そのお店は、ゼロからそこに誕生したというより、川越の石原町の物語の延長に生まれたお店であり、そのことを知らなければこのお店を知ったとは言えないかもしれない。
いや、きっとどのお店の開店も少なからず街の文脈から誕生したと言うことができますが、このお店の場合は特に、本当に、石原町の正統な系譜から直に繋がっている点が特徴。
川越の石原町は、菓子屋横丁から車が行き交う高澤通りを西に進み、赤間川に架かる高澤橋を渡って広がる地域。かつては旅籠が軒を連ねていました。
石原町の動きは、一昨年あたりから活発になり、逐一伝えてきたことはご存知の通りで、石原町の発信地として重要なスポットになっているのが、「もっこ館」。
高澤橋から見える古い木造建物、引き寄せられるように川沿いを進んで行くと、通り沿いにある建物「もっこ館カフェテラス」さんを中心にして、奥へと続く建物があり、お店が集積している場、もっこ館に辿り着きます。
お店が集積していることで、一つの場所でいろんな楽しみがあり、相乗効果となって多くの人を呼び寄せるスポットなっている。
もっこ館を成す大事なお店だった一店、「Maple Leaf」さんが閉店し、Maple Leafの溝井さんは今はすぐ近くにある「古民家 恵比寿屋」さんに全力を注入しています。
という、ここにも石原町の物語の延長がある。
そして、Maple Leafさんの跡に入ったお店が、2017年10月にオープンした川越の新しいパン屋、「けやきベーカリー」さん。
「けやきベーカリー」
川越市石原町1丁目18-78
水曜日~金曜日 10:30~15:30
TEL/FAX 049-277-4544
※曜日によって店頭に並ぶパン生地の種類が変わります。店頭・TEL・FAXにて注文も受付けています
けやきベーカリーは、「社会福祉法人 けやきの郷」
多機能型事業所 ワークセンターけやきの事業
Instagram:
https://www.instagram.com/keyakibakery/
ここで話しを冒頭に戻すと、ここにある石原町の物語というのは、Maple Leafさんからけやきベーカリーさんへのバトンのリレー。両者には一体どんな繋がりがあるのか?知られざる舞台裏の話しは後述。。。
もっこ館にやって来ると、香ばしい香りが既に漂ってくるのがなんとも新しい。そうです、けやきベーカリーさんが日々、ここでパンを焼いていて、辺りの食欲を誘っているよう。漂うパンの香りから、そのお店の実力が分かってしまうから恐ろしい、というか楽しい。ここは間違いないお店だとすぐに伝わってくるお店で、胸を高鳴らせながら扉を開くのでした。
お店に入るとショーケースにパンが並べられている、という前に、Maple Leafからがらりと変わった雰囲気に、さらに上質になった空間の魅力に目を奪われる。
木の温もりが溢れ、天井からはドライの花の作品が下がって空間を演出する。そして目の前の棚には、酵母を起こしている瓶が並べられています。中に入って香りはいよいよ濃厚になり、あ、ここのお店はいいパンを焼いている、と香りから分かってしまうからパンって不思議。
そして・・・並べられたパンに、やはり、と納得するものがありました。確信と言った方がいいだろうか。漂う香り同様、パンは見た目に全てが表れ、思いや手間や腕が否応なしに見た目・佇まいに表現されてしまうものだとしたら、けやきベーカリーさんは、旨いパンである。
けやきベーカリーさんの存在は既に地域の人に口コミで広がり、連日完売が続いている状況で、早めに行くのがポイント。
焼き上げているパンは、素朴なシンプルなパンから、バケット、総菜パン、菓子パン、幅広いパンを取り揃えている。
