【七海麻美の恋物語/導入】麻美ちゃんの正体とは?
はいどーも!ブロガーで水原千鶴オタクの甲楽わんです。かのかり楽しんでますか。
この記事では、かのかりのヒロインにしてダークサイド、七海麻美ちゃんについて、徹底的に分析していきます。まずは、七海麻美というキャラクターを振り返ってみましょう。その後、七海麻美の視点で物語を丁寧に見ていこうと思います(記事は準備中)。麻美ちゃん怖いと思っている方も、きっと見方が変わるはずです。
ダークサイド七海麻美
元カレ和也の前ではエンジェルを演じ、裏ではツイッターで毒を吐く。飲み会では、和也のこと散々悪く言い、付き合う気はないのに彼の気を惹こうとする。その行動やセリフの意図が分からない。とにかくミステリアスで恐怖感のあるダークサイドとして、圧倒的な存在感を放つ七海麻美(褒めてます)。このキャラクターがいてくれるからこそ、他のラブコメにはない恐怖感や危機感が生まれ、「彼女、お借りします」の一味も二味も違った魅力に繋がっています。
◆Twitterに不満を吐き出す麻美 10話
七海麻美は、和也への感情のネガティブの部分(要は嫉妬や執着)が、強調されて描かれています。和也の前では可愛い元カノを演じながら、裏ではTwitterで毒を吐いている。また、気持ちが落ち込んだときやフラストレーションが溜まったときには、まるでゾンビか幽霊であるかのように、その瞳は真っ黒に染まる。
◆もう…生まれないんだねぇ 麻也は 8話
その姿から私たち読者は、オモテではゆるふわエンジェルを演じながら、裏では和也や千鶴に対する「悪意」を持っているのではないか。その演技で和也を騙しながら、本心ではけらけらと笑って馬鹿にしているんだろう。そのような「七海麻美像」を描いてしまいがちです。
しかし、それは本当の姿でしょうか。
もちろん、ただかのかりを楽しむだけなら「悪役」と捉えてもいいですし、おそらく、読者にそういう麻美像を作らせるのは作者の狙いなんでょう。七海麻美が和也と千鶴の敵対関係にあることは変わりないですし、読者から見たらフラストレーションの溜まる恐怖感のあるヒロインであることには変わりません。
それでも、七海麻美の正体は、決して「頭のおかしい子」ではありません。ただ私たちが、彼女について分からない部分を、麻美は性格の悪い子、精神的に壊れてしまった子と邪推して埋めようとしているだけではないでしょうか。彼女の事情を汲み取ろうとせず、和也や千鶴、自分たちにとって都合の悪い存在というだけで、悪者扱いしていませんか。
麻美は、和也を騙そうとしてエンジェルを演じているわけでも、和也をバカにして裏で毒を吐いているわけでもありません。瑠夏ちゃんや墨ちゃんと同じく、千鶴と敵対関係にある(和也を奪い合う関係にある)ヒロインの一人です。和也に恋をし、うまく行かないと悩む普通の女の子です。
ここでいう「普通」とは、漫画のヒロインで出てくるような理想的な人と言う意味ではありません。私たちと同じように良いところもあれば悪いところもある人という意味です。ちゃんと彼女の立場になって物語を読めば、一つ一つの行動の目的や動機はしっかりと描かれていて、彼女の気持ちはちゃんと分かります。和也と出会った後の麻美の心境の変化や、和也と千鶴に執着する理由は、丁寧に描かれています。
麻美ちゃんの言葉や行動の裏にある気持ちについては、この導入記事の後、七海麻美の恋物語①(準備中)で丁寧に見ていきます。
では、麻美ちゃんの正体について、見ていきましょう。
七海麻美の裏 Twitter 沼アカウント
裏と表の性格がある麻美。それを知ってしまうと、和也の前で笑顔を作りながら、その本心は別のことを考えているんじゃないかと恐怖を感じてしまいます。では、彼女の演技の裏にある本心はどう見抜けばいいんでしょうか。ここで七海麻美の気持ちを掴むために私たちがやらなくてはならないのは、その言葉が本心なのか演技なのか見抜くことでもなく、セリフが真実なのか嘘なのかを見抜くことでもありません。
何のためにエンジェルを演じるのか、何のためにTwitterで毒を吐くのか。その「動機(目的)」と、その気持ちを生み出している「状況」を知ることです。それを物語から読み取る必要があります。
まずは、Twitterで毒を吐く麻美を見てみます。
◆Twitterに不満を吐き出す麻美 7話
一か月で彼女つくるとか あてつけ?
