「生地が命」
生地が美味しくないと全体が美味しくならない。
美味しい生地のためには、その日の気温や室内温度を頭に入れたうえで、
『彼ら』がしっかり仕事してくれるか見極めなければなりません。
小さな彼らの仕事とは、発酵。
それをコントロールする作業は、
まさに生き物を相手にしているようでした。。。
食べ物の話しを伺っていても、
そう、なんだか生物の話しのようにずっと感じていました。
同じように作っても、
その日によって焼き上がりが違って、一日一日個性が違う。
この日もまた、しっかり「いい仕事」がされたぷっくりした生地が、
常温で2時間掛けて自然解凍されました。
いよいよ、準備万端です。。。♪
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お店が始まる数時間前に火を入れ、
じっくり時間を掛けて釜内の温度を上げていきます。
そしてお店オープンの18時。
釜は450度になりました。ナポリピッツァを焼く温度です。
素材を釜の火で直接焼く、なによりそのシンプルがいい。
釜に入れて1分半で焼き上がったマルゲリータは、
湯気以上に香ばしい香りを放ち、
素材の味をそのままいただいているシンプルがありました。
生地の小麦粉、トマトソース、食べるだけで明るい気持ちにさせてくれる、
イタリアの食材には、人をそんな気分にさせる力があるのかもしれない。
噛みしめるごとに、陽気な気持ちになっていくようでした。。。
シンプルな素材を、シンプルに調理するだけでこんなに美味しくなる。
こうこうと顔を照らす釜の火。
火を見ながら食材が焼き上がるのを待ち、火を見ながらピッツァをいただくのは、
原始的でどこか懐かしい時間でもありました。。。
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「ピッツェリア ダ・アチラン」があるのは、
川越駅西口からロジャースに続く道を進み、
デニーズとセブンイレブンがある五差路の交差点から、ロジャースに行く道沿いです。
建物が立ち並び、車の往来も多いので見過ごしがちになりますが、
暖かみのある建物が目に飛び込んできます。
ピッツァにこだわったお店として、ダ・アチランは2013年7月オープン。
ドアノブに手をかけふと横を見ると、
通りに面した窓から、そのタイル貼りの胴体が少し覗き見えました。
ガチャ、扉を開けて中に入るとすぐに大きな窯が目に飛び込んきます。
ここで、ピッツァを焼き上げている。
店内には懐かしくなるようなレトロな音楽が流れています。
店内は一階と二階があり、
ランチ営業の時は二階のみの使用、
ディナーは一階のカウンター席も座れます。
カウンターの目の前に大きな焼き釜。
この釜を見ながら食事したいために、
一階から階段を上がって二階に行くと、
温かみのある色に溢れた雰囲気が落ち着きます。
席に座り、メニューに目を落とします。
用意するピッツァはスタンダードなものが多いです。
ピッツァの中ではやっぱり人気はマルゲリータ。
クワトロも人気があるそうです。
ランチにつくワンプレートは、
サラダにフリッタータ、イイダコの柔らか煮、ピクルスが丁寧に彩られています。
イタリア料理で定番のイイダコは、
トマトで煮込むだけというシンプルな調理法。
噛みしめるとタコの旨味が広がる。。。
そして、まずは定番のマルゲリータをいただきました。
もちもちとした生地、シンプルだけど自然な旨味、甘みが口に広がります。
美味しい!
