漫画家の芦原妃名子先生の訃報について、いろいろな立場の方からの意見が飛び交っているが、私は芦原先生の漫画は存じ上げないし、セクシー田中さんも見てない。

 

ただ、今回の件について、漫画家さんの多くが「漫画がドラマ化された場合の原作改ざんについて」怒りの声を上げているのは、結局のところ、ドラマ化を受諾した時点における漫画家さんの発言力が弱いんだろうな、と思ってしまった。

 

なんていうか、ちゃんと書面で契約していれば、契約が守られなかった場合の対応も「会社」としてできそうなもんなんだが。

 

今回のケース、漫画家さん本人が、一人で戦って、本業が忙しいのに慣れない脚本まで書くことになっちゃって、追い詰められた結果、のような気がして気の毒すぎる。
 

 

話は違うところに飛ぶが、私は学校関係の仕事についていたことがある。

 

なので、「先生」に仕事を依頼することが多かったのだか、一般的に先生にお仕事を依頼するって(常勤とか公募以外)、

 

1.仕事内容

2.拘束時間

3.紹介者の名前

 

でほとんど決まってしまう。

 

つまり、頼まれた方が、仕事内容に納得していて、紹介者とも話がついていて、曜日とか仕事の量とかが自分が受けられる量だったら、そこで話は決まるんである。

 

さて、ここで大事なことが一つ抜けているのだが、そう「賃金」である。

 

賃金はその先生が仕事を受けることが ほぼほぼ決まってから告げるのだ。(もちろん、受諾前に聞かれれば答えるが、聞かれたことがない)

 

そして、賃金とか待遇に関してはほとんどの先生が「交渉」はなさらない。

言い値である。

 

もちろん、「相場」があるので相応の金額で報酬は出すわけだが、慣例的に賃金交渉なし、なんである。

 

まあ、買い手市場、ということもあったんだが、労働契約としてはちょっとありえないな、と思っていた。

(分野にもよる。医療系の講師依頼の場合は、賃金交渉があったりする)

 

で、今回の著名な漫画家さんの訃報によって、漫画家さんとか作家さんからいろいろ上がった声の中に、「海猿」の作者の先生がおっしゃるには、漫画のドラマ化、映画化をされても原作者に入るお金は200万程度で、あとは「ドラマ化されれば本が売れるからいいでしょ」的な感じらしい。(何か上限が決まっている、なんて話もある)

 

いや、駆け出しの売れていない作家さんで、「ドラマ化されて注目されたら仕事が増えてうれしいわ」「まずは名前を売りたいのでタダでもいいからやりたい」って人だったら、ぜひともドラマにしてください、って方もいるかもだが、現実問題としては、雑誌とかで一定のファンがついてある程度売れている作品がドラマ化されるわけで、そこそこ売れても漫画家さんの作品がドラマ化されるわけだ。

 

芦原さんもヒット作をいくつか持っているベテラン漫画家さんである。

 

ベテラン漫画家さんにして、自分が原作のドラマについての発言権がほぼない。

これはさすがにシステム自体にトラブルの源があるだろう。

 

今回の件、表ざたになった流れが、脚本家と原作者のSNSでの発信だったので、当初、原作者 VS 脚本家の対立構造ととらえられ、「脚本家が原作を改ざんするのが良くない」的な議論になっているように思うのだが、実のところ、「ドラマ」「映画」制作においては、(よっぽどの大御所じゃない限り)漫画家も脚本家も実質、下請けに近い存在になっているのではないだろうか?

 

だって脚本家が原作に白羽の矢を立てて、ドラマの企画を立て、配役を決定し、スポンサーを探してくるわけじゃなさそうだもの。

 

素人だって思うのだが、売れっ子のアイドルとかイケメン俳優さんをキャスティングしたら彼らの出番が多くなるようにするし、時間帯とかスポンサーによっては、原作の内容がそぐわないから変更しなきゃならない場合も出てくる。

 

そういう希望をまとめて、脚本家に依頼するのって、テレビ局のプロデューサーだよね。

 

なので、原作から離れてしまうのが一概に「悪」とは言い切れないんだけれど、それらを全部原作者が承知していたか、ってことになると、亡くなられた芦原さんも、今声を上げている漫画家の方々も承知はしていないし、それどころか、原作から変えないでくれ、と要求は出していたし、そもそも自分の作品を丸投げする程の利益も貰ってない、って話になっているような。

 

ここで不思議なのは、なんで原作者の地位がそこまで低いのか、ってことである。

 

私たちの世代だと、女の子はみんな夢中になった漫画に「キャンディ・キャンディ」があるが、これ、絶版で古本以外で買うことができない。大人気だったのでアニメ化もされたけれど、再放送もDVDもない。

 

何故かというと、原作者と漫画家が裁判して、最高裁まで争って漫画家が負けたから。

この裁判、別に漫画家が原作を「改ざん」したわけじゃない。

 

キャンディ・キャンディが終了した後、漫画家さんは、自分の作品として独占したかったらしく、原作者さんに不利な契約を持ちかけたり、相談なしに海外版を出版したり、それでもめると、「絵」だったら原作者は関係なく売ってもいいはず、と「キャンディキャンディの『原画』」を販売していたわけだが、結局それらすべては、「原作者の許諾が必要」という判決になった。

 

つまり、原作付の漫画の場合は、原作者の許可なく漫画家が勝手に決めてはいかん、ということになっている。

 

だったら、「ドラマ」「映画」においても、改変の際は原作者の許諾が必要だろうし、映画が大ヒットして興行収入が多ければ、原作者にもそれ相応の報酬があってしかるべきなんじゃなかろうか。

 

もちろん、映画はコケる場合もあるわけだが、「海猿」なんて続編も出ているわけで、ある程度あたることがわかっているのに、原作者には報酬なし、では、そりゃ今後一緒に仕事したくないよ。

 

どうも、個人の問題じゃなくて、「出版社」が作家とか漫画家の権利について蔑ろにしすぎなんじゃないのか?

 

それとも斜陽産業なんで、テレビ様には文句が言えない、とか。