名前なんだっけ? ちづこ? つるこ? 忘れた
私の前で かばうとか ありえない
ぜってー 別れさす
下田の海で、新しく彼女を作った和也に対して毒をはいた麻美(7話)。この場所に行きつくまで麻美に何があったのか(状況)を整理します。
麻美は、この前の飲み会(5-8話)で、和也がすぐに新しい彼女を作ったことに不満を持っていました。だから和也がまだ自分のものであることを(自分を好きであることを)確かめたくなり、和也に庇ってもらおうとしたり、帰り際に優しく接したりしました。
◆自分の悪口を言った麻美をかばう和也 5話
麻美が和也と寄りを戻す気があるかは分かりませんし、ここで考える必要もありません(ただし、実際には、麻美の家庭の事情を考えると、たとえ和也のことが好きでたまらなくても、付き合うのは難しいでしょう。これについては後々話します)。恋心があることと、恋人関係を築く気があるかは別次元の話です。麻美は彼の気持ちが自分から離れていくのが嫌で嫌で仕方がなく、自分のものにしておきたいという気持ちに注目してください。
◆和也に好きだと言ってもらい満足顔な麻美 6話
そっか ごめんね よしよし
帰り際、和也はまだ麻美のことが好きなんだと言ってくれました。和君はまだ自分が一番好き。満足顔の麻美。
それを知った麻美は、新しい彼女の悪口を言います。
でも私 地雷多いコ 苦手だな
少し カラミ辛いっていうか… イタいっていうか?
和くんも大っきいんだから 中身見ないと!
麻美は遠回しに「あんなコとは付き合わない方イイよ」って言ってるわけです。麻美はきっと和君は自分の味方になって「麻美ちゃんの言う通り、もう別れる」と言ってくれると信じていました。しかし、
◆水原は そんなコじゃないよ 6話
水原は そんなコじゃないよ
和也の返事は麻美の期待を裏切るものでした。和也は、新しい彼女をかばい、その子のところへ向かってしまったのです。和也の気持ちが新しい彼女に向かってしまったことに不満があった麻美からしたら、本当にショッキングな一言だったはずです。
◆今の彼女のところへ向かう和也を見て唇をかむ麻美 6話
なんで? 和君 私が一番じゃないの?
唇を噛み締める麻美。この瞬間、和也の気持ちを繋ぎ止めることを決意したはずです。いや、頭ではそんなことするのはダサいと思いながら、どうしても繋ぎ止めたいという気持ちが止められなかったのかもしれません。
麻美は和也と下田の海へ遊びに行くことを決めます。もちろん、和也の気持ちを取り戻すために。
そこで和也と千鶴が二人きりで話しているのを見かけます。
◆Twitterに不満を吐き出す麻美 10話
友達の集まりだよ 普通呼ぶ? 私に見せびらかしたいわけ?