この日のパンは、まるパン、じっくりバケット、パン・ド・ミ、自家製酵母のカンパーニュ、ねぎとしらす、じっくりあんバター、タマゴサンド、手づくりコロッケパン、バインミー、豆乳クリームパン、リンゴとシナモン フォカッチャ、畑のにんじんケーキ。
厳選した安心な食材を使い、オリジナルパン生地はもちろんのこと、クリーム・ジャムなどのフィリングも手作りしています。
なによりその生地の旨さ。
柔らかいパンに加え、ハード系とまでいかなくても、セミハード系のパンが多く、噛みしめるほどに旨味がジュワッと溶け出す生地がけやきベーカリーの特徴。けやきベーカリーの真骨頂です。
さらに言及しなければならないのが、材料のこだわりはもはや当然で、使用する小麦粉は2種類をブレンド。北海道産の「春よ来い」に埼玉県坂戸市産の「ハナマンテン」です。
埼玉県産のハナマンテンは、川越のコアなパン好きには知られていることでありますが、川越の個人パン屋が積極的に使って地元産小麦粉の存在を知ってもらおうとしているものです。中には全種類のパンにハナマンテンを少なからず使用している川越のパン屋もあり、地元産小麦粉の象徴のようになっている小麦粉です。
けやきベーカリーが心掛けているのは、
「子どもから大人までみんなが食べられるパンを、特に子どもが安心して食べられるパンを作りたい」
と話す通り、そのパンには余計な添加物などは一切入れず、材料はシンプルに。
流行のパンを追いかけるよりも、材料の良さを追求し、手間を掛けた製法で、美味しさを追求したお店でありたいと思っている。
さらにパンに使う農産物も自分たちで作っているものも多く(!)、ここまで自分たちの手の内でパン作りを完結させているお店は珍しい。。。
パンのフィリングの手間の掛け方の特筆。ここにこそ、けやきベーカリーのけやきベーカリーたる所以が表れているよう。
生地の旨さが最大の魅力で、パン屋としてはそこにこそこだわるものですが、でもパンは、中に入っている具材によって世界が広がるし、楽しみでもある。
具材にまで丁寧に手作りで手間を掛けられるお店というのは実はそんなに多くなく(個人店の場合は人出がなく、チェーン店の場合は大量生産)、フィリング自家製という手間こそ、けやきベーカリーの際立つ個性です。
天然酵母は季節のリンゴやブルーベリー、洋梨などから起こし、これからは川越らしくさつま芋の酵母を起こそうかと計画している。
小麦を石臼で挽き(!)、餡子は自店で丁寧に炊き、クリームももちろん手作り、ドライ製品作りなどに至るまで、外から仕入れるというものが一つもないというパン屋は、とんでもなく凄いことである。。。
手間という部分は、もう究極的で、世のパン職人たちが理想を追求するならそこまで突き詰めてやりたい、と願っていることを、けやきベーカリーではみんなで分担してやっていると言えます。
味わってみれば分かる、手作りの優しい味、安心の味。
生地の旨味と具材の美味しさのマリアージュに、いいパン屋が川越にまた出来たという感慨に浸るのでした。
自家製天然酵母パンは、かけつぎを繰り返し大切に育てた自家製酵母を使い時間をかけて発酵させて焼き上げています。
小麦の素朴な味わいともちもちとした食感が特徴。
イーストパンは、パンの発酵に適した酵母だけを凝縮したパン専用の酵母を使ったパン。
パンが全てを語ってくれている。
先入観なしに食べてもらいたいがために、それをけやきベーカリーさんは望んでいることもあり、まずはパンを伝えることのみに腐心してきました。パンに惹き込まれ、食べてみて、美味しかった、また買いに行こう、本当はそれだけでいいのです。障害を持っている人が作っている、そんな話しは必要ないかもしれない。買いに行ってみようという小さな動機になればこの記事は充分であり、ここまでで充分役目は果たしているだろうけれど・・・
川越styleとしてはここから紡がなければならない言葉が多数ある。。。
けやきベーカリーさんとは??
