平成一桁くらいまでは、喫煙する場所もそこそこあったように思うのだが、徐々に排除されていった。
例えば職場などだと、従来は自分のデスクで喫煙できていたものが、喫煙所なる場所に行かないと喫煙できなくなり、その喫煙所も各フロアのエレベータの前であるとか、非常階段など比較的近い場所だったのが、だんだん遠い場所になり、そのうち屋根がない場所になり、敷地内完全禁煙になる、といった段階を数年かけて進めていったのだ。
ここで面白いのが「誰が喫煙できないようにしていったのか」というと、喫煙しない女性や若者が声を上げた、というわけでもないんだな。
少なくとも日本の「会社組織」においては、かつては偉い人に喫煙者が多かったのだ。
が、社会全体の圧力として「禁煙推奨」があったのだ。
今でいうとSDGSか。
取り入れないのは組織として不味い、って感じで、禁煙が勧められていった。
当時私が働いていてたビルから亡製薬会社の本社ビルが近かったのだが、やはり、医療にかかわる「製薬会社」なので、禁煙を推奨しないと、となったのか、最初は敷地内で喫煙する社員が多くみられた。
そのうちに、「敷地内で喫煙してはならぬ」ということなったらしく、休み時間や外出の行き帰りに、路上で喫煙する社員が多発した。
で、なぜか、つるんで喫煙するんだよね。
おそらくはそこで仕事の話なんか始めるのでおっさんの塊があっちこっちで喫煙する姿が見られるようになった。
ここからはその製薬会社に伯父が勤めている、というパートさんから聞いた話だが、会社に喫煙の件で苦情が殺到したそうなんである。
住宅街ではないので、居住者はあまりいないのだが、オフィスは多いし、学校やスポーツ施設はある。昼間の人通りは結構ある場所なのだ。
喫煙するおっさんたちが数人ずつ塊になって点在していれば煙は立ち上るし、中にはポイ捨てするやつもいただろう。
「製薬会社なのに近隣に喫煙で迷惑かけていいのか」って話になる。
しばらくすると、会社の敷地内に東屋のようなものが建てられ、そこが喫煙所になった。
時間によっては数十人が喫煙していてなかなか壮観だった。
と、一般の会社でも喫煙場所はだんだんなくなっていったわけだが、世の中頭が良く弁が立ち、かつ体制に反発することを厭わない人っているのは一定数いる。
その割合か多いのが「センセイ」と呼ばれる職種だと思うわけだ。
政治家はよくわからないけれど、医者とか教師とか。
私のかつての勤務先だと、大御所教授のK先生は長年の愛煙家だ。
御年82才でシャキシャキの現役なので、「たばこは体に悪い」って説明が薄っぺらく感じてしまう。
K先生は女性なんだが、女で大学に行く人なんてほとんどいなかった時代に大学を出ている方だから、頭がいいのは無論のこと、良いところのお嬢様である。
お嬢様なんだが、女だてらに学問を収め、経済的に自立し、生涯結婚もなさらなかった方なので、なんていうか腹の座り方が違う。そりゃたばこくらいは吸いますとも。
ただ、お嬢様なので女性の所作にはうるさかった。
私なぞは頂きものの菓子折りの包み紙をバリバリっと破くところを怒られた。
包み紙はちゃんと剥がして畳んで再利用するものだそうである。
捨てるんだけどねっ。
後、女性がズボンを穿くのはいいんだが、チャックは横にくるべきで、真ん中にあるズボンは男性用だから女が穿くもんじゃない、そうだ。
とはいえ、楽しい方なので、一緒に仕事ができてよかったのたが、「禁煙」の話なると、「喫煙の権利」を主張されて戦われた。
先生ご自身はそれほど多く吸われる方じゃないので、出先で吸えないくらいはさほど不自由は感じられなかったかと思うのだが、何せ戦中派なので、理不尽だと思ったら戦うのである。
とっくの昔に天国に旅だたれたので、今そんなに戦う愛煙家はいないだろう。
医者も喫煙者は多かった(今は知らない)。
私が通っている大学病院もかつては喫煙所があったので白衣で吸ってる医師がたくさんいた。
昼休憩などで外部の店に行く際は、白衣は脱いでいかなければならないので、一時的に白衣を脱ぐ場所が裏門のあたりにあり、そこに白衣が大量にくしゃっと置かれていた。休憩から帰ってきた医師がくしゃくしゃの白衣の中から自分の白衣を探しすわけである。
なんか汚いな。
私の主治医は若いので、近くで話していてもたばこのにおいは全くしない。
今時の若い医師は最初から喫煙しないのだろうか。
ストレス多そうな仕事なんだけどね。