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前回の記事はこちら → 俺様帝国<8> ~丼とザル~
 
 
【登場人物】
 
A社 .. O社の持ち株会社
 朝倉さん  A社社長。実質的な黒幕
 
O社 .. 元同じ会社の村松君が興した会社
 村松君   O社社長。僕より先に辞めて会社を興した。
 大浜さん  取締役専務・経理担当
 金田君   会社を辞めた後、村松君の会社に入社。
 菊間さん  事務一般
 小泉さん  デザイナー
 桜井さん  デザイナー
 
B社 .. 出資会社の一つ
 小泉さん  B社代表取締役専務。後にB社の社長になる。
 
 
※2010年~2012年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
 
 
朝、会社で待ち合わせをして空港へ。
 
飛行機に乗り、某県某市に到着。
 
道中は特に変わった事は無く、会話も至って普通の雑談。
会話の主導権は朝倉さんが握り、僕は基本的に答えていただけ..
 
色々聞きたい事があったけど、余計な事まで聞いてしまいそうだったので、
主導権を握ってくれたのは、楽で良かった。
 
 
空港を出ると、小泉さんとその社員さんが、迎えに来てくれていた。
B社の車に乗り、早速移動。
 
B社への道すがら、軽く観光案内までしてくれて、僕はすっかり観光気分。
昼食を摂りに、朝倉さんお勧めのお店に立ち寄った。
 
朝倉:
 ワシ、ここに出張で来たら、いっつもこの店に寄りよるんですわ。
 
普通に庶民的なお店で、少し安心。
 
お店に入り、皆それぞれ、思い思いに頼むが..
 
朝倉:
 うずらさん、この土地は初めてですか?
 
僕:
 初めてです。
 
朝倉:
 じゃあ、これを喰って下さい!うまいんですよ!
 
と教えてくれたのは、この土地の名物で、全国的に有名な物。
そして僕が、ただの1度も美味しいと思った事がないもの。
しかも高い..
 
僕:
 あー..
 僕、それちょっと苦手なんですよね。
 
ここで「美味しいと思った事がない」など、
食べられない訳ではない感じの事を言えば、
 
 「ここのはウマイ!」
 「騙されたと思って!」
 
と勧めてくると思ったので、苦手路線で押してみたが..
 
朝倉:
 いやいや、うずらさん。
 本場のは食べた事無いんでしょ?絶対ウマイんで、是非食べてください!
 
僕:
 あー..
 本場のだと違うと思うんですけど、やっぱりちょっと苦手で..
 
と、半ば強引に、別の物を頼んだ。
 
朝倉:
 まぁ、それもウマイんですけどね。
 
ん?テンションダウン?
 
食事中は、他愛のない話。
 
会計は、個人か会社別で..と言っていた小泉さんを抑えて、
朝倉さんが支払った。
ま、これは接待交際費か..と、ちょっと納得。
 
 
食後、改めてB社へ。
 
そこは、とある超大企業の一次下請けの工場。
県内や近県に、支店や工場が沢山ある、結構な大企業。
 
ざっと社内や工場を案内されて、会社のパンフレットまで頂いた。
特に仕事の話がある訳でもなく、普通に会社見学状態。
 
ひと通り見学が終わり..
 
小泉:
 私はこれから仕事があるので、ちょっと失礼します。
 帰りの飛行機まで、暇だと思いますけど、ゆっくりて下さい。
 時間になったら、誰かを寄越します。
 
朝倉:
 すみません。
 よろしくお願いします。
 
会議室に、朝倉さんと二人..
 
朝倉さんも僕も、仕事はないのだろうか。
本当に、ただ単に、出資者の会社を見せたいがために、
飛行機代出してまで、僕を連れてきたのか..
 
何か裏がありそうで怖い。
 
 
朝倉:
 どうですか?凄いでしょ?
 
すごい..のか?
 
前々職時代に、もっと自動化が進んだり、もっとハイテクな
生産ラインの設備開発の仕事をしてきたので、正直あまり凄いとは思わない。
むしろ、古めかしいと言うか、前時代的というか..
もっとこうすれば良いのに..と思う所が結構あった。
 
全般的には、
 
 まぁ、こんなもんかな?
 
と言うのが、正直な印象だった。
 
が..
 
ここは出資者様の会社。
それを得意げに自慢する朝倉さんの、気分を害する訳にもいかない。
 
僕:
 凄いですねぇ。
 僕、工場とか好きなので、面白かったです。
 
朝倉:
 こんな工場が、沢山あるんですわ。
 
僕:
 へー。
 凄いですね。
 
朝倉:
 今日は、出資者の会社がどんな所か見せたくて、来てもらったんですよ。
 
え?
 
本当にそれだけの目的で?
2人分の航空券買って??
 
そんな経営するから、利益が上がらないのでは?と思ってしまう。
放漫経営だなぁ..
 
僕:
 ありがとうございます。
 
朝倉:
 これだけの規模の会社がバックにいますので、うちの会社は大丈夫です。
 さっきも、うずらさんの居らんところで、
 
  「資金が足りなくなったら、いつでも言うように。」
 
 言われたんですわ。
 今はまだ軌道に乗ってなくて、ぎりぎりで経営している状態ですけど、
 こんなバックが居るので、会社が潰れる事はありません。
 
 出資者の他の二人は、ちゃらんぽらんですけど、小泉さんはしっかりされていて、
 時々会社の経営もチェックされてるんですわ。
 
僕:
 はぁ..
 
朝倉:
 会社の売上以外の資金の動きもチェックされているので、
 変な事していると、すぐに指摘が入るので、下手な事出来ないんですよ。
 
わははははと笑う朝倉さん。
 
朝倉:
 彼らも出資している以上、回収しないとマズイので、出資は続ける思いますし、
 うちも健全な経営しないと怒られるので、そこは安心してくださいね?
 
僕:
 わかりました。
 
これが言いたかったのかな?
でもそれなら、こんな所に連れて来なくても、会社で言えばいいのに。
 
村松君や金田君から、何を聞かされたか知らないけど、
あの領収書やレシートを見て、僕がマズい動きをしないように、
やんわり釘を刺そうとしてるのかも知れない。
 
 
飛行機の時間が近付き、社員の方が迎えに来て下さった。
 
社員:
 そろそろお時間ですので、空港までお送りします。
 
朝倉:
 仕事中に、すみませんね。
 
社員:
 それと、しばらく先になるのですが、うずらさんにやってもらいたい
 仕事があるので、そのうち相談させてくださいと、小泉が言ってました。
 
僕:
 あ、はい。わかりました。
 
朝倉:
 うずらさん、凄いじゃないですか!
 来ただけで仕事の話を取って、大手柄ですよ!
 
見学中に、この社員さんと、生産ラインの事で話をしていて、
 
 「こうしないんですか?」
 
みたいな事を聞いたのが、小泉さんの耳に入ったのかな?
この会社にも、生産技術みたいな部署はあるだろうに..
 
帰りの飛行機の中でも、朝倉さんは終始ご機嫌だった。
出資者の会社から仕事を貰える事が、余程嬉しかったらしい。
 
 
ひとまず、海に沈められる事も、山に埋められる事もなく、
無事に帰って来れた。
 
あの会議室での朝倉さんとの会話が引っ掛かる。
 
あのレシートや領収書の事を誤魔化そうとしているのか..
 
ま、次の会社が決まるまでの辛抱。
余計な事も何もせず、いい子ちゃんで過ごして、
ある日突然辞めようと、固く心に誓った。
 
 
続く
 
 
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