けやきベーカリーを運営しているのが、「社会福祉法人けやきの郷」。
社会福祉法人けやきの郷では、以下の事業を行っています。
◆障害者支援施設 初雁の家
◆多機能型事業所 ワークセンターけやき
◆就労継続支援A型 やまびこ製作所
◆グループホーム 潮寮
◆埼玉県発達障害者 支援センターまほろば
◆特定相談支援事業所相談支援室けやき
このうち、ワークセンターけやきの事業がけやきベーカリーです。
「ワークセンターけやき」
http://www.w-keyaki.jp/
川越市平塚新田東河原215-7
TEL 049-239-3389
FAX 049-239-3390
E-Mail staff@w-keyaki.jp
基本方針
・就労支援
・地域生活支援
・発達障害支援
『一人ひとりが誇りを持って働けるような就労支援が最大の目標です。福祉就労というと多くの場合、施設にみんなが集まって施設の中で作業をするというのが一般的ですが、より地域に開かれた施設として、地域における就労支援センター機能を持つように努力していきます。ワークセンターけやきで働く人もいますし、パン屋に出勤しそこで働く人たちもいますし、老人保護施設の清掃に行く人たちもいます。
高機能自閉症・アスペルガー症候群等一定期間の就労支援を必要としている人たちがいますが、障害者手帳が無い場合制度的な位置づけがありません。
このような方々への就労支援も大きな目標の一つです。』
ワークセンターけやきでは、けやきベーカリー以外の食としては、
・予約制手作り弁当 食鮮工房
ワークセンターけやきLabo内
TEL 049-234-8111
・ほっこりcafe ちゃちゃこ
川越市伊勢原5-1-1
(川越市立西図書館内)
TEL 049-237-5665
・Atelier きつつき
川越市平塚新田東河原215-7
ワークセンターけやき内
TEL 049-239-3389
を運営しています。
ワークセンターがある川越の平塚新田と言えば田畑が広がる川越の農の地域であり、ワークセンターの裏にある畑では、時季により、じゃがいも、人参、玉ねぎ、ピーマン、キュウリ、茄子など様々な農産物を作っていて、お弁当の具材になり、そしてけやきベーカリーのパンの具材にもなっていく。
けやきベーカリーは、現在職員3人、利用者6人の合わせて9人のスタッフにより切り盛りされています。店長の志田さんがみなを率い、パンのメニューを考え、みんなと美味しいパンを作っている。志田さんは各地の人気パン屋を食べ歩いて研究し、また、「レシピ本を見るのが好きなんです」と話し、数多くのレシピ本からヒントを得てけやきベーカリーのパン作りに活かしている。
けやきベーカリーでは、朝早くから集まり、店内奥の厨房でその日のパン作りが始まっていく。
一つ一つの工程を丁寧に、ひたすら丁寧に、美味しくなあれと思いを籠めたパンたちは、窯に入れられて焼かれると、嬉しそうにこんがり膨らんで色を変えていく。
障害を持っている人たちの仕事ぶりは、実直という言葉以外に見当たらないほど実直で、自分の仕事に集中し続けている姿がある。
お店のオープンが近くなると、いよいよパンが焼き上がっていきます。窯からもう既に香ばしい香りが漏れてきて鼻をくすぐる。この香りが店外にまで漂い、もっこ館を包んでいたのだ。
窯から出てきたパンはなんとも美しく、すぐにショーケースに並べられてお客さんに指名されることを待ち構えていた。
オープン時間から逆算して次々にパンが焼き上がり、ショーケースがパンで満たされていく。
10時半、そして今日も、焼き立てパンが並ぶ、けやきベーカリー営業の一日は始まっていくのだ。
「けやきベーカリー」は、実は川越の小堤(最寄り駅鶴ヶ島駅)で20年近く営業していたもので、移転という形で石原町にやって来ました。
もっと街中でお店を開いてこのパンを食べてもらいたいと考えて動き出した時に、これ以上ない理想的な場所と出会った。それが、そう、もっこ館の「Maple Leaf」さんのこの場所でした。
Maple Leafのあの麻婆豆腐がもう食べられないなんて、、、と閉店のニュースには街の人が泣いていました。
(「カナディアンバー&レストランMaple Leaf(メープルリーフ)」)
だが、終わりは新しいことの始まりでもある。
折しもMaple Leafにとってもお店を閉店して古民家 恵比寿に集約しようというタイミングであり、かつ、Maple Leafの溝井さんとけやきの郷の理事長が以前から知り合いで、お店の場を譲り渡すことにはなんの支障もなく、とんとん拍子であっという間にけやきベーカリーのオープンが決まっていったのでした。
