自然科学の書棚
 本屋に行くと、自然科学のコーナーが少なくて、がっかりする。本屋によってはまったくない。売れるものをたくさん置かないと商売として成り立たないから仕方ないのだろうけど。ならば、少しでも自然科学の本が売れるようにと、私が面白いと思ったり、実際に役に立っていたり、衝撃を受けたりした本を紹介していこうと決めた。
 私は物理学科の出身だが、最近は身近な生物にかなり興味が向いているので、それに関連した本を紹介することが多くなるだろう。身近な生物を調べるときに欠かせないのが図鑑であり、図鑑についても極力紹介していく。
 記事の最後は、原則としてアマゾンにリンクしている。アマゾンならば、たいてい他の人の書いたレビューがあるので、リンク先に飛べば、本の著者や出版社、値段とともに、よりくわしい内容について知ることができるだろう。

最近読んだ本の感想は(自然科学系に限らず)、混沌の間混沌の書棚にあります。
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図鑑類

図鑑類の紹介は混沌の間の観察の7つ道具の各種図鑑にあります。

生命の跳躍――進化の10大発明

目次は以下のとおり。
1 生命の誕生―変転する地球から生まれた
2 DNA―生命の暗号
3 光合成―太陽に呼び起こされて
4 複雑な細胞―運命の出会い
5 有性生殖―地上最大の賭け
6 運動―力と栄光
7 視覚―盲目の国から
8 温血性―エネルギーの壁を打ち破る
9 意識―人間の心のルーツ
10 死―不死には代償がある

どれも非常に興味深いテーマで、面白いのだが、私には難しかった。生物学をそれなりに勉強していなければ、この本を堪能することは難しいだろう。たくさんの図解がほしいところだ。著者が生化学者ということもあり、そのことは前半のほうで顕著だ。

著者の前著が『ミトコンドリアが進化を決めた』ということもあり、多くの章でミトコンドリアが登場する。そこがまた興味深い。

私が一番興味深かったのは「8 温血性」。この章だけ2度読んだ。どの章も味わい深く(難しいこともあり)何度も読み返すべきだが、この温血性は読みやすく、そして真っ先に読み返したくなった。はじめ、目次を見てこの本の10のテーマの中で一番興味を引かなかったその反動ということもあるかもしれない。

温血性のメリットは、てっきり氷河期で気温が下がったことに対する防衛策というのが一番かと思っていたが、どうもそれは2次的なことらしい。体温を維持するため食べ続けなければいけない哺乳類と鳥類のこの宿命は、実はデメリットではないかと最近感じていたので、この本に紹介されている仮説は目からうろこである。

全体が科学ミステリー風に展開されていくので、その温血性のメリットが何なのかはここには記さないことにする。ただ、その温血性ゆえに知能が発達したと考えられるという点、非常に考えさせられる内容だった。

「1 生命の誕生」では、しばしば『生命の起源を解く七つの鍵』に書いてあることを思い起こしながら読んだ。あの本に書いてあることは、ちょっと違うのか、しかし、似たようなアイデアは継承されているなと。本書の巻末の参考文献には、
「今では科学的に古い本だが、生命の化学反応の核心にある手がかりをシャーロック・ホームズばりに調べる手並みは、他の追随を許さない」と書いてあって、うれしくなった。そう『生命の起源を解く七つの鍵』は「科学的」には古い内容なのだろう。しかし、そのアイデアは非常に示唆に富むものだったのだと思う。ちなみにこの本を知ったのはドーキンスの『盲目の時計職人』でだった。

「7 視覚」では、やはり私が非常に刺激を受けた『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』のことを本文では「腹立たしいほど思い込みの強いところもあるが興味深い著書」と評し、巻末の参考文献では「かなり視野が狭いが、非常に面白い」と評している。自分が読んで影響を受けた本の内容が関連してくるのはうれしい。それにしても『眼の誕生』、そういう本だったのか。

いずれにせよ、どの章も味わい深く、何度も読み返したくなる本だ。内容はいずれ科学的に古くなるのだろうが、この時代を象徴するものