(ss)
(存在異議も、物質も、概念も、正反対の相手に夢をみるのだ)


(5月おわりごろ)







尊んでいたのだ。同時に疎んでもいた。

白に輝く祭壇と、金剛石と翡翠で籠城した天岩戸が、私の人生を囲い込む。
翡翠の割れ目に目が眩み、墓守の老婆は私を私たちを許さない。

砂鉄に混じった血みどろを抱きながら、私はただ見えない朔を呪った。








「ねえ、手を握って」
そんなことを言い出したのは黄昏時だった。
この現象をみたこともなければ、夕やけという言葉も知らなかった。
我が祖国にそれに当てはまる言葉はなく、あったとしても大戦と共に硝煙の中へ消えてしまっただろう。


肩を寄せ合うように、たった2人、少女
と少年が学校の屋上から空を見ていた。
表面を撫でる風に、2人はここに異界を知る。
給水タンクの上で、揃って鮮やかな夕焼けを眺めていた。


「握れるとおもうのか」
ついに呆けたな、と少女が鼻を鳴らす。
地の底は遥か遠く、ひどく限られた色彩のなかで生活をし、同時にそれだけが全てだと思っていたのだと、この世界へきて知った。

「だって すこし こわいよ」
緩やかな風に攫われるような存在の在り方だ、と彼女はそう表現していた。
悪意でなければ善意でもなく、特異でもないが埋没もできず、けれどひとの琴線にふれていく。彼の存在とは酷く曖昧だった。
「なぜ」
瞬きもせぬまま、その声は抑揚に乏しい。
なぜ、という問いに、彼は答えなかった。
ただ代わりに、柔らかな睫毛を震わせるだけだった。
その仕草を、彼女は正面から捉えるべく覗き込む。
「なぜ、苦しむのを分かっているのに、何度もそうなるんだ」
彼女の瞳の奥には稼働を続ける歯車が透ける。彼女のコアは歯車でありフェイクのようだが、決して無情ではないと彼は思う。

「僕は何度 君に寄り添ってもらったんだろう」

鋼の無機質な指に、彼の細い指が絡む。
かつて一度と、彼等の指が絡んだことはないし、これからもない。ただひたすらに、相手の輪郭をなでるだけ。
2人の間に契約は交わされない。

「三度目までは数えていた」
「四度目は?」
「これから数える」
「ねえギギ」
「お前が望むなら、私はここにいる」
「そう」
「そうだ」
「ごめんね ギギ」

眉を寄せたギギが、更にヴァレンタインへ顔を寄せる。
額が触れる距離にいるのに、2人の間の隔たりはゴーストにより物質を失くし、ヴァレンタインの内側へギギが沈み込むように少しずつ重なっていった。
「謝ることになんの意味があるんだ」
ギギの髪が宵風にふわりと揺れる。
ヴァレンタインのあげた腕はするりとギギの体を通り抜け、ギギの後頭部を抱き込むように腕を曲げた。
「このまま僕が 君と混ざれたら 僕は確率した君として 一緒に生きていけるのかな」

僕が僕でいられなくても、そうあれるなら幸福ではないのか。
ギギの鋼の両腕は、自身の身体を支えるために地につくが、質量をもたないヴァレンタインは体をすべて宙へ投げ出したまま、2人の対比は互いの存在意義から異なるのだと提示している。

「一度目の君は、あの祭壇で泣いていた」
伏せていたヴァレンタインの瞳が大きくひらき、うまく焦点の合わないままギギの視線と交錯する。

「みえない月が来る、儀式をしなければいけない、月が沈めば、また何も知らない朝が来る」

ギギの息遣いだけが空気を揺らす。

「あの美しい天岩戸の中で、お前の一族は、永遠のように滅亡と復興を繰り返していた。お前はあそこから、逃げたかったんじゃないのか」

ギギの声音は優しく、動揺の記憶に揺れるヴァレンタインの意識をあやすようにゆらす。


「あそこから出てこれたお前は、私以外にも、寄り添える誰かを見つけたんじゃないのか」



ぱきり、と音が聞こえたようだった。
ギギの聴覚器官は確かにその音をとらえた。
硝子の割れるようなその音は、同時に穴の空いた部分にむりやり硝子をはめ込んだ音にも似ていた。