マジ これだから童貞はイタい
は?何がお久しぶりだよ 一生現れんな
スイーツカップル逝けよ
麻美は、和也と千鶴が仲良く話していることに不満を持ち、その不満を何とかして吐き出したいんですね(目的)。使っている言葉は、きれいなものではないですが、これは和也をバカにしたくてやってるわけではありません。自分を好きだと言ってくれるはずの和也が、自分の思い通りになっていないことに不満が抑えられなくなり、それが和也へ「悪口」となって吐き出されているんですね。
たとえば、これは、クリスマスにデートをすっぽかしてしまった彼氏に対して彼女が不満をぶつけるのと同じです。女の子の方は、クリスマスに大好きな彼と一緒にいられると思っていた。でも、彼は急に仕事があるからと言って、デートは中止になってしまった。彼女は、バカ、最低、死ね、別れると言って、散々彼に対して悪口を言うかもしれませんね。でも、コレはそれだけ彼のことが好きなんですよ。楽しみにしていた時間がなくなってしまったことに対する苛立ちや、自分を大切にしてくれていないんじゃないかという不安が、悪口という形になっているだけ。心は、どうして私を好きって言ってくれないの、もっと大切にして、と叫んでいるわけです。
麻美は和也に恋しているのか
もちろん、Twitterに毒を吐く麻美の気持ちが純粋な「恋心」なのかと言われたら微妙かもしれません。モテないと思っていた和也が、すぐに自分のことなんか忘れて新しい彼女を作ってしまったことにムカついた(プライドが傷つけられた)。だからもう一度彼の気持ちを取り戻したいと思った。麻美自身は、そう認識していたのかもしれません。
しかし、下田の海の件以降、麻美が和也に振られてしまったことに深く傷つき(20話)、寂しくて彼の影を追っている様子を見ると(35話)、それだけでは絶対に説明できません。
◆もう 恋なんてしないって決めてるんだから (恋なんかしたって 辛いだけじゃないっ) 20話
◆和也の影を追う麻美 35話
たとえ麻美自身は気づいていなくても、そこに純粋な「恋心」が混じっていたことは疑いの余地はないでしょう。まぁ、千鶴もそうですが、かのかりでは自分の頭で認識していることと心で感じていることに乖離があることはよくあることです。
実際、麻美が和也と付き合っているときを想像すると、いつも真っ直ぐ好きだと伝えてくれて自分に一生懸命になってくれる和也を気に入ってたんじゃないでしょうか。頭では大した男ではないと思っていたり、周りの友達にはなんとなく付き合っているだけと話していたとしても、心は和也の優しさに満たされていたのかもしれません。
麻美がTwitterに千鶴と和也の悪口を言っているとき、彼女の心には「どうして他の子がイイの?私のこと好きだって言ったじゃん!?」という気持ちが流れています。それは、七海麻美の「和也への恋心」が現れたものに他なりません。
もし千鶴が麻美と同じ状況だったら(和也が他の女の子と付き合って、その子と一緒にいたら)、何もできず傍観し、ひとり部屋で傷ついているでしょう。瑠夏ちゃんなら、「彼女は私です!」と直接その女の子(と和也)に苛立ちをぶつけに行くはずです。麻美の場合は、この不満を「スイーツカップル逝け」とか「これだから童貞はイタい」とか、Twitterに悪口を吐き出すことで解消してるわけです。
お正月に和也の影を追って以降(35話)、麻美が失恋から立ち直ったと分るシーンは描かれていません。ハワイアンズへの旅行へも、麻美は和也を失った寂しさを抱えたまま来ているのです。
七海麻美のオモテ エンジェル
麻美は裏では汚い言葉を並べながら、和也の前では可愛いエンジェルを演じます。
◆エンジェルを演じる麻美 7話
◆もう…生まれないんだねぇ 麻也は 8話
下田の海で、別れて寂しい元カノを演じる麻美。和也と付き合ってた時を懐かしんだり、寂しげな表情を浮かべたりします。
このとき麻美の本心は、どこにあるのでしょうか。
麻美の気持ちを掴むときに、どのセリフが本心でどのセリフが演技なのか、どこまでが本心でどこまでが演技なのかを知る必要はありません。大事なのは、麻美が和也の気持ちを取り戻したくて、それをやっていると言うことです。「彼氏と別れて寂しがっている可愛い元カノ」を演じることで麻美が得たいもの(目的)が、和也の気持ちだということです。
