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【登場人物】
 土井さん  社長
 三島さん  専務
 片山さん  部長・元某大手通信会社部長
 内海君   僕と同期の中途採用組。
 宮川君   営業マンからの転職
 畑野君   弱電技術者からの転職
 小林君   自宅の商店のお手伝いからの転職
 金田君   奥さんの実家稼業からの転職
 藤原君   引きこもりからの脱出
 イー君   中国から来た元料理人
 
M社 .. N社案件の窓口になってくれている会社。
 宇和さん  M社部長
 
 
※2006年~2009年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
 
 
会社は、社長と三島さんの、個人資産を会社に注ぎ込んで、
ギリギリ運営している状態で、いつ潰れてもおかしくない。
 
我々社員は、最悪「あーあ」で済むけど、多額の負債を抱えた二人は、
それで良いのだろうか..
回収したいのなら、手堅く経営した方が良いのではないか..
 
 
三島さんと喫茶店で話した翌朝、携帯が鳴って目が覚めた。
時刻は午前4時50分。電話の相手は社長だ。
 
電話を取った瞬間、
 
社長:
 おまえ、何考えとるんぞ!
 
第一声で怒鳴られる。
寝起きの頭には、結構きつい。
 
怒り心頭の社長。
なぜいきなり怒鳴られたのか、理解が追い付かない。
 
僕:
 なんの事ですか?
 
社長:
 お前昨日、三島さんと二人で話したろが!
 
ああ、三島さんから再建計画の話を聞かされたのかな?
リストラに僕が同意したとか聞いて、怒ってるのかな?
この時はそう思った。
 
僕:
 はい。話しました。
 
社長:
 何話したんぞ!
 
僕:
 会社の事ですよ。
 給料が止まって申し訳ないとか、社員の状況とか..
 
社長:
 それだけじゃなかろがや!
 
僕:
 会社を立て直すにはどうすべきかみたいな事も、話しましたねぇ。
 
社長:
 他には!
 
僕:
 それだけです。
 
社長:
 それだけじゃのに、どうして喫茶店でなんか話したんぞ。
 会社の話じゃったら、会社でしたらよかろがや。違うんか!
 
僕:
 知りませんよ。
 三島さんもクビになってる状態だし、話の内容的にも、
 社員に聞かれたくなかったんじゃないんですか?
 
社長:
 そしたら、事務所の外で話せば済む事じゃないんか!
 喫茶店に行く必要なんか、なろがや!
 
なんだろう、この人。
僕と三島さんが、喫茶店で話をしたのが、そんなに気に入らないのだろうか。
 
僕:
 外だと、タバコ休憩とか飲み物買いに出た社員に、
 話聞かれるかも知れないから、場所変えたんじゃないですか?
 
社長:
 会社以外の話しもあるけん、喫茶店なんかに行ったんじゃろが!
 
僕:
 会社の事しか話してませんよ。
 
社長:
 本当か?嘘じゃなかろうの?
 
僕:
 嘘じゃないですよ。
 
少しの沈黙...
 
社長:
 お前..
 ワシと三島さんが付き合いよるんは知っとろが。
 
僕:
 知ってます。
 
社長:
 ワシから三島さんを奪おうとしよるんじゃないんか!
 
僕:
 え..
 
なに?どう言う事?なんでそうなるの?
思いもしていなかった展開に、頭が付いて行かない。
 
戸惑って、言葉が途切れた僕に、社長が畳みかけてくる。
 
社長:
 図星か!やっぱり三島さんを奪おうとしよるじゃろがや!
 「社長に見切り付けて、俺と付き合え」とか言いよるんじゃないんか!
 あののぉ!お前に三島さんは渡さんぞ!
 
いやいやいやいや、ちょっと待って。
再建計画で怒り狂っての電話かと思ったら、
嫉妬に狂った社長が、自分を抑えきれずに掛けてきた電話?
大丈夫か?この人。
 
僕:
 いや、そんなつもりはありませんよ。
 どしたらそういう発想になるんですか?
 
