京都の北東に

いたことがある

 

山の上に

月に一度か、あるいは

特別な日しか開かない

神社があった

 

そこに

足繁く通うお姉さんがいた

 

「むかし、ある人のせいで

試験に失敗して

その人のことを恨んでて

破滅させてくださいって

お願いしにきてるんだ」

 

って

ころちゃんのご主人が

教えてくれた

 

ころちゃんは

ある年の節分祭の日に

そのお姉さんにあった

 

節分は大事なお祭りらしくて

その神社は開門していて

はなやかに賑わっていた

 

お参りの人が列を作る脇で

お姉さんは一眼も気にせず

祭壇と門の前を

往復し続けていた

 

まだ寒いのに裸足で

足の皮が厚くなってて

小指の爪が黒かった

 

朱塗りの門のそばには

汚れた布のバックが置いてあった

 

何日も洗っていない長い髪をして

服もボロボロだったけど

綺麗な人だったんだと思う

 

ころちゃんは

そんなに怖いも気持ち悪いとも

思わなかった

 

お姉さんのうつろな目から

覗いてみると

闇の中に

メガネの体格の良い温和そうな

おじさんがみえた

 

でも

おじさんの姿はだいぶ

闇に隠れてしまっていて

穏やかな顔だけが

浮かんでいる

 

お姉さんの中は

真っ暗だった

多分、思考とかはしていなくて

恨みすらもぼやけている

 

ただ呪いの動作を繰り返す

「機械」になっていた

 

もう、闇に浮かぶおじさんが

恨みの対象であるその人かもわからない

 

ふと

神社のお社に目をやると

朱塗りの末社の前に

赤い袴で目元を隠した「お姉さん」がいた

心配そうな感じで

お姉さんをじっと「見ている」

 

ころちゃんは

末社で手を合わせた

 

赤い袴の「お姉さん」は

ころちゃんの後をついてきた

 

もういいよって伝えて

ってお願いされた。

 

ころちゃんは断った。

本当に「もういい」のかもしれないけど、

リアルな人は何するかわからないもの。

 

お姉さん、ごめんね