川柳讀本岸本水府著・昭和28年初版260円)を時々開くのだが、

この中に「了入の茶碗」という見出しがあった。


 私ははじめて「了入」という言葉(後で分かったが陶芸者の名前)を知った。

水府氏が九州へ旅行をした時、前の席の客(男性)が、「婦人倶楽部」を貸してくれ読んだ。もちろん普段婦人雑誌など見ることはなかった。


 巻頭言に柳原華子女史の「嫁に行く我が娘に送る」という一文が気に入ったと書いている。それは、


 「結婚記念として、了入の黒茶碗となつめと茶杓を贈る。いずれも

家伝来の高価なもので、この値打ちがわかるのには三十年ほど後だろう。

貧しくなってもこれを持って心の糧とせよ。「レ・ミゼラブル」に出てくる

ミリエル僧正というお方は清貧に処していても銀の燭台と銀の皿を

大切に持っていて客をもてなし、清貧を克服した。お前もそのように大事に

この器を持っているように。」

 というのである。

■夢■TTW2 九代 楽吉左衛門(了入) 黒楽茶碗 茶道具 (ヤフオクオークションから画像拝借)


 この一文から、水府氏は、この器の代わりに私には「川柳」がある。

そう思った。


 「日々の耐乏生活に何一つ味はないが川柳があるために活活として

生きがいを感じている。

 私にとって川柳は、華子女史の娘さんの了入の茶碗であり、

ミリエル僧正の銀の燭台であります。私は川柳を大切に、大切に、

川柳を錆びさせないように又割らないように持っていたいと思った。」


 そして、


「切に皆さんの共感を得て、その生活の実現を共にしていきたいと思います。」

と結んだ。


  メモ 樂了入(らく りょうにゅう) 

        樂吉左衛門 楽焼の第9代陶工 江戸中期から後期