2013年7月のある日、
ふらっとお店に来られた方が、
店内の和紙をゆっくり確かめるように見つめた後、
水上さんにこう言ったそうです。
「ここの和紙を使って、自分の結婚式の招待状を作りたい」
と。
どうしたら温かく招待客を迎えられるか、
その気持ちを形として表したい。
ずっと考えていたであろうその方は、
ここの和紙や本を見てピンと来たに違いありません(*^o^*)
和紙を選んで、中にはたくさんの方への感謝と愛情を込めて。
水上さんに四つ目綴じで製本してもらい、
招待状は完成しました。
招待状として用意していた商品ではないけれど、
「ここに置いてあるのは単なるサンプル。
お客さんにどんどん提案してもらって、オリジナルのものを作りますよ」
作った招待状を手にしながら、
水上さんは笑顔で言いました♪
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
通り過ぎるたびについ目をやるものが
和紙の原料、楮(こうぞ)。
店先に楮の芯が束で置かれているお店があります。
今までは、言葉として「楮は和紙の原料」と知っていたくらいで、
この芯を見ても漠然としたものだった。
でも、
実際の和紙の制作を見てみよう、と思い立ち
和紙の里小川町の山間にある「埼玉伝統工芸会館」に行ってみた。
そこで、紙漉き職人さんに和紙作りの制作工程を聞き、
自分で紙漉き体験をしたことで、
楮がどういうものか、どうやって紙になるのか、
身を浸して感じることができました。
楮の芯が和紙になるのではなく、
紙になるのは楮の皮の部分。
皮を剥ぎ取った残りが芯です。
実に、一本の楮の4%しか紙になりません。
楮を置いているこのお店は、
本川越駅の交差点からすぐのところにある
小江戸蔵里の向かいにあります。
マンションが多い場所で、古い建物は一際目立ちます。
昔は肥料店が使っていた建物、
和紙から成るいろんなものを扱っているのが、
「水上製本所」さん。
2012年12月1日にオープン。
もともとは
教科書などの製本所を三芳町でやられているのですが、
紙を扱う仕事柄、
普段感じる本が売れない減っているという危機感と
水上さんが改めて知った和紙の魅力。
二つの思いの重なりで川越に生まれたお店には、
和紙をもっと広めたい、と
自身で考えたオリジナル商品を置き、まさに和紙のアンテナショップです♪
「教科書にも和紙を使って欲しいくらい」
まず、
製本所の方が和紙に興味持つのが面白いし、
和紙を使って自分でオリジナル商品を考えてしまうのも凄いと思います。
だから、ここにあるものはここにしかないもの。
川越で、和紙が溢れるお店というだけでも貴重で、
オリジナル商品、手で製本する和綴じも素敵です。
一歩中に入ると、
和紙にとって最も大事な楮の皮が迎えてくれました。
この皮が、膨大な工程を経て紙になること。
実は・・・と正直に告白しますが、
お店に伺ったのは去年の11月。
まだほんのり肌に暑さが残る時でした。。。
すぐに記事にしなかった、できなかったのは、
お話しを聞けば聞くほど
和紙のことを知らなすぎて書くのが恐くなって。
もっと身をもって知れば、和紙のことを近いものとして伝えられるんじゃないか、
そうすべきだ、
あの時から2ヶ月越しの計画が始まったんです(*^o^*)
それだけこのお店のこと、和紙のことを大事にしていました。
小川町でいろんな経験を通して、今書けること。
楮はいくつかの層からなっていて、
一番外側は寒さ暑さから身を守るための部分「鬼皮(おにかわ)」。
その下の緑色の部分が「あま皮」。
あま皮を剥ぐと、和紙になる重要な部分「白皮(しろかわ)」が現れる。
和紙には基本、白皮を使うそうですが、
甘皮が入っていた方が
丈夫な和紙になることがあるので、使い方はいろいろ。
■大釜の中に、苛性ソーダ、ソーダ灰などを入れ過熱沸騰させた中に
楮皮を入れて煮る。
煮た楮を水槽の中にいれ灰汁抜きをして、さらに水選槽に竹かごを浮かせ、
「がっつぁし棒」で楮を掛けて丁寧に塵取りする。
寒中、手を温めるために置く火鉢のことを「だるま」という。
■塵取りした楮を「楮打棒」で叩いて綿のようになるまで打ち砕く
■漉舟(紙漉き槽)に水を張り、ほぐした楮とトロロアオイの粘液を混合し、
「桁」で一枚一枚漉きあげる。
最も、技術・経験を要する工程です。
■一枚一枚「紙板」に張って、天日に干しにする。
水上さんは全国の紙漉き職人さんを巡って繋がりを深め、
各地の和紙を使って作られ綴じられたものが集まっています。
(以前たまたま通りかかった方が建物に引き込まれ、
『ここは何屋さん??』と訪ねられたことがある。
その方は紙漉き職人さんで、偶然の縁から今紙を漉いてもらっているエピソードもあって)
小川町にも今、10軒くらいしかないという紙漉きに就く方。
