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【登場人物】
 土井さん  社長
 三島さん  専務
 内海君   僕と同期の中途採用組。
 広田君   元々会社に居た人。唯一の常識人。
 小田さん  N社で一緒に仕事。車椅子使用。
 宮川君   営業マンからの転職
 畑野君   弱電技術者からの転職
 小林君   自宅の商店のお手伝いからの転職
 朝日さん  同業種からの転職
 金田君   奥さんの実家稼業からの転職
 村松君   フリーターからの卒業
 藤原君   引きこもりからの脱出
 イー君   中国から来た元料理人
 
M社 .. N社案件の窓口になってくれている会社。
 
 
※2006年~2009年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
 
 
仕事はポツポツあるものの、基本的には暇な状態が続いている。
 
イー君に加えて、OJT3人組..
 
やって貰う仕事が何もない。
 
 
OJTの3人は、ある程度の基礎はあるけど、仕事を任せるには心許ない。
簡単な仕事から少しずつ経験を積んでもらえれば良いけど、その仕事が無い。
 
さて困った。
何をやらせるべきか..
 
そもそも“他社さん”とは、どんな話になっているのだろう。
どんな技術を習得させる事になっているのだろう。
 
 
そもそも、彼ら3人用の机もパソコンもないので、
ひとまず作業台を机代わりにしてもらい、使わないサーバー機を
パソコンとして、1台を3人で共用してもらう事にした。
 
ひとまず、何か課題を出して作ってもらおう..
 
少し頑張らないとできないような課題を出して、ひとまず様子見。
そして、詳しい話を聞くべく、社長と話す。
 
僕:
 彼らは、何の技術の習得のために、日本に来たんですか?
 
社長:
 プログラムよ。
 
僕:
 プログラムにも色々ありますが、どんなジャンルですかね。
 
社長:
 何でもええけん、開発を教えてやってくれ。
 
何でもと言われても、範囲が広すぎて絞れない。
それぞれ希望のジャンルがあるだろうし、目指す物があるはず。
それに、“他社さん”の方針もあるだろう。
 
どんなジャンルの開発か、他社さんはどんな仕事をしているのか
色々聞こうとしても、
 
 「なんでもいいから、とにかく教えろ」
 
で終る。
何でもいいのなら、そこらのパソコン教室に行って欲しい。
 
社長:
 あー、ほうじゃ。
 お前には、ワシの狙いを話とこうかの。
 
社長:
 ワシの知り合いの会社に、中国企業と取引のある会社があっての、
 毎年何人か、OJTで迎えて技術を教えて、国に帰しよるんじゃが。
 それで彼らに、日本の仕事を委託しよるんじゃがや。
 
僕:
 オフショア開発ですか?
 
社長:
 ほうよ。
 ワシはずっと前から、オフショアをやろうと思いよっての。
 話しを聞きよった社長と意気投合して、あの3人を回してもろたんじゃ。
 
社長:
 あいつら育てて国に帰して、ウチの仕事を彼らにやらすんよ。
 海外の安い賃金で、ウチの仕事がでる事になろが?
 ほしたら、ここに居る連中より経費が掛かるまいが?
 
突っ込み所しかない。
いつもいつも、浅はかすぎる。
 
僕:
 まずは、技術を身に着けさせるための、仕事がないんですけど?
 
社長:
 仕事はワシに任せとけ。
 いま丁度ええ案件の話があっての、先方も良い感じの反応なんじゃ。
 それにもうひとつ、ワシに考えがあっての。
 もうじき発表するけん、それまでなんとか凌いでくれや。
 
もう、訳が分からない。
 
 
そんな話をした数日後。
社長が全員を集め、突然の方針変更を打ち立てました。
 
社長:
 我が社はこれから、新しい道を歩み始めます。
 請負ばかりだと、いつ仕事が入るか分からず、仕事が不安定です。
 そこで、我が社は下請けから脱却して、メーカーになる事にしました。
 これから、自社製品の開発を始めます。
 
