ここは県内随一の不良高校
ボンタン、シャコタン、リーゼントが
今でも健在の不良の巣窟
ここに通う生徒は全員が不良である
その中に
「マジ、アリエネエヨ!」
「ナメテンジャ ネエヨ!」
片言で威勢良く啖呵を切っている不良がいた
名前はトム・ワトソン
彼は純血のアメリカ人で
今年、日本へやってきた
よって日本語はまだ勉強中である
彼はアメリカにいた頃の
内気だった中学時代を払拭する為
日本に来る際は
不良になって高校デビューする事を決意していた
だが転校してきたこの学校が
ビーバップ時代の不良達しか存在しなかった為
トムはアメリカ人でありながら
パンチパーマに剃り込みというヘアースタイルに
変形学生服を纏った
「ナンダ テメエハ!」
「ヤンノカ コラ!」
片言ながら、不良が言いそうな事を覚えていき
トムは少しずつ不良になっていった
そんなある日
街で違う高校の不良と目が合った
「ナニ ミテンダヨ!」
不良は目が合ったらまずこう言う
相手の不良は、若干面倒くさそうであったが
トムの方へ近づいてきた
しばらく、トムとその不良は言い合いになった
「テメェがずっと見てたんだろがよ!」
「ウルセエ! オレヲ ダレダトオモッテンダヨ!」
「知らねえよ誰だよテメェ!」
「ナメテタラ ヤンゾ コラ!」
「やってやるよ!かかって来いよ!!」
トムは啖呵を切る時
「ナメテタラ ヤンゾ」に続く言葉を知らなかった
いつもはこの言葉で、相手が引いてくれる
だから「かかって来いよ!」と返してきた今日の不良は
トムにとって初めてのケースだった
「何黙ってんだよ!ビビってんのか!コラ!」
不良がトムに捲し立てた
トムはケンカをした事が無い
なので、不良同士が言い合いから
ケンカに発展していくタイミングを知らない
「これって、もうケンカしていいのかな…」
トムは内心、ケンカに入るタイミングを気にしていた
「それともまだ早いのかな…?」
変なタイミングでケンカを仕掛けたら
自分がケンカをした事の無い不良だという事がバレてしまう
「ケンカも出来ねえくせにいきがってんじゃねぇよ!」
トムがずっと黙っているので
相手の不良は帰ってしまった
その夜、トムは不良を勉強した
コンビニで不良マンガを立ち読みし
レンタルで不良DVDを借りた
そして不良がケンカをするタイミングを学んだ
次の日
駅で違う学校の不良と目が合った
「ナニ ミテンダヨ!」
トムはその不良に歩み寄った
すると
その不良は何も言わず
トムにローキックをしてきた
あまりの痛さにトムは立ち上がる事が出来なかった
その不良は無言で立ち去った
「何でコイツはこんなに早い段階で人を殴れるの?」
蹴られた脚をさすりながらトムは思った
あまりにも序盤で殴られたことにビックリしてしまった
頭の中は「?」でいっぱいだった
家に帰ってもトムの頭の「?」は消えなかった
「何であんなにすぐ殴るんだ?」
「殴るって事は、俺の事嫌いなんだよな?」
「でも会って数秒で人の事嫌いになれるか?」
トムは蹴られた不良とのやりとりを
一語一句もらさずノートに書き起こした
それでも、何故こんなに早く蹴られたのか
分からなかった
自分から啖呵を切った
だから100%相手が悪い訳ではない
でも殴られたのはムカツク
トムは再び不良マンガを読み漁った
2度とこんな想いはしない為に…
そしてトムは自分の中で
「ここから先は殴る」という線引きを決めた
ここから先は殴り合いになる
トムが腹をくくる瞬間だ
もうあんな思いはしたくない
次の日
トムはケンカの序盤で
小指を脱臼し、その場にひれ伏した