とはいえ、お客様はまだ不服そうでした。

と、云って、嘘を云うわけにもいきません。

なので、

「ニコラシカは、一般的にはブランデーで作られることが

多いようですが、カクテルというのは自由なものです。

ウオッカでお作りするのも好いと思います。

名前からして、ロシアっぽくて、ウオッカがピッタリ合いますし、

人、それぞれ、BAR、それぞれですから、それぞれの遣り方があるでしょうね」

と、云ってみました。

「そうね。それぞれの店で違うものね」

お客様も何とか納得されたようでした。

 

何故、俺が、ウオッカ・ベースのニコラシカを否定しなかったのかというと、

それがあってもおかしくないからです。

と、ゆーのも、

「アレクサンダー」という、

ブランデー、カカオリキュール、フレッシュクリームのカクテルがあるのですが、

処方が、NO1、NO2、と、あって、

NO1はジンを使い、NO2はブランデーを使い作ります。

順序でいえば、NO1の方が一般的になりそうなものですが、

「プリンセス・メアリー」というカクテルと似た処方になってしまうので、

混同を避け、または、メアリーに譲って、

NO2のブランデーを使う方を一般的に「アレクサンダー」とした、

とゆーよーな説があるからです。

ただ俺が知らないだけで、ニコラシカにも

NO1、NO2、があるのかもしれません。

それに、個々のバーテンダーが処方を追加しても好いでしょう。

 

アレクサンダー  (「いつ夕」にも登場します)

 

この「アレクサンダー」にも、いわくがあって、

先の「プリンセス・メアリー」がメアリー王女に捧げられたカクテルということからでしょうが、

デンマークからイギリスに嫁いだ「アレクサンドラ王妃」に捧げられた、

(ニコライⅡ世の皇后とは別人です)

と、いう説があり、「アレクサンドラ」と表記されることもあります。

どうもこの説はフランスの人が唱えたそうですが、

俺はすっかりそれを信じてしまい、

ロンドンの肖像画美術館で、アレクサンドラ王妃の肖像画を、

『この女性に捧げられたのか…』

と、万感の想いで眺め続けたことがあります。

眉唾な説でも、このカクテルの甘美な味わいと、そんな思い入れもあって、

俺は「アレクサンドラ」と呼びたいので、

Kool のメニューには「アレクサンドラ」と表記していますし、

「いつ夕」の謎の女性にも「アレクサンドラ」と言わせています。

 

このように、カクテルには、バーテンダーや愛好者、

人、それぞれの様々な思い入れがあって然るべき、

と、俺は思っています。

たまに、今回の「ニコラシカの変」のような事件も起こるでしょうが、

それはそれで、カクテルの楽しみの一つでしょう。

 

それにしても、今回のようなことは初めてでした。

面白い体験をさせて戴きました。

ありがとうございます。(*^_^*)

 

日日好日