仕事が無く、経営が厳しくなると、自社開発に乗り出す..
この業界では、ありがちな展開。
 
前の会社も、経営が厳しい時に、自社製品の開発を打ち出した。
ただその時は、大雑把ながらに方針や計画があり、売上予測が
大きく外れなければ、開発を支えられるとの試算もできていた。
 
きっとこの人、試算も何もしていない。
ただの思い付きで言っているだけ。
 
前の会社の方が、まだ随分マシだなぁ..と思いつつ聞いていると、
気持ちよ演説をした後に、
 
社長:
 まずは、何を作るかみんなで相談して、ワシの所に提案に来い。
 ワシが審査をして、スタートするかどうかを決める。
 
企画立案して、社長にプレゼンは良い事だけど、
社長の発想は、恐らくそうではない。
 
 なにかで見てカッコいいと思った
 どこかで聞いてカッコいいと思った
 失敗したら社員の責任、うまく行けばワシの手柄に出来る
 
おそらくこんな所。
きっとここに居る大半の社員が、同じ事を考えているはず。
 
 
前の会社や、その前の会社での、自社製品開発の持出して、
ゼロからの自社製品開発がどれだけ大変か、具体的に話したが、
納得してくれる社長ではない。
 
僕:
 今の仕事量だと、開発費用を支えきれないように思いますが?
 
社長:
 開発の計画書を作って、それを持って銀行に行けば、
 カネは幾らでも貸してくれるんじゃがや。
 そんな事も知らんのか?
 
銀行も審査するだろうから、計画性のない物に融資が下りるとは思えない。
 
なにより、会社は既に、銀行から新規融資を断られている事を、
僕は知っている..
 
社長:
 まぁ、カネの事は心配するな。
 ワシが何とでもするけん大丈夫じゃ。
 ワシが一声言えば、銀行は嫌と言いわんけんの。
 
僕:
 お金は社長にお願いするとして、最後にズッコケないようにするために、
 市場やトレンドの調査は必要かと思います。
 
社長:
 そんなもんは必要ない。
 売れる物を作ればいいだけの話しじゃろが。違うか?
 ワシはそのために、今のメンバーを揃えたんじゃが。
 
今のメンバーは、頭数を揃えればスタートする案件があると言って、
募集した筈だが、この人はそれを忘れているのだろうか。
 
何をどう話しても水掛け論にしかならず、
徐々に社長がヒートアップし、僕への罵倒が始まる。
最後には
 
社長:
 とにかく急いで売れるモンを作らないかんのじゃがや!
 まずは明日の夕方までに、最低1つは提案せいよ!
 
と言い残して、三島さんと共に会社を出て行った。
 
 
仕方なく、全員で相談し、幾つか案を打ち出して、
簡単だけど資料を作って、社長に提案するも、あっさり却下。
 
その後も、幾つも案を出すものの、色々と難癖を付けては潰され、
いつまで経っても社長OKが出ない。
 
資料を最後まで見て、最後まで話を聞いてくれて野却下なら良いけど、
 
 表紙を見ただけで却下。
 資料のページ数が少ないと言っては却下。
 読みもせず、ペラペラっめくって却下。
 
そんな事ばかりが続く。
判断基準が全く分からない。
 
 
OJTの3人や、イー君、他のメンバーの指導しつつ、

来る日も来る日も無駄な相談と資料作成。

 
社長もだんだんイライラしはじめているのが分かる。
 
以前のように、僕が無能だから決まらないと言われ始めたので、
社長に投げ返してみた。
 
僕:
 それなら社長。
 社長のアイデアをお聞かせいただけませんか?
 
社長:
 ほうじゃの。
 お前らじゃあ、ロクなアイデアが出てこないのはよーくわかった。
 近日中にワシが案を幾つか出して、見せてやる。
 その代わり、ワシが出すんじゃけん決定事項じゃけんの。
 お前らそれを作れよ?
 
 
そしてまた、社長は会社に来なくなった。
 
 
細々と委託の仕事をこなしつつ、自社製品開発へと進路変更した我が社。
思い付き出始めて、うまく行くとは到底思えない..
 
 
 
 
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