倉さんが渋っているらしい。
小泉さんは、増員に関する人件費の増加は認めていて、
不足するようなら何とかすると言ってくれているけど、
朝倉さんが、売り上げが上がらない事を理由に、正社員化を進めない．．
あの、タヌキオヤジ．．
僕：
ああ、そうなんですね。
いや、あと３ヵ月、あと２ヵ月と、ズルズル引き延ばされて、
最近では何も言われなくなったので、おかしいな？と思ってました。
約束守ってくれないのに、自分との約束は守らせようとするので、
モチベーションは下がってたんですよね。
小泉：
ああ、そうだったんですね。
ワシからまた話しますわ。
小泉：
ああ．．
それなら、うちの社員になりますか？
うちの社員になって、ウチから出向でＯ社に行った事にしても良いですよ。
それは有り難い！かなり有り難い！
地元なら、二つ返事で乗りたいけど、ここは飛行機だけでも１時間かかる。
万一Ｏ社が潰れた時に、色々面倒な事になりそう。
僕：
ありがとうございます。
その辺りも含めて、ちょっと考えさせてください。
あ、仕事はシッカリしますので！
小泉：
頼りにしてます。
今後とも、よろしくお願いします。
高速バス乗り場まで、社員さんが送って下さり、
バスと電車を乗り継いで、空港に到着。
空港に着く頃には、辺りは既に真っ暗。
疲れたな．．
色んな思いを抱えて、飛行機に乗った。
地元の空港に近付き、着陸態勢に入る。
夜景がどんどん大きくなり、滑走路が近付いてくる。
ドン！と、着陸の衝撃．．
帰った帰った．．と思った瞬間、再加速して離陸する飛行機。
高度が上がって行く．．
お客さんがざわめく中、流れる機内アナウンス．．
みまさま、当機は一旦着陸いたしましたが、
管制からの指示で再び離陸、上昇致しました。
しばらく上空にて待機し、管制からの指示を待ちます。
何があったの！？
もしかして、空港にトラブルがあって、他の空港に行ったりするの？
帰りはどうなるのかな．．
家族へのメモは書かなくて良さそうだけど．．
その後飛行機は、10分程度空港上空を旋回した後に、
無事に着陸しました。
やり直しの理由のアナウンスは無かった。
朝倉さんからの、突然のカミングアウト。
会社のトップと出資者での、見解の相違。
飛行機の、突然のタッチ＆ゴー．．
色んな事があった出張でした。
続く
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