自分が大好きな和くんでいて欲しい
麻美はまた和君に自分が好きだと言ってもらえるように、多少話を盛ったり、普段は隠している気持ちを見せたり、逆に不満や苛立ちを隠したりしているはずです。しかしそれはすべて、自分が大好きな和くんでいて欲しいから。大事なのは、その気持ちの方です。
たとえ麻美が自覚していなかったとしても和也への恋心があった。なら、ココで演じている寂しげな元カノは、普段なら強がって見せられない本当の気持ちを少しだけ和也に見せている、七海麻美の本当の姿だと言えるかもしれません。
麻美は、自分が相手の味方であるかのように振舞いながら、うまく相手の気持ちを誘導し、自分の思い通りに行動させてしまうような子です。裏でTwitterに不満を吐き捨てる姿を見ると、私たちは天使の顔の裏にある「悪魔」を想像しがちです。しかし彼女の悪口は、和也が自分の思い通りにならない不満が現れてしまっているだけで、本気で彼を嫌っているわけではありません。
また、麻美がイイ子を演じる基本的な動機(目的)は、悪意を隠すためではありません。反抗して敵を作るのが怖いから、いい子だと思われたいからです。また好きな人の前では、可愛い女の子だと思われたいからです。
私たちもまた麻美と同じように演技をします。先生の言うことが良く分からなくても、賢いように見られたくて、「なるほど」と言ってしまったとか。借りた本がいまいち面白くなくても、相手をがっかりさせてくなくて、面白かったと言ってしまうとか。彼女に別れたいと言われて、辛くて仕方がないのに、迷惑をかけるのは良くないと思って「平気だよ」と言ってしまう。でも裏では、友達に話を聞いてもらいながら朝まで飲んだとか。あなたが新人社員なら、嫌な上司の前であっても、おべっかを使い、明るくはきはきとした物言いで、「優秀な新人」を演じるはずです。私たちは、多かれ少なかれ、相手に自分がどう見えるか、相手に自分の言葉がどう影響するかを想像しながら、自分の外側を作っています。相手に言うべきか、言わざるべきか、何を話したら素敵な自分だと思ってもらえるのか考えています。麻美の場合は、それを極めているという感じでしょうか。
麻美は、相手の要求や感情を掴むのがうまく、相手にとっての「理想」をつかむのがうまい。常に思考の軸を他者において、自分がどう見られているのか把握しているという感じでしょうか。また、その「理想」を簡単に作り上げることができる。さらに、見た目は最強クラスに可愛い。麻美は演技ひとつで、相手を、この子の力になってあげたい、信頼してあげたいという気持ちにさせてしまいます。可愛い自分を演じることは麻美にとって、良好な人間関係を築きながら、無駄な対立を避け、自分の要求を伝える方法なんですね。たったそれだけのこと。
麻美の表と裏の顔を、演技や本心という見方ではなく、それをしてしまう目的と状況という切り口で見てきました。見方を変えれば、エンジェルを演じている方の麻美が「真実」で、Twitterで毒を吐いていときの麻美が「嘘」だとも言えます。麻美の和君に好きになってもらいたいという本心が「かわいい元カノを演技じる」という形で素直に現れている一方、和也の悪口を言う麻美は不満が爆発してるだけで本心で彼を嫌っているわけではないのですから。
強がりな七海麻美
麻美のエンジェル演技は、海での一件を境に変化しています。それまでは和也に対してまだ「彼に気がある元カノ」を演じていました。一方、その後は「別れても傷ついてない元カノ」を演じています。
◆和也に新しい女の子(?)が近づいていることに苛立ちながら 彼の前では素敵な元カノでいようとする麻美 43話
私 何も見てないからっ
和くんのヒミツは 守るよ
元カノとしてねっ
和也が他の女の子(墨)とデートをしているのを見つけた麻美は、元カノとして秘密にしてあげると言います。
海で和也は自分の元へは来てくれなかった。心の底では、その現実に傷ついているのに、彼の前では平気を装っているのです。それはきっと、未練まみれのウザい元カノだと思われたくないから、和君はもう立ち直ってるのに、寂しさを抱えたままのダサい自分を見せられないからでしょう。