社長:
 お前と三島さんが、ワシに隠れてコソコソ喫茶店なんかに行くけんじゃろが。
 
僕:
 それ、三島さんから聞いたんですか?
 
社長:
 違わいや!
 ワシがこの目で見たんじゃがや!
 たまたま通り掛かったら三島さんの車があって、
 店の中見たら、お前ら二人が、笑いながら話しよるじゃないか!
 仕事の話しじゃったら、なんであんなに笑えるんぞ!
 ワシは見とるんぞ!これ以上の証拠なんか、なかろが!
 
僕:
 本当に、仕事の話以外は何も話してませんよ。
 
社長
 そんなもん信じれるか!
 お前が口説きよったけん、あんなに笑うて話しよったんじゃろがや!
 
僕:
 口説いたりなんかしてませんよ。
 僕も既婚者なので、その辺は弁えてますよ。
 
社長:
 ワシも、嫁も娘も居るんじゃがや!
 
この人は...何を言っているんだろう...
 
自分が不倫しているから、僕も不倫に走ったと?社長の相手を奪って?
なんなんだ?この人。
 
僕:
 そうしたら、お店の人にでも聞いてみてくださいよ。
 どんな話していたか、聞いてみたら良いじゃないですか。
 何もないのに、憶測でここまで言われるのは心外です。
 
社長:
 お前も三島さんのように、クビになりたいんか!
 
僕:
 クビならクビで良いですよ。不当解雇で動くだけです。
 
 そもそも、三島さんを取られたくないのなら、いちいちクビになんかせずに、
 シッカリ捕まえておけばいいでしょう。
 これだけ振り回されても、社長に付いて来てくれる人なんて、いませんよ。
 
僕も...何を言ってるんだろう..

僕とこの人は、朝っぱらから何の話をしてるんだろう..

 
話をするのが、どんどん馬鹿らしくなってくる。
でも、この言葉から社長がトーンダウンした。
 
社長:
 ...本当に何もなかったんか?
 
僕:
 今の社内の雰囲気や、遅れている給料の話をして、
 会社と社員の行く末の心配を、三島さんとしていただけです。
 他に何もありませんよ。
 
社長:
 嘘じゃなかろうの?
 
僕:
 三島さんにでも、喫茶店の人にでも、
 誰にでも聞いてみたら良いじゃないですか。
 
社長:
 まぁ、喫茶店から出たら、すぐに事務所に帰ったしの..
 次から三島さんと話す時は、会社で話せよ!
 ワシに黙って、二人でコソコソ、喫茶店に行ったりするなよ!
 
つけてたの?
喫茶店からずっと、見張ってたの?暇なの?
他にすべきことが、沢山あるでしょうに..
 
僕:
 わかりました。
 それならまずは、三島さんを復帰させてくださいよ。
 クビになる度に給料が止まって、みんな困ってるんですよ。
 
社長:
 わかった。
 最後に言うとくが、今度三島さんにちょっかい掛けたら、許さんけんの!
 お前が一生、安心して夜道を歩けんようにしてやるけんの!
 
まったく..どこのヤクザだよ。
昭和の任侠映画の見過ぎじゃないのか。
 
僕:
 何もしませんよ。
 
 
やっと電話を終えた。
 
時計を見たら5時30分。
横を見たら、妻が目を覚ましている。
 
妻:
 何の話し?
 
僕:
 僕が三島さんを略奪した事になってたらしい。
 
妻:
 三島さん言うて、社長の彼女の?
 
僕:
 そう。
 「僕たち私たち、付き合ってまーす」
 の三島さん。
 
妻:
 「大切な人から貰った指輪でーす」の?
 
僕:
 うん。
 
妻:
 その三島さんを?あんたが略奪ぅ?
 
大笑いする妻。
 
それにしても、朝っぱらからどっと疲れた。
そのまま起きていたので、寝不足で出勤する羽目になった。
 
 
 
 
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