ダ・アチランがこだわるのが、
出来るだけナポリピッツアァを提供したい。
ピッツァの中でも、
「ナポリピッツァ」と名乗っていいのは、
実はルールが厳格に決められています。
各地域でその土地なりにビッツァが変容され、
本来の姿とはかけ離れているものも出てきた。
そこで、間違ったものが広まらないよう、粗製乱造を防ぐため、
ナポリピッツァの形はこうだと明確に決められています。
生地に使っていいのが、
「水」と「小麦粉」、「塩」、「酵母(ビール酵母など)」。
(砂糖は入れません)
シンプルなこの4つから成り立っています。
それぞれの分量も決まっていて、
材料も、作る工程も、使う道具も、作業時間も、
ピッツァの大きさ、中心とふちの厚さも細かく決められています。
ここまでクリアしないとナポリピッツァとは名乗れない。
水と小麦粉を混ぜるミキサーもこういうもの、と決められ、
こねてからまず一次発酵させます。
最初の1次発酵は30分くらい。
そのあと丸く成形したものを常温で4~5時間置いて発酵させてから、冷蔵庫で一晩寝かせる。
翌日、発酵が進んだ生地を、お店がオープンする2時間前に冷蔵庫から出し、
自然解凍で常温に戻してからピッツァとして使います。
生地に手間をかけるのがナポリピッツァで、生地がなにより命です。
季節や気温によって発酵時間は変わるけれど、
常温で4~5時間発酵させる時のベースの温度は、25度。
気温の高い夏は発酵が早く進むし、
(こねるだけで生地の温度が高くなってしまい、発酵時間に影響します)
冬はゆっくり進む。
温度に気を使いながら、生地という生き物を観察し発酵の進み具合を確認します。
そうして、ピッツァにちょうど良いタイミングで生地を常温に戻しても、
使えるのは6時間。
それ以上外に出して置くと再び発酵が進んでしまう。
生地は使い回せないし、
一度常温に戻したものはその日に使い切らないといけない。
その日のものはその日のうちに。
生き物相手の手間がここにあります。
窯は450度くらいに設定されて、
注文が入ったら、手早くピッツァを作ります。
トマトソースももちろん、ナポリピッツァならでは厳格な決まりがあり。
それはシンプルな決まりごと。
曰く、
「トマトを手で潰して塩だけを加えること」であること。
ダアチランでは、イタリアのトマトを使ったソルレオーネのトマトソースを使用しています。
大理石の上で手で生地を伸ばし、トマトソースをまぶし具材を乗せたら、
すぐにパーラで生地を窯の中へ。
あっという間の素早い手つきの中にも、
美味しいピッツァになるよう極意が隠されていました。
トマトソースは均一に乗せるより、まばらにする。
食べた時にトマトの味の変化を分かるようにするためだそう。
それもナポリピッツァの醍醐味です。
そして食材と同じく、
使う道具もイタリアのものにこだわっていました。
次々と窯に生地が入り、
ピッツァは熱いうちが美味しい、
窯から出したらすぐ食べて欲しい、そう話します。
窯の中全部が同じ温度というより、
窯内の各所で微妙に温度が変わります。
その違いを利用して、素材によって焼き方を変える。
ピッツァにしても一品料理にしても、
窯内の火の対流を見極めて位置を変えていました。
入口付近でさっと焼くのか、奥でじっくり焼くのか、
火の当て方を変えている技術がありました。
成田さんは、窯には特別な思いがあります。
ピッツアァを焼くのは電気ではなくガスで。
オープン前に捜し求めたこの窯。
バタバタと準備に追われる中で、
手作業で窯の外側にタイルを一枚一枚自分たちで貼って装飾した窯です。
その真剣な職人技と、
大きくカラフルな可愛らしい窯との対比。
ピッツァが窯の中に入ると同時に、
同じように窯の中の火を覗き込みました。
ビッツァは1分半であっという間に焼き上がる。
成田さんの瞳はその時間、ずっと窯内を凝視し、
合間に中からピッツァを引き出し焼き色を確認し、焼き上がりを決めています。
窯から香ばしい香りが吹き出します。
窯から出されたピッツァは、黄金色に変身して香りや湯気を立ち昇らせている。
最後にオリーブオイルを回しかけ、
素早くカットされたら、さあいただきます。
自然な味わい、食べることは幸せになること、
シンプルなナポリピッツァに人生の大事なことを教えられるよう♪
夜になるとダ・アチランは本格的な釜焼きの時間。
一品料理も豊富にあり、
カウンター席に座ると目の前に釜。
窯から漏れる熱で、居るだけで顔がポカポカしてきます。
垣間見えるゆらゆら揺れる火に、
せっかくだから窯焼きを。
メニューにはいろんな窯焼きがあって、
ポテトに鶏肉、ソーセージが人気だそう。
ソーセージなら窯焼きは4、5分。
強い火で焼くので、カットして開いた状態で窯に入れます。
そうしないと、せっかくの素材が中まで火が通らず、表面だけ焦げてしまう。
ダ・アチランのソーセージはなんと、
3日間かけて熟成させた手作りなんです。
窯内で位置を変えながら、
燻製の塩でいただきました。
イタリアワインは全て成田さん自身が試飲して決めたもの。
