暗くなった6時10分、夕食のおかずを並べはじめていた時、妻籠宿寺下地区の家から電話があった。
「今日やってる?」
「今日?今日はやってないけど・・」と私。
「今、一人お客さんが来て、泊まるところを探しているんだけど・・」「案内所はもうやってないし、受けてくれるところが無いんだわ・・」「どうしたらいい?」
「ちょっと待って、女房に代わるで・・」
この時間から一人のお客のために、食事の用意をし、家中や部屋を暖めたり、お風呂の用意を考えると、受ける宿は無いだろう。
電話を渡しながら、〔女房の事だ。多分受けるだろうなぁ〕と思った。
お客さんを路頭に迷わせるわけにはいかない。
電話をくれた○子さんを困らせられない。
案の定、話しているうちに「じゃぁ、迎えに行くわ・・」と言っている。
妻が受けるといえば私は従うだけである。
車を暖めてすぐ迎えに行ってきた。
車中でも、「無計画に出てきたものですから・・甘かったです・・」「すみません・・すみません・・」と恐縮している。
「うん!確かに考えが甘かったね」私ははっきり言う。
「都会の感覚と田舎では違うからねぇ・・」
七時過ぎから、何とか普段並みの料理を出して食事をしてもらった。
21歳の自衛官という事で、礼儀正しく年齢の割りにしっかりした好青年だった。
少年時代、自分から希望して北海道の里親制度で田舎の生活を二年したとか、中学生時代にはフォートコンテストで全国一位になったり、山梨県の高校で三年間寮生活をされたとか・・。
囲炉裏端で、九時過ぎまで話を聞かせてもらい、私も私の考えや妻籠宿の現状の話等、様々な話をしてから、お風呂に行かれた。
「いろんなものを守るために、そういうときが来たら、例え紛争地であっても希望して行こうと思います」
現職青年自衛官の考えに触れ、頼もしい思いがした。