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前回の記事はこちら → 沈みゆく船<4> ~交渉~
 
 
【登場人物】
 土井さん  社長
 三島さん  専務
 片山さん  部長・元某大手通信会社部長
 宮川君   営業マンからの転職
 畑野君   弱電技術者からの転職
 小林君   自宅の商店のお手伝いからの転職
 金田君   奥さんの実家稼業からの転職
 藤原君   引きこもりからの脱出
 
会社弁護士
 松野さん  会社の顧問弁護士
 
M社 .. N社案件の窓口になってくれている会社。
 宇和さん  M社部長
 
 
※2009年~2010年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
 
 
未払金の初回支払日。
口座を確認すると、問題なく入金されていた。
 
振込手続きをしたのは三島さんだろうけど、
社長はさぞかし、腹立たしい思いなんだろうなと思う。
 
 
仕事を探しているけど、なかなか見付からない。
圧倒的に、年齢制限に引っ掛かる。
 
困った。
 
過去のつてを頼るか、宇和さんに頼るか..
でもまだ、もうしばらく自力で頑張る。
 
 
そんなある日、金田君から電話がか掛かってきた。
 
金田:
 うずらさん、今何してるんですか?
 
僕:
 ぶらぶらしよるよ。
 
金田:
 未払金請求したじゃないですか。
 社長がカンカンで、うずらさんが会社をここまで追い込んで、
 そのせいで、俺らに給料払えんと、毎日のように言ってますよ。
 
僕:
 あーそうなん?
 想像つくなぁ。極悪非道になってそうやね。
 
金田:
 諸悪の根源みたいに言われてます。
 給料がずっと止まっているのも、仕事が入って来ないのも、
 全部うずらさんの責任になってます。
 
社長が言いそうな事だな。
 
色々と、会社の状況を教えてくれた。
 
事務所を追い出される事になり、家賃の安い事務所に引っ越すとの事。
相変わらず仕事はなく、みんな適当に遊んでいる事。
そして、あれからも給料は止まっていて、遅れるとの説明も無い事。
そんな状況に、誰も意見や文句を言わない事..
 
僕:
 相変わらず、大変やね。
 
金田:
 まぁ、仕方ないっすよ。社長がアレですもん。
 
力なく笑う金田君。
 
金田:
 あ、そう言えば、片山さん辞めましたよ。
 
僕:
 そうなん?
 
金田:
 うずらさんが辞めて、すぐでした。
 例の如く、社長がボロカスに言ってましたが。
 
片山さん..
まともに給料もらえたのって、何か月あるんだろう。
殆ど給料もらってないんじゃないかと思う。
 
金田:
 それと、村松君が会社興したの知ってます?
 
僕:
 え?そうなん?
 
村松君..
 
数少ない円満退社の一人。
起業の夢を語り、1か月分の給料を放棄して辞めた。
 
ついに会社を興したのか..やるなぁ。
 
金田:
 でね、手伝ってくれないかって、言われとるんですよね。
 
僕:
 おー、ええんじゃない?
 何の仕事しよるんか知らんけど。
 
金田:
 俺も詳しくは聞いてないんっすけどね。
 
僕:
 他の皆も?
 
金田:
 いや、俺だけなんです。
 だからちょっと気が引けて..
 
僕:
 周りの事は気にせんでええんじゃない?
 僕なんて、会社見捨てて逃げた挙句に、未払金請求までしたけんな。
 
金田:
 諸悪の根源ですからね!
 
僕:
 ところで、未払金どうするん?
 
金田:
 どうせ、会社にカネ無いんでしょ?
 
僕:
 月々多少の収入はあるけん、分割なら応じてくれるかも知れんよ?
 僕の支払いが終わってからになるかも知れんけど。
 請求してみる?
 
金田:
 いや、なんかもう交渉するのも面倒なんで..
 
僕:
 お金は大事よ?
 
金田:
 そうなんっすよね..
 でも、いま会社で使いよるパソコンもらえたら、それでチャラにしようかな..
 いうて考えよるんっすわ。
 
かなり型落ちの、中古市場で1万円もしないパソコン。
それで、数か月分の未払い給料と引き換えるには、割が合わなさすぎる。
 
僕としては考えられないけど、生活が掛かっていないと、
そんな考えになってしまうのかな..
 
僕:
 幾らかでも貰ったら?
 割に合わんじゃろ。
 
金田:
 いや、もうええっすわ。
 それより、あの社長とサッサと手ぇ切って、関わりを持ちたくないんっすよね..
 
それは分かる気がする。
絡まれると面倒臭い。
 
僕:
 奥さんは?
 
金田:
 好きにしたら?で放置ですわ。
 
力なく笑う金田君。
家ではさぞかし、辛い思いしてるんだろうな..
 
その後少し雑談して、電話を終えた。
 
 
更にしばらく経ったある日、再び金田君から電話があった。
 
 会社を辞めて、村松君の会社に入った
 未払い賃金は、パソコン一式を貰えたので、チャラにした
 
との事。
 
金田:
 でも、辞める時に、誓約書書かされましたよ。
 
僕:
 在職中に知り得た情報は、外部に漏らしません..みたいな?
 
金田:
 いえ..
 
 “未払い給料の支払いとして、パソコンを受け取りました”
 みたいな、パソコンの受領書と
 “今後一切、未払の給料を含む金品の請求は致しません”
 みたない事が書かれてあった誓約書に、署名捺印です。
 
大笑い。
そこまでするか。
 
僕が未払金の請求するなんて、夢にも思ってなかったんだろうな。
油断した時に請求が来て、頼りの松野さんにも支払うように説得されて、
よほど堪えたと見える。
 
金田:
 でも、パソコンもらえたので、俺は満足っすよ。
 
僕:
 まぁ、金田君がそれでええのなら、ええんじゃない?
 
金田:
 あ、それとね、うずらさんもウチに来ませんか?
 村松君も来て欲しいと言ってますよ。
 
僕:
 うーん..
 まぁ、もうちょっと自力で探してみて、ダメなら頼もうかな。
 
金田:
 分かりました。言うときます。
 
 
村松君が興した会社の事を色々聞く。
 
村松君の“上”がいるらしい。
会社を興す時に世話になったらしいとか..
村松君、騙されてないと良いけど。
 
 
会社は、更に2人減った事になるのか。
 

人数が減り、家賃の安い所に転居して、毎月の赤字幅も随分減ったけど、

今更もう、どうにもなるまい..

 
 
続く
 
 
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