「だから こわいの」
ヴァレンタインの空気をはらんだ声がこぼす。

「寄り添えたら、どんなにいいか。なにもいえないの。このまま月を迎えても、あの人は、僕へのなにも、変わらない気がして」

耳鳴りのようになにかの砕ける音がする。
ぱきり、ぱきりと。
ゴーストの悲鳴だ、とギギは思った。

「僕だけ忘れるなんて 卑怯だ、忘れたいのは、きっとあのひとの方なのに」

ギギの体がヴァレンタインに重なった。
文字通りに乗算のように滲んだ互いの境界線は曖昧で、それはデータのバグのように互いを互いに認識できないほど色彩を混同させた。
互いの存在の領域を犯しながら、それはけしてふれているとは言い難い。
ただ、物質が概念の存在に飲みこまれただけだった。

「私のコアはお前にやれない。お前のコアも、私には適合しない。だから寄り添うしかできないんだ、私たちは」

目も鼻も唇も、重なったような状態で、ギギは吐く息で言葉をつなぐ。

「お前には、次への希望がある。見えない明日は、きっと幸福で満ちている。
私はそこでお前を待つ」

共に生きよう。
別々のコアと、別々の体で。


空気が揺れて、ヴァレンタインの輪郭が頷く。

夕焼けに照らされる屋上に、落ちる影はたったひとつ。
少女の横顔と、機械的な体だけ。



------


ギギちゃん@endさんお借りしましたー。ギギちゃん好きすぎて捏造。すまんかった。
ありがとうございました!



なんだか、ギギちゃんとヴァレンタインは対極だなあとおもって。
実体を持たずに意識体だけのゴーストと、物質的にも存在異議的にも優れたサイボーグと。(優れた、と表現していいのかしら..

うまく説明できないんだけど、ギギちゃんへの好き~は、恋にちかいようなきもする。恋じゃないけど。
攻//殻のしょ/う/さからくぜに近いかなー?

修正うけたまわりまーす!


(補足)

ヴァレンタインの一族は、ツチニンが成人になる(進化する)ための儀式として行う羽化の際に発生する抜け殻とされてます。


儀式は新月の日に真っ白な祭壇で行われ、その儀式の後、生まれたヌケニンは鉱石でできた城のような、祠のような場所に半ば幽閉される形で生活をしています。
近くに住むひとはそこを天岩戸と呼ぶそうな。
ヌケニンの集合住宅みたいなかんじです。ただしほぼ洞窟。
漫画……まんがで……す………本当………すみませんでした………

アラーニェさんお借りしました!
まじほんと…これ……ぶっとばされるんじゃ………
※二次創作ののりで笑って読んでください!!!
※裸体でるので注意

(背景はあれだよ、アラーニェさんちでスクリーンに映った海の中をお勉強中ってかんじで(‥)


kookeeのブログ


kookeeのブログ


kookeeのブログ





本当にすみませんでした/土下座
アラーニェさん@inuさんありがとうございました!
描きながら私も最後のアラーニェさんみたいになりましたね…ふふふ…ほんと…だめだこいつ…(頭抱え
このあと「はやく服を着なさい…」そして「らんらん今すぐきてください」という展開になるのだとおもう
水着いるだろ~って流れになるまでが無理くりなのは愛嬌です。


無性別だからかもしれないけど、性差にまったく興味がなさそうだな~。
自分が裸になることも、他人の裸をみることも抵抗がなさそう。
もともと着てるあれ(私があれを服であるといいきれないのが…)があれなだけに、ね!あれなんなんだろうね…
おっぱいはあれ(服?)つけてたら分かんないくらいちっちゃいよ


↓以下もうちょっと解説



kookeeのブログ


(ss)
(ほぼ二次創作)



ある日のエリュシオ、昼下がりにて。





ヴァレンタインはひとりで、苔生した岩石にもたれかけていた。
国同士の争いの絶えないここ地界であるが、世と隔離されたヴァレンタインの一族には、ほとんど無縁の出来事であった。

すこし乾いた空気も、土の匂いも、この地界に季節感は薄いが、どこか情緒的な気がして好きだった。
ぼんやりと自身のつまさきを眺めながら、ヴァレンタインの瞳は少しだけふせられ、何かを考えているような、なにも分かっていないような、そんな風だった。