白はシャルドネ、赤はランブルスコが定番人気。
お店では、デキャンタで飲む方が多いそう。
微発砲の赤ワイン、ランブルスコと共に窯焼きポテトをいただきます。
シンプルで奥深い釜焼きに乾杯♪
成田さんが、窯で焼き上げるお店をやろうとしたのは、
食を大事にしたいという思いがありました。
家庭で簡単に、出来合いのもので済ませられる今の時代の食事。
だからこそ、手作りにこだわり家庭では出来ないものを、と
生まれも育ちも川越の成田さんが、
食の世界に入ったのは和食からでした。
そこからイタリアンへの転身、そのきっかけとなったのが・・・
ある一皿との出会いがあったと振り返る。
それが、魚のカルパッチョ。
刺身にバルサミコ酢をかけた一品に、
雷に打たれたような衝撃を受けてしまった。
「刺身は和食だと醤油で食べるけれど、
イタリアンは刺身に、塩やレモンにオイル、いろんな食べ方がある。
いろんな可能性があることに衝撃を受けました」
そこからイタリアンの世界に舵を切り、ずっとイタリアンで働いてきました。
イタリアに行った際に食べた現地の食に改めて衝撃を受け、
素材の味を大事にしてシンプルな調理で食べる、
それが抜群に美味しいことに気付かされてしまった。
改めて、イタリアンを極めたいと決意を新たにしたのでした。
イタリア料理に携わり、一番強い影響を受けたのは、
飯能市にある「Torattoria Primavera」で働いた経験だといいます。
そこは、薪で火を起こし、ピッツァを焼くことにこだわったお店。
Primaveraはナポリではなくローマピッツァです。
ローマピッツァはサクサクとしてクリスピーな生地が特徴。
成田さんは、独立を考えた時に都内に出すことも考えたが、
生まれ育った川越の良さも知っていた。
川越は、大通りから一本入った脇道に個人店が多くあり、
古い街並みと新しく生まれるものが混在するこの街のことをずっとだった。
川越でナポリピッツァのお店を出そうと決意した。
ローマではなくナポリにこだわったのは、
ナポリピッツァは450度という高い温度が必要になります。
他ではなかなか味わえないので、強みになるはずだ、と。
そして、クリスピー生地と違って、
ナポリピッツァの生地は発酵の仕方によって生地が変わるし、
丁寧に発酵させるからこそ、生まれるもちもちした食感を楽しんでもらえるはずだ、と。
川越はイタリアンのお店は多いけれど、
ピッツァを押して売り出すお店は少ないし、
窯が店内にあるお店は数えるほどしかありません。
この大きな窯はダアチランの強みです。
「厳格に言うと、ナポリピッツァとして認められているのは、
マルゲリータとマリナーラだけなんです」
この二つだけがナポリピッツァと呼ばれるものだそう。
これ以外のピッツァは、ナポリピッツァと名乗っていてもあくまでナポリ風ピッツァ。
都内のナポリピッツァの有名店では、
メニューにマルゲリータとマリナーラしか置いていないお店もあるそう。
マルゲリータはお馴染みのもの。
マリナーラ・・・??
そう、それこそ、特にお勧めは??と伺った時に
成田さんがぜひ食べてもらいたいというピッツアァでした。
ワインをいただきながら、
マリナーラは、マルゲリータと似ているのですが、
最も生地の味をダイレクトに味わえるピッツァです。
モッツァレラチーズが乗っていなくて、
パルミジャーノ・レッジャーノとニンニクが乗り、トマトソースがメインのもの。
マルゲリータよりももっともっと昔に出来た原始的なもので、
ピッツァの始まりとも言われるもの。
窯の火で、トマトソースメインのシンプルなピッツァをいただく、
たったこれしか、という素材たちなのに
なんでこんなに美味しいんだろう。
豊かな食材、ミネラルたっぷりで元気になる素材たち。
イタリアの食材には、人を明るくする成分が入っているに違いない。
この釜から焼き上がるピッツァを食べたら、
他のものは食べられなりそうです。
ナポリピッツァに決まりごとが多いといっても、
複雑なことではなく、それはみんなシンプルな考え方ばかりです。
生地には、小麦粉、水、塩、酵母、
トマトソースはトマトを手で潰して塩だけを加えたものであること。
イタリアでもそうであるように、
背伸びせず、大衆食として気軽に食べられるのがピッツァの魅力。
シンプルなものをシンプルな調理でシンプルにいただく。
それが食の原点なんだと、
改めてイタリアに教えてもらったように思いました。。。
窯の火を眺めながら、マリナーラの最後の一切れを頬張る。
トマトソースの甘みが口いっぱいに広がって、
陽気な気分が体に湧き上がってきます。。。
美味しいピッツァのお店が川越にできました。
「ピッツェリア ダ・アチラン」
川越市東田町7-64
11:30~14:00(ラストオーダー)
18:00~22:00(ラストオーダー)
月休
駐車場はないので、近くのデニーズのコインパーキングへ
持ち帰りも可です
「ナポリピッツァはこれだけ厳格に決められていても、
焼き上がったものはその日によって違う。
それだけ、生地作りは生き物相手だということなんです」