下田の海へ行く前は、まだ和君は自分のことが一番好きだと信じられた。だから、和也と別れてしまって寂しい気持ちを見せ、彼の気持ちを再びを自分の元へ手繰り寄せようとした。
◆和也を心配する麻美 62話
しかし、海での一件で彼の気持ちが完全に水原千鶴に行ってしまったと実感した今、そんなことできなくなってしまった。和也の気持ちは、自分にはない。そんな状況で、本気で彼を誘惑してもうまく行かない、ただ未練まみれのウザい元カノだと思われてしまう。和君はもう立ち直ってるのに、寂しさを抱えたままのダサい自分を見せられない。だから、和也の前では、寂しさや不満を隠し、彼の幸せを願っている素敵な元カノでいたいと思ってしまう。麻美はそんな目的をもって(頭で理解しているかは分かりませんが)、エンジェルを演じているはずです。
見方を変えれば、麻美は他者と本音で対立することができない不器用な女の子、と捉えることもできるわけですね(まぁ、その点では千鶴も負けていませんが笑)。本音では、新しい彼女ができたことが不満があるのに、和也には本心をぶつけられない。水原千鶴をレンタルしていることや、和也の周りに女の子が増えていくことが嫌で仕方がなくても、和也本人には何も言えず、別れた彼を思う理想の元カノを演じてしまう。和君に嫌われたくない、ウザい女だと思われたくない、傷ついているなんて思われたくない、可愛いと思って欲しい、そういう気持ちがブレーキとなり、不満や寂しさを和也にをぶつけられない。そう思うとなんだか、とてもかわいいですね。
麻美から見た和也と千鶴の関係
麻美の気持ちや目的を掴むときに必要なことは、七海麻美の視点を持つことです。読者の視点や、すべてを知っている神の視点、和也や千鶴の視点ではなく、麻美本人の視点です。あなたが七海麻美になって、元カレの和也が水原千鶴をレンタルすることをどう感じるのか想像してみることです。そうすれば、麻美のやっている行動や、千鶴に対するフラストレーションもかなり共感できるもだと分るはずです。
◆もう 恋なんてしないって決めてるんだから (恋なんかしたって 辛いだけじゃないっ) 20話
もう 恋なんてしないって決めてるんだから
海で和也の気持ちを取り戻すことができず、深く傷ついた麻美。「恋なんてくだらないものはしないって決めてるんだから、和也を失っても平気なんだ」そう自分に言い聞かせます。頭では、大した男の子でない、自分は大丈夫だと思っても、そう自分に言い聞かせても、心は寂しいと叫んでいた。和君に新しい女の子が近づくと、イライラして仕方がなかった。その後、麻美は和也の新しい彼女、水原千鶴がレンタル(偽物)であることを知ります。
コレをあなた自身の問題だと考えてみてください。もしくは、家族や大切な友達に相談されたことだと思って、考えてみてください。
たとえば、あなたに大切な彼女(または彼氏)がいたとします。その人との時間は本当に素敵で、彼女(彼)が大好きだった。もっとこの時間が続けばいいと願っていたし、続くと思っていた。
しかし、ある日、好きな人ができたから別れて欲しいと言われてしまった。彼女は、ずっと自分を好きだと言ってくれたのに、突然どうして?彼女はもう自分のことなんて好きじゃなくなったんだ。あなたは、その現実に傷つき、涙し、辛い気持ちを友達に相談するのかもしれません。その子の悪口を言うことで、忘れようとするかもしれません。
そんなとき、別れた彼女が好きだと言った人が、ホストクラブのホストだったら、あなたはどう思うでしょうか。そのホストは、作り物の笑顔とトーク、偽物の恋心で、その子を本気で好きにさせてしまった。ホストのいう甘い言葉は全てサービス。そのせいで彼女は、毎月数万円というお金を失い続けている。そんな作り物の笑顔に、楽しそうに答える元カノ。元カノは、そのホストが自分の彼氏だと友達に紹介している。ホストの方もそれに協力している。
あなたは、この状況で、黙っていられますか。
◆「恋人ごっこ」はやめて 47話
止めさせなきゃいけない
あの子(元カノ)が心配でたまらない
このホスト 本物の彼氏だとか言って 何考えてるんだよ!
