空挺隊員になるという希望と、他の奴には負けられないという気持ちで習志野駐屯地の正門に入る。もとい、自由が無くなることを覚悟していたので、入る前に食い収めとばかりに近くのコンビニで弁当やジャンクフードをたらふく食べた。さて、警衛に隊員証明を提示する。警衛も空挺だから胸には空挺バッジがある。美貌の眼差しで一瞬見入る。一歩入ると他の部隊とは違うなと直ぐ分別できた。隊員のガタイも面構えも施設も他とは全く違った。他の駐屯地には何人かは太っちょな奴、色ボケの髪型をした者、だらしない服装をした後方支援部隊の輩が少なからずいる。何人かはいるもんだ。しかし、ここは違った。周り全員が鍛えまくっていた。戦力外は居ることが許されないように感じた。だらしない者は1人として見当たらない。試験の前に手続きをする建物まで歩いていると、まず大きな鉄塔が目に余るくらいにある。その鉄塔の大きな看板に「精鋭無比」と書いてあった。やっぱり、ここは最強部隊なんだと妙に自分が選んだ道に間違いがなかったことに安堵を覚えていた。記憶が薄いが、手続きをして営内(生活する部屋)に入るとそこは確か10人~くらいの部屋だった。早速、頭を丸められ空挺刈りにされる。所謂、マリーンみたいな髪型で映画フルメタルジャケットで髪を切られるシーンみたいなもんだ。みんな気合が入りまくりで、武勇伝を語るもの、自慢の体から始まり腕相撲、腕立て伏せ勝負と華が咲いたが一瞬で終わった。間もなくして空挺試験が始まった。殆どの奴が自分は強いと思っている者ばかり。そういう者は大概にして態度に出る。そしてところ構わず教官から間髪なしで殴られる。私の教育期間で少なくとも3人はかなり殴られていた。普通の叩かれ方ではない。吹っ飛ばされるとはこのことなんだなと、感心するくらいの見事な殴りだ。完全に人を殴ってきた殴り。私も洗礼を受けた1人であった。拳が見えなかった。その日から2日はご飯が上手く食べられなかった。噛み合わせがズレたためだ。しかし、暴力のまえでは服従は生まれやがて統率できる部隊が生まれる。慣れや褒めでは強さは生まれないと思った。因みに銃を持ちながら走るハイポートで怒鳴られながらバシバシ頭、背中、ケツを叩かれ蹴りをいれられと中には限界が来て遅れてくる者もいる。そいつを助けようと脇に手をやると助けようとした本人も教官から歓迎の蹴りや叩きがやってくる。或いは、助けようとした隊員にはもっと負荷をかけて走らされる。言葉ではなんだか、これは実際経験したものだけが解る苦しみ。試験過程始めで既に自分のことだけでもキツくなってくる。自由の時間なんぞ無い、男性特有の生理現象の儀式も忘れてしまう。大袈裟ではなく本当に自分の足の裏さえ見る時間もないくらいに追い込まれる。唯一、自分の世界に戻れるのはこの狭いベッドだけ。目をつぶれると北海道の部隊のことを思い出した。殆ど女のことばかりだった。実はこのころ、ワック(婦人自衛官)から何通か手紙が来ていた。空挺にいくことについて応援してくれてたんだが、後日来たばかりの、封を開けていない手紙を見たある上官がその手紙にこう書いてきた。「教育的指導あり後で部屋に来い」と。しまった!手紙には丁寧に北海道の部隊名に女の子の名前が書いてある。人の手紙に書くんじゃねーよ!と渋りながらも半分冗談だろうと思ったが、行かないと後でとんでもない罰があるため行ってみる。と、おう!お前の女か?
私は、いえ!単なる同期です!すると、女は大切にしてやれよ!と微笑された。あとにも先にも教育試験中はこの微笑が最初で最後だった。考えてみれば、北海道のとある小さな部隊に配属早々、180度全く別世界の空挺に行きたいと言い出し周りの反対を押し切ってきた。不合格で帰るわけはいかない。もし、不合格しようものならフランス外人部隊にいく計画を練っていた。北海道のあの部隊で吊るし上げなんて御免だ。そしてあの子にカッコ悪いところは見せられない。そうバカは思っていた。