「ひとりかい」

低く心地よい声がした。
ヴァレンタインがゆっくりと顔をむけると、大柄な鋼の装いの男が、これもまたゆっくりとこちらへ歩いてきた。


まるで軍人かなにかのような出で立ちで、ひょいとヴァレンタインに片手だけをあげてみる。
それを認めたヴァレンタインはぱっと笑顔を向けて両手をのばした。
「えーてつさん!」

うってかわった雰囲気のヴァレンタインの手を、そっと握るような振りをして永鉄がゆるく笑う。
「ながてつ、だ。言っただろう」
「言ったよ。永遠と鉄って書くんだって」
「それでながてつと読むんだと」
「言ったけど」
優しく手を包んでくれる鋼の手を嬉しそうに眺めながら、ヴァレンタインが首をかしげる。
「えいえんのてつだから、えーてつさんって、ぼくも言ったよ」
「..そうだったな」
「ふふふ、こんにちは、えーてつさん!」
「こんにちは、ヴァレンタイン」
互いに握る手は、ふれることはない。







抗争の続く地界で、永鉄は傭兵だった。
ヴァレンタインの少ない友人のうちのひとりであり、もっと少ない母親のようなひとだった。

「いい子にしてたかい」
永鉄がヴァレンタインの横に腰を下ろしながら問うと、ヴァレンタインの目がふっとかげる。
「悪い子だったのか」
「そんなことない、けど」
「怒られたか」
「がんばったんだ」
がんばったんだけど、とばつの悪そうな顔をするヴァレンタインに、永鉄は目を細め、ふむ、と一つ呟くと、コートの内側を探り出した。
「がんばったなら、ヴァレンタインはいい子だ。」
手を出して、との永鉄の言葉に素直に手をだすと、鋼の義手がちいさな粒をころりとヴァレンタインの掌に転がした。
「がんばったご褒美に、あげよう」
永鉄の口元は見えないが、笑ったように雰囲気が柔らかかった。

ぱしぱしと目を瞬かせたヴァレンタインが、今日いちばんの笑顔でわらった。
「えーてつさんありがとう!」






永鉄自身がすこし驚く程嬉しそうにもらったのに、ヴァレンタインは飴を食べず、ずっと掌におき眺めたままだった。
永鉄はその様子に何も言わないが、時折心配するように視線をなげていた。
「ねえ えーてつさん」
ぽそりとヴァレンタインが呟く。
空気に紛れるようなゴーストの囁きは、なにかのデジャヴを感じさせた。
「なんだい、ヴァレンタイン」
永鉄は、そのデジャヴを覚えている。
「...」
「言ってご覧、ゆっくりでいいから」
「...
もうすぐ、」
忘れちゃうから。そう呟くと、飴を眺めていた視線をふっと永鉄へむける。
「また、忘れちゃうから けど また飴 くれる?
食べたら なくなっちゃうから 忘れたら もらったことが なかったことになっちゃう」

そんな時期か、と永鉄が心の中でおもう。
初めてのことではない。
飴をあげることも、ヴァレンタインが忘れたことも、忘れてしまうと言ったことも。
その度、永鉄はこういうことにしていた。

「それなら、飴の包み紙をとっておくといい。
大切にしまっておけば、忘れても、そこにずっと残っているから」
透けてしまうヴァレンタインの表面を、ゆっくり撫でる。
「ヴァレンタインがそう言うなら、何度でもあげよう。だから、安心してお食べ」
不安そうな表情がゆるんでいくのを見ながら、永鉄が喉の奥でやさしく笑う。
「えーてつさん もしかして、前の僕も、同じことを言った?」
「ランプのしたの棚に閉まっておくといっていた」
「ほんとう?帰ってさがさなきゃ」

何度でもあげよう。思い出すまで、くり返してあげる。

「ありがとう、えーてつさん」
「そういえば、前のヴァレンタインも、頑なに俺をえーてつと呼びつづけていた」
「えへへ」
「なんで照れる」
「僕たぶん ずっとえーてつさんのこと好きなんだ だから、次の僕もきっと好きになるよ」
「..ありがとう」
「どういたしまして!」






-----

永鉄さん@ツチキコさんおかりしました。


永鉄さんからもらったあめ玉の包み紙は全部とっておくーという話をしたことがあったので。

地界時代から知り合ってたら..という妄想。
ヴァレンタインの一族のこともほんわりご存知だったらいいなあという。おかん大好き!なヴァレンタイン。

ありがとうございました!