「恋人ごっこ」はやめて。そう思うのが普通じゃないですか。麻美が千鶴に忠告したときに見ている世界は、これです。
そしてもし、このホストに、あの子(元カノ)の恋心とちゃんと向き合ってくださいなんて言われたら、
◆うざ 私と和君の問題でしょ 49話
自分であの子を本気にさせておいて 何言ってんだよ
俺があの子の気持ちに向き合えないのは 全部お前のせいじゃないか!
ただのホストが 干渉してくるんじゃないよ
そう言いたくなるのはめちゃめちゃ自然な感情です。100人いたら99人は、麻美と同じように、「うざっ」と千鶴に言ってしまうんじゃないでしょうか。
あなたは麻美のように千鶴に忠告することはできないかもしれません。他のやり方を選ぶかもしれません。それでも、自分の心の中に麻美と同じ感情を見つけることができるはずです。
麻美は、読者に自分の気持ちを語ってくれません。和也や千鶴に対しても、本心を見せようとしませんし、言い方はいつも遠回しです。しかし、物語の中で麻美が和也にどんな思いを持っていたのか、千鶴と和也が麻美に何をしてきたのかを、麻美の視点で丁寧に整理してみれば、彼女の行動の裏にある気持ちは共感できるものなのです。
和也と千鶴への執着と 麻美の過去
麻美は、和也が千鶴をレンタルして彼女だと言い張っていたことを知ったあと、千鶴をレンタルして「恋人ごっこ」は止めるように忠告します(47-49話)。
さらに、和也の家に女性物のバッグが置いてあるのを見つけて(61話)和也と千鶴の本当の関係を探ったり(75-77話話)、最後には、木ノ下家の家族旅行にまでついて来て二人の嘘の恋人関係を壊そうとしたりします(191-223話)。
どうして、そこまで和也と千鶴に執着するのでしょうか。その行動のモチベーションは一体何なのでしょうか。
それは、自分の手に入らないものを持っている人に対する「嫉妬」です。
その嫉妬心を強化するように、麻美の行動の理由が説明されたのが麻美の過去回です。
(詳しい解説はこちら→【215話】 ついに明かされた七海麻美の過去)
麻美は中学3年生のとき、太郎くんという男の子に恋をします。麻美は、男女交際を許さないような厳格な家で育って来たのですが、それに反抗して太郎君と付き合っていたのです。
太郎君との恋は、一緒にどこかへ遊びに行ったり、ゲームをしたり、たまにはケンカをしたり、有り体なものでした。それでも、麻美にとってその恋は大切なものでした。太郎君は、いつかお父さんを説得して麻美ちゃんを幸せにすると言ってくれます。麻美は太郎君との将来を夢見ていました。
しかし、麻美の父親は、太郎君との交際を認めませんでした。麻美には、許嫁がいたのです。
◆太郎と別れろって…! 人の人生 まじ 何だと思ってんの!? 215話
太郎と別れろって…!
人の人生 まじ 何だと思ってんの!?
