『軍神の遺言』④ラファエル=志島 | HEVENSLOST/軍神の遺言

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「やあどうも、お久し振りですね、ハイネス先生」

「これでしょうか」

「ああそうそう、いやあ驚いた驚いた、まさか旧ドイツ国製の銃弾が残っていたとは」

「中に毒が入っていましたが」

「麻痺誘発の毒も恐らくはその御国事情の裏を知っている方お手製だろうかな、何にしても新薬開発の為には有益な情報源ですよ、ただどうにもキリ君には嫌われてますね」

僕は彼に箱を渡す。

ラファエル=志島(48):医術者(専門は脳外科)

 

「それと、これを使われたという患者さんもここですか」

「改造の精度が低かったのであともう少しで完治しますが」

「改造、か」

「銃弾を躊躇なく改造できる方でしょう、扱い慣れているだけです」

「あれ、その方に追求をしてらっしゃらない?」

「誰にも話したくない事はあります、僕達と同じようにです」

彼は僕と同じで医術者、脳外科を専門とする同胞だ。ただ、少々難有、と言うべきか。

そう、こんな感じでだ。

 

いきなりになるのだが、志島君が土下座をして叫ぶというのも、何度目になるだろう。

「キリ君を俺に下さい!!」

この返答も何度目になるだろう。

「キリがいいと言うのなら」

ここで窓からキリが窓ガラスを割りながら突撃してくる。

「ぎゃ!!」

これも何度目になるだろう。

銃撃戦、近接戦闘、使用している武器は旧日本国軍製で特注とされた物ばかりであり、旧ドイツ国とかつて同盟国として世界を敵に回した当時の物、わざわざ銃弾装填する必要性もなく、連続攻撃が可能となる。

威嚇射撃だけで済めばよかったのだが、と思っていたら、この爆撃音に気付いてしまったルート君が心配になったのか来てしまった。

「な、何事!?」

「ああ大丈夫、キリが志島君だけを狙っているから僕達には害はないよ」

「え、えええええええ!?」

「大丈夫、志島君も防弾チョッキを常に装備して来るから死にはしない」

「ええええええええええ!!!」

志島君の土下座と大声も丸聞こえだったのだろうが。

「ちょ、ちょっと待ってキリ君!!俺は今日はハイネス先生に!」

ああまずいな、あれは特注の中でも特注とされる手榴弾だ。さすがにあれまで使われたら家が消し飛んでしまうか。

「キリ、志島君は僕をいじめに来たわけじゃないよ」

ピンを口で引き抜かれる前に何とか止まってくれたのは安堵。

「ほら、志島君が持っている箱、それを僕にただもらいに来たというだけだから、何も僕は嫌な事を言われたりしていないよ」

「うん、キリ、わかった」

「それとキリ、ルート君が驚いてしまっているから、庭に一緒に行くといいよ」

「うん、るーとといく」

何とかなったかな、と安堵。キリとルート君が出ていくのを見送る。

 

「しかし本当に凄いですね、さすがは旧日本国軍の方と言うべきか、身体が勝手に動くまでに鍛錬された秀逸な腕は毎度、見事ですよ」

「僕は志島君が冷静に対応できている方が見事だと思いますが」

「ただ気になるんですよハイネス先生、何故キリ君が神﨑桐と名乗っていないのか、ですがね」

「以前も説明はしましたよ」

「肝心な部分をご説明頂けていませんが」

「第六次世界大戦末期の件の一抹は説明しましたよ、志島君は連合国軍で軍医をなさってましたね、だからです」

「はいはい、つまりは彼女が関与しているというだけですね、それももう聞きましたがどうにも説明が付きませんよ、俺は脳外科医ですよ」

「ならば医術者として責務を果たすまでです、どうぞ新薬開発の為にそれを」

「はい確かに。ただ銃弾を躊躇なく扱える、旧ドイツ国製、ともなれば旧ドイツ国出身の世界警察刑事課の警部さんが、とも俺は考えますがね」

それは僕が関与すべき事ではないし、ルート君も触れられたくない事情となるのだから、僕は敢えて尋ねる事はしない。

僕達にも関与されては厳禁とされる事情があるのと同じで、それは誰しもにあるものなのだからと僕は随分と昔に思い知った事なのだ。

 

 

「キリちゃん、びっくりしたよ」

「あいつきらい」

「嫌いってだけであれは危ないよ、というか、キリちゃんは不思議だよね」

「ぶー」

骨を埋めた所じゃない場所を掘っているだけのキリちゃんを俺はぼけっと見ている。

「何してるの今度は」

「あなほり」

「穴を掘っても、埋める骨がないよ」

「あなほり、すき」

「そっか」

「あ、るーと、ばーばるくんだよ」

ああ、バーバル君って、愛車がどうのという?

俺は少し足を引き摺りながらでも、その愛車という車をキリちゃんと見る事となる。

かなりの高級車だな、ああこれ、旧アメリカ連邦製じゃないか。まだこんな稀有な車が生き残っているとは。

「ばーばるくん、おかしなおとしてるよ」

「おかしな音?」

「ここだよここ、うん」

「ん?」

「キリ、できるよ」

「キリちゃん、話してるの?」

「ばーばるくん、しゃべるよ」

「え!?」

車が喋る!?

しかもキリちゃんがめちゃくちゃメカニックみたいな事始めた!!

それって多分エンジンオイルを交換するとかの!!

えええええええ、何かすっごい事してるんだけど!?俺でも理解出来ないよ!?だって外国製の車なんか分からないし!!

「ふー、ばーばるくん、おかしなおとなくなったよ」

ああ、また真っ黒になってるじゃないか…。

そこへ車の持ち主さんが戻ってくるのだが、キリちゃんは、え、普通!?

「あれま、バーバル、元気になってる!?」

「キリ、おかしなおとなくしたの」

「あれま、キリ君ありがとう、何してくれたんだろうかなあ」

「ここだよ」

「え、あちゃー、最近オイル交換とかしてなかったし、あれれ、タイヤの空気圧まで、キリ君ありがとー」

「ラファエルはバカだよ」

「すみませーん、バーバルも良かったね~」

さっきの険悪なムード皆無。

「あ、もしかして君がこの銃弾を撃たれた人かな?」

「え、ええ、まあ」

「どうしてなのかな、何故君が世界警察刑事課警部、ヴィッヒ=ダルクさんにこれを撃たれたか、すごく疑問だよ、うんうん、疑問」

返す言葉が、ないなあ。

「ばいばい、ばーばるくん」

ああ本当に、返す言葉もなければ、返したい物もまだ、まだ5個、失ったままだ。