もっこ館という人気スポット、他のお店との相乗効果、二階部分は利用者さんの休憩所にも使えるというこれ以上ない場がMaple Leafのここでもあった。思い描いた理想を現実にした場に、お店を開こうとするタイミングで出会うことになるなんて。。。
溝井さんとしては、場を譲るのみならず、けやきベーカリーを応援しようと、Maple Leafで使っていた什器などの設備やあの棚すらけやきベーカリーに譲り、それを今活かしていることを見ると、Maple Leafは今でもここに息づいていると確かに言える。
見てください、けやきベーカリーの入口入って目の前にある棚。
Maple Leafに通っていた人ならすぐにピンとくるであろう、かつてMaple Leafで使われ、英さんの織物作品が展示されていた棚です。今では酵母の瓶などが置かれて、ここに在り続けている。
溝井さん一家がここまで協力しようとしているのは、自身の次男・英さんが障害を持ち、発達障害・学習困難の子ども達を支援する「チューリップ元気の会」の理事長を務めていることと無関係ではない。
また、溝井さんが主催者となって、4月に開催されている「世界自閉症啓発デーLight it up blue 川越」も大事な啓発イベントとして行われ、2018年4月にも開催されます。
(「2017年世界自閉症啓発デー Light it up blue 川越」2017年4月2日
https://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12262975510.html)
溝井さんの橋渡しもあり、けやきベーカリーの新たな展開の場は決まった。
実は正式オープン前からここでけやきベーカリーのお披露目を行っていることは知られざる事実で、それが、石原町の大事な行事となっている2017年8月の「赤間川の灯籠流し」。
昔の歴史を掘り起こし、今新しい形で開催しているという石原町を代表する行事は、昨年2回目の開催となっていました。
もっこ館の目の前を流れる赤間川に灯籠を流す内容で、日中にはもっこ館のお店が総力を挙げて盛り上げていました。この時に、Maple Leaf閉店とけやきベーカリーが新たに入ることが既に決まっていたことから、Maple Leafの場所にけやきベーカリーが出店して焼き菓子などを販売していたのです。けやきベーカリーにとっては、正式オープンがまだ先のことでしたが、地域の人が集まる行事に出店したことで、地域の人にオープンのお知らせができたまたとない機会となりました。
(第二回「赤間川の灯籠流し」2017年8月19日 石原町一丁目自治会「赤間川の灯籠流し」実行委員会
https://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12305125470.html)
そして、イベント出店ということでは、けやきベーカリーとして、川越の一大イベント、2018年1月21日(日)ウェスタ川越のFarmer'sMarket出店も決まりました。このパンなら他のお店に引けを取らないということで決まったもので、「福祉のお店だから」という理由でないことは念を押しておきたいです。
(「くらしをいろどるFarmer'sMarket」
『川越Farmer'sMarketからひろがる
川越産農産物とそれを使った食べ物・飲み物、雑貨、ワークショップ、音楽など』
https://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12331729835.html)
けやきベーカリーさんがウェスタ川越に出店、なんていう夢の展開なんでしょう。
イベント会場でお店のことを初めて知るという人も多いでしょうし、こんなに美味しいパン屋があったんだ!という驚きの声が挙がるのが目に浮かぶよう。
川越の新しいパン屋さん、けやきベーカリー。
楽しみにやって来る人に美味しいパンを届けるために、みんなで分担して手間をかけてパンを作る。
香ばしい香りが辺りに漂う。
石原町のもっこ館にパンの香りが漂うことが、街を変えるまちづくりそのものなのだと感じ入る。
次のパンが焼けたようです。
もうすぐオープンの時間になろうとしていた。
「けやきベーカリー」
川越市石原町1丁目18-78
水曜日~金曜日 10:30~15:30
TEL/FAX 049-277-4544
※曜日によって店頭に並ぶパン生地の種類が変わります。店頭・TEL・FAXにて注文も受付けています
けやきベーカリーは、「社会福祉法人 けやきの郷」
多機能型事業所 ワークセンターけやきの事業
Instagram:
https://www.instagram.com/keyakibakery/