ふと、思い出したので。
高校の時の友人のKちゃんは、一度嫁いで実家に出戻ってそのまま実家で暮らしている。
Kちゃんは若いときに結婚したのだが、どうもダンナさんと相性が悪かったようで、ただ、浮気とか経済的DVとかの決定的な離婚理由もないので結婚生活は継続していた。
子供もいないので、パートでもするか、とパートに出たのだが、そこで運命の出会いをしてしまった。
パート先の上司にあたるちょっと年下の独身男性に恋をしてしまったのだ。
ここからがKちゃんのちょっと変わったところで、真面目な人なので、「不倫はいけないこと」というのは信条としてある。
なのでこの恋を成就させるためにはまずはダンナと離婚しなければならない、とダンナに離婚を申し出た。
このあたりは詳しく知らないのだが、多分少々揉めたものの子供もいないことだし、離婚は無事成立。
貼れて自由の身になったKちゃんは恋する彼に「好きなのでお付き合いしてください」と持ち掛けたのだが、ちょうど異動の話が持ち上がっていこともあり、その彼は結構遠方に転勤してしまった(逃げたんじゃないか、と邪推している)。
そうなんである。Kちゃんはとっても真面目なので、離婚するまでは彼に気持ちは伝えていない。
彼の側も「好意を持たれている」くらいは感じていたのかもしれないが、女性の多い職場だったし、Kちゃんは既婚者だし、二人だけで食事とかもしたことはない。
いきなり、「あなたが好きだから離婚しました」と言われたら、普通の男は腰が引けるだろう。
と、安全網を張らずに飛び降りてうまくいかなかったKちゃんなのだが、仕事はパートだし、離婚してとりあえず住む場所がない。
なので実家に戻ったのだが、ここでお母さんの猛烈な反対にあう。
ご実家は弟さんの結婚を機に(この地域あるある)二世帯住宅に改築されており、お嫁さんと子供がいる。
弟世帯は二階で完全二世帯なので、親世帯にだったらおいてもらえるのでは、と考えたのだが、お母さんは
「この家はもう〇〇(弟)の家。娘だから一時的に帰ってくるのは構わないけれど、住むのは許しません。アパート借りて独立しなさい」
と厳しいことを言う。
あまりにお母さんが厳しいので、弟夫婦も「親世帯に住むんだったら私たちには影響はないし、いいですよ」と仲裁に入ってくれたが、
「この家にはおけません。なので部屋もないです」と
通路のような3畳くらいのスペースをKちゃんの(仮)居場所とした。
で。それから20年経ったが、まだKちゃんは実家の3畳スペースに滞在している。
パートは続けていて、収入は多くないが、住居費と光熱費がかからないのでやっていける。
医療保険は弟さんが扶養に入れてくれた。
弟一家との仲も良好だが、お母さんは
「私たちが死んだら、この家は出ていきなさい。中古マンションを買うくらいの遺産は遺すから」
と言っている。
それでも実家に居座るKちゃんもなかなかの根性だが、結果的にみると、これってお母さんの作戦勝ちのような。
二世帯建てて同居しているのに、経済基盤のない義姉が出戻ってくる、なんて弟のお嫁さんにしてみれば晴天の霹靂である。
弟嫁さんの実家も味方して別居騒動になっても不思議はない事態なのだが、お母さんがあまりに厳しく毅然としているので、弟夫婦が文句をつける余地がないのであった。
Kちゃん自身もおっとり、というか浮世離れした感じのお嬢さんで、昔から弟さんとの仲もよかった。
それにKちゃんのご実家、普通の会社員なのだが祖父の代まで羽振りが良かったらしく、家も土地も広い。二世帯住宅、と言っても都会の二世帯とはゆとりが違うのだ。
ご両親が亡くなった後、Kちゃんが独立するのかどうかはまだわからないが、お母さんが、
「この家にずっと住むわけじゃないから独立資金を貯めなさい」
と実家にお金を入れず貯金しているので、離婚した時のように、無一文で転がりこんでくる、状態ではない。
実家を出るにしても、そのまま弟さんと住むにしても、老後資金はあるのでそこは安心材料だ。
うーん。やっぱりお母さんがなかなか傑物だ。
後を継ぐ弟の顔も立てつつ、嫁にも配慮し、しっかり娘の資産も自力で形成させる、という。
まあ、私だったら、弟が後を継いだ二世帯住宅に転がり込もうとは思わんが。
と、その前に、生活力がない状態で離婚するんだったら、しっかり貯金をしておくか、意中の相手の気持ちくらいは確かめると思う。
ダンナの暴力とか自分の病気とか致し方ない事情で実家を頼ることがないとは言い切れないのがつらいところだが。
まあ、純粋で気持ちのまっすぐな人なので、弟夫婦ともうまくやっていけるのかもしれない。
なんか一昔前の女性の生き方、って感じだけど。