川越でなんでそんな素敵な出会いが起こったんでしょう(*^o^*)
人はいつも引き寄せ合っているようで。
和紙の中でも、やっぱり目に止まるのが埼玉の小川町。
小川和紙の便箋・封筒セットもありました。
表と裏、好きな風合いを使って欲しい、と
封筒は開いたままの状態で。
好きな手触りの面を使って糊付け欲しいとのこと。
ファイル、メモ帳、カード入れ、封筒、ポチ袋、
和紙の名刺も作っていて、
「和紙の名刺をもっと広めたい」
という想いが水上さんにはある。
和紙と活版印刷の文字、
この二つの取り合わせは、深く深く記憶に残る温もりがある♪
製本も見てください、可愛らしい綴じで一つひとつ手で製本しています♪
「うちのものは自分で綴じているんですよ。
スタッフもみんな綴じられます」
商品自体だけでなく、それがどんな製本をされているのか、
そこも楽しめるのが水紙製本所ならでは。
店内で、手で製本している光景がありました。
和本には様々の綴じ方があって、
例えば「四つ目綴じ(よつめとじ)」という綴じ方は、
歴史が古く昔の書物でも見かける製本。
道具は少なく簡素、そして無駄がないシンプルな綴じ方です。
四つの穴を開けて糸を通すから四つ目綴じ。
ここには無線閉じ(本の背をボンドで固める製本)ではなく、
和紙らしく和綴じが多いのが特徴です♪
本は、綴じられたら完成、と思っていたけど
いや、そうじゃなかった。
紙を増やしたかったら糸を解いて足せばいい。
それができるのが和綴じの魅力です。
店内には手仕事が溢れ、
紙漉きが手仕事なら、それを製本するのも手仕事。
染めも手仕事、手染めの栞は、
梅、青葉、紅葉、雪があって、一つひとつ風合いが違いました♪
「手」という言葉があちこちにあるのがホッとします。
水上さんを始め、お店の方がカレンダーを指して
面白い話しを聞かせてくれました。
「たまたま伊香保に行った時に、
気になるカレンダーを見つけたんです」
じっと紙質を見つめる。
「いい紙だ」
よくよく聞いてみると、障害者支援施設で作られたカレンダーだと知る。
そんな縁から、この施設が作る紙を扱うようになった。
「いつも紙のこと考えてるんですよね(笑)」
そして、水上さんが口にした
「本は、情報の彫刻なんだよ」
そんな言葉が印象的でした。
本は消耗品ではなく、それ自体が一つの彫刻。
本屋さんにはない本がここにはあります。
オリジナルで作った、川越まつりの山車揃いの本。
和紙、四つ目綴じです。
川越に伝わる、妖怪伝説をまとめた本♪
スタンプ帳を作ったのは、
川越にはスタンプを用意している名所がいくつもあるから♪
川越城本丸御殿、蔵造り資料館、時の鐘、
各地に用意されているスタンプを押しながらの散策。
散策コースの一つに・・・
このお店でスタンプ押すのも忘れずに(*^o^*)
スタンプをお店に置いているので、自由に押してもらってOKです。
この時店内で、
水上さんが最後の一冊を製本していました。
その本は、
お客さんからの特別なオーダーの本。
和紙と和綴じには特別な想いを込める方が多い。
ある家族の方が、お母さんの自分史を作りたい、と注文されました。
家族の方がお母さんの人生を振り返り辿り、
自分たちの人生に大事に関わってくれた
感謝と愛情を込めたものを作りたかった、と。
2013年4月に受注、
梅雨明け頃にお母さんは亡くなり、
9月に親族の方に本を渡した。
最後の一冊を製本していました。
ハンマーで叩く音が響きました。
手で穴を開け、手で綴じる。
大事な最後の一冊も、無事に届けられました。。。
いろんなオーダーに応えてくれる水上製本所。
和紙を扱い、和綴じにこだわるこのお店は、
全国の和紙を扱っている水上製本所ですが、
昭和の初めには、全国に6万4000ヶ所以上の紙漉きさんも、
時代とともに減少し、今では200ヶ所。
「今でも、若い紙漉き職人は各地にいるけど、みんな売り先がない」
それは、小川町でも聞いた言葉です。
和紙はいろんな使い方ができると思うし、
アンテナショップとしていろんな提案をしていきたい、
そう語っていました。
もちろん、お店に並ぶものはサンプルとして、
自分なりの使い方をオーダーしてもいい♪
そう、あの招待状のように。。。(*^o^*)
「水上製本所」
川越市新富町1-4-4
土・日・祝祭日9:30~18:00
月・木曜日12:30~17:30
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
最後に、水上製本所では
なんと、製本体験までできるんです♪
¥500でメモ帳を。
体験できるのは四つ目綴じ。
四つの穴をハンマーで開け、糸を通す最もポピュラーな和綴じです。
この綴じ方をすると、
紙の束だったものが途端に重みのある存在感に(*^o^*)
和綴じは素敵です。
文字のスタンプを押して完成。
あの文字しか思い浮かびませんでした。。。(笑)