麻美は声を荒げ反発します。しかし、
◆ごめん 好きな人が出来た 別れよう 215話
そのとき麻美の元に届いたのは、太郎君からの「ごめん好きな人が出来た。別れよう」というLINEでした。麻美は本当に彼のことが大好きだったのに、幸せにすると誓ってくれたのに、彼はあっさり麻美を諦めてしまったのです。
◆太郎君に裏切られ、親の言いなりになるしかなかった麻美 215話
親に突き放され、太郎君にも裏切られた麻美は、親の言いなりになるしかありませんでした。麻美は、好きでもない相手と結婚させられます。麻美が誰かに恋をして、愛してもらうことはないでしょう。
もしあなたが麻美と同じ状況だったら、何を感じるでしょうか。大好きだった人と無理やり別れさせられ、もう二度と恋が許されなかったら。胸の高鳴りも、傍にいてくれる安心感も得られず、深い寂しさを永遠に抱えなければならなかったら。あなたは、どうやってこの辛い現実の中で生きて行きますか。
◆そもそも 「恋」だの「愛」だのなんて言葉も 飲み会で盛り上がる為の 後付けのラベリングにしか思えなかった 215話
そもそも 「恋」だの「愛」だのなんて言葉も
飲み会で盛り上がる為の 後付けのラベリングにしか思えなかった
◆もう 恋なんてしないって決めてるんだから (恋なんかしたって 辛いだけじゃないっ) 20話
もう 恋なんてしないって決めてるんだから
麻美は、もう恋なんてしないと決めます。恋なんてくだらないもの。愛なんて存在しない。私には必要ない。そんなものに夢中になって生きてる人たちは、ただバカ。そう自分に言い聞かせ、自分を納得させ、人生を生きて行こうとするんです。まるで自分が恋をしないのは自分自身で選んだ賢い選択かのように言うのです(詳しい解説はこちら→【解説】もう恋なんてしないって決めてるんだから/認知的不協和とかのかり)。
しかし、麻美がどんなに恋なんて必要ないと自分に言い聞かせても、心が満たされることはありません。ただ自分の本心を誤魔化しているだけ。その心は、誰かに恋をして愛されたいと叫んでしまうんです。好きな人の傍でドキドキしたい、寂しさを満たして欲しいと叫んでしまうんです。だから、それを手にしている人に対して、抑えきれないほど大きな嫉妬心を抱いてしまうんですね。
◆どいつもこいつも 「恋人ごっこ」してんじゃねぇよって 215話
どいつもこいつも 「恋人ごっこ」してんじゃねぇよって
麻美は、絶対に恋や愛が素敵なものだとは認めません。あんなもの、ただの「恋人ごっこ」だと言います。恋している人たちには、そう言いつけてやりたくて仕方がないんです。だって、もしそれが本当に素敵なものだったら、手に入らない麻美は辛いだけなんだから(詳しい解説はこちら→【解説】もう恋なんてしないって決めてるんだから/認知的不協和とかのかり)。
だから、麻美は恋をしている人たち見ると、彼らの恋人関係を壊したくなってしまいます。「恋や愛なんて存在しないのに、『恋人ごっこ』なんてしてんじゃねーよ」と、馬鹿にしたくなるんです。和也の前で幸せそうに笑う千鶴を、陰湿と言えるほどのやり方で苦しめたくなるんです。
ただし、壊してしまいたいという衝動があることと、実際に行動に移そうと思うかは、また別の話です。麻美の過去は今の彼女の行動全てを説明してるわけではありません。麻美は出会った恋人たちすべてに対して手あたり次第壊そうとしているわけではないのです。
どうして和也と千鶴に対してだけ恋人関係を壊してやろうと行動したのか、二人に執着しているのか。そこには、和也を千鶴に奪われてしまったという妬みがあるはずです(【195話】押しつけられた麻美との約束)。千鶴に和也の気持ちを奪われてしまった。千鶴は嘘の恋人関係を続け、ついには本物の彼女になろうとしている。水原千鶴は、ちゃんと「恋」をして、好きな人と結婚できる。私たちは、これまで描かれてきた物語にも目を向けなければいけません。
さらに、千鶴と和也は麻美の行動に正当性を与えてしまった。読者の視点で見れば、千鶴と和也は間違ったことしているように見えないかもしれません。しかし、第三者の視点で見たら、レンタル彼女が嘘をついて本物の彼女を演じてるなんて、明らかに間違った行動です。千鶴は事務所にまで嘘をつき、お客である和也は嘘を隠すために大金を千鶴に渡しているんです。そんな関係が健全なはずがありません。嘘は暴かれてしかるべきだし、それをお客に許してしまっている千鶴は責任を問われてしかるべきです。たとえ木ノ下家や友達の前で嘘を暴かれても、当然の報いでしょう。ただ麻美は本当の事を明かしただけです。誰も麻美を責めることなんてできません。悪いのは、嘘を隠し続けた千鶴と和也です。
麻美は、彼女なりの正義感に従って生きています。嫉妬しているからと言って、何でもできるわけではありません。それは、第三者や麻美の視点を持てば簡単に理解できるものです。そして、恋も愛も手に入らないという辛い現実の中で、一生懸命に前を向いて生きている女の子です。
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