夕べ唐突に「1リットルの涙」が脳裏に浮かんできた。

 

「女優を引退する」と言っていた、沢尻エリカさんが、舞台で復活というニュースを見たので、連想的に思い浮かんだのかもしれない。

 

1リットルの涙、はテレビドラマで沢尻さんの出世作である。

でも、ドラマ版は多分ちょっとしか見ていないので記憶はあまりない。

 

このドラマ原作があり、実は私的には原作の方がなじみが深い。

 

「セクシー田中さん」で原作とドラマの内容の違いが問題になっているが、一リットルの涙、は難病に侵された女の子が書いた日記帳が原作だ。

 

15歳で神経難病にかかってしまい、25歳で亡くなった女性が書いていた日記を生前にご家族が自費出版したのが、地元の新聞で取り上げられ話題になり、大手出版社から出版され、ドラマ化したわけである。

 

ここまで書くと大体想像がつくと思うけれど、原作とドラマはかなり内容が違う。

 

何せ、15歳で難病になってしまった女の子なので、恋愛どころの話ではない。

それに40年前の地方都市なので、今時の都会の中学生とはちょっと違うのだ。スマホだってないんだから。

 

家族と普通に暮らしていたのに、急に体が不自由になり、大学病院での治療が始まり、せっかく入った高校も1年足らずで通えなくなり、全寮制の支援学校に。

 

その後は自宅療養と入院の日々で25歳の若さで亡くなられたわけで、原作には恋愛的要素は皆無なのだが、ドラマ版では錦戸亮さんが彼氏役として登場する。

 

恋愛もなければクラスメイトや兄弟との葛藤も何もない。ただただ、素直で真面目な女の子が誰を恨むでもなく病気と向き合っている日記帳なわけだが「こんな恐ろしい病気があるのか」という驚きもあって原作はまず地元で話題になり感動を呼んだのだが、ドラマや映画にするとなるとエピソードが単調ではある。

 

そこで、派手な美人のエリカ様が主人公で、錦戸亮君が恋愛相手として出てくるのだが、これはお母さまが「恋をすることもなく若くして亡くなってしまった亜也ちゃんにドラマの中だけでも恋をさせてあげたい」とおっしゃったらしい。

 

と、いうことでドラマはほとんど見てないので、なんとも言えないのだが、大人になってから気づいたことはいろいろある。

 

まず、このお母さま、最初に見たときはどこのスナックのママさんかと思うほど厚化粧で派手だった。

 

それはまだ亜也さんが存命で、自費出版の本が評判になった当時、娘の代わりに何かのインタビューに応えられた時の写真だったのだが、その後、お母さま自身も家族として娘を見守った手記を出された。

 

その中に亜也さんがお母さんを心配するエピソードがある。

 

亜也さんは5人兄弟の長女で、お母さんはフルタイムで働きながらほかの4兄弟の世話もし、入院中の亜也さんのもとにも足を運んでいる。多分亜也さんから見て疲れて見えたのだろう。

 

病気で寝たきりの娘に心配されて、お母さんは一念発起する。娘の前でくたびれた姿は見せられない。

化粧もばっちりし、若いころの服を引っ張りだして着ることにした。

それが派手な化粧になっていたわけだ。

(亜也さんが亡くなって時間がたってからご自身の手記を出版した時のインタビューではシックな感じになっていた。)

 

今になってわかることだが、このお母さんは凄い。

いや、お母さんだけじゃなくてご家族全員ものすごく頑張っている。

 

子供が5人、というのは当時としても多いのだ。

それにマイホームを建てていてローンもある。

 

昭和50年代の地方都市で、子供5人と言ったら専業主婦が多いのに、このお母さん保健師さんのお仕事をしている。

 

お母さんの手記を読んて行くとわかるのだが、当時は病院は「完全看護」ではなかったので、亜也さんのように食事も排泄も生活のすべてに援助が必要な患者さんが入院する場合、家族が付き添う必要があった。

 

それができない場合は、「付添婦」を雇うことになる。

 

在宅療養が限界になり、入院生活になって以降、付添婦さんをお願いするわけだが、お母さんの手記は付添婦さんとのトラブルがいくつか記載されている。

 

病人の介護に必ずしも資格が必要だとは思わないが、当時は介護福祉士もホームヘルパー資格もなかった。

要は「介護」は技術が必要な専門職、という概念はなかったわけだ。
 

付添婦さんは無資格で特に訓練を受けているわけではないので、人柄であるとか経験で仕事をしていくしかなく、それは仕事をしてもらわないとわからない。

 

食事をするにも2時間かかる、という亜也ちゃんの介護は付添婦さんの間でも「仕事量がハードな患者さんと認識されてしまっていてなかなか頼める人がみつからなかったり、雑な仕事をされてしまい、亜也ちゃんがつらい思いをすることすらあったという。

 

付添婦さんは病院が提携している数軒の家政婦協会から看護師を通して派遣されるのであるが、トラブルがあるたびにお母さんが交渉しなければならない。しかも戦う相手は付添婦さんだけではなく、場合によっては看護婦さんや医師も敵に回る。

 

つまり、「お母さんが仕事を辞めて付き添うのが一番いいじゃないですか」ってことだ。

 

確かにこのお母さん、ベテラン保健婦さんであるし、お母さんが付き添えれは病院的には問題解決だろう。

それにほかのお母さんで付き添っている人もいるはずだ。

 

ただ、亜也さんの家庭の場合、お母さんが収入的には実質大黒柱のような感じがする。

お父さんはタクシー運転手なのだが、お母さんは仕事と病気の長女のケアに全力を注いでいるので、下の4人の子供たちの世話はお父さんの担当にならざるを得ない。

一番下の子は5歳くらい。

そうなると、勤務時間を調整して家庭優先にしないと回らないだろう。

 

亜也さんの入院費は指定難病なので補助が出るのかもしれないが、付添婦さんに支払うお金も結構必要だったのでは。

 

夫婦で稼いで家事も分担して何とか回している状態ではなかったかと、大人になった目で見るとわかる。

 

そのあたりの事情は医師にも看護師にも説明しているのに、「お母さんが付き添えば」なんていわれたら、そりゃ爆発するよ。

 

アメブロの闘病カテゴリを読んでいると、書いているのがほとんど成人患者、ということもあるが、「入院費」「通院費」「薬代」「生活費」「病気と仕事に対する不安」に言及している方が結構多い。

 

私は仕事はしていないので、仕事復帰とか両立に関する不安はないのだが、治療費であるとか、お金に関する懸念はそりゃ気にはしている。

 

亜也ちゃんは未成年での発病で、頼りになるお母さんがいるから、お金に関する不安はなかったのだろうけれど、弟妹への気遣いは日記にも書いていた。

 

今の時代だったらどうだっただろう。

 

亜也ちゃんは全寮制の支援学校を卒業した後、自宅で過ごしていた時期もあるのだが、家族が仕事や学校に行ってしまい、一人になったとき、トイレで倒れてしまったり、と在宅生活に無理が出てきて入院となった。

 

今だったら、訪問看護やヘルパーさんの派遣があったのでは。

もう少し長い間自宅で過ごせていたのかもしれない。

 

私が「1リットルの涙」をドラマ化するとしたら、恋愛要素を足すより、お金の話とか在宅医療とか医療制度の話を足しちゃいそうだ。

 

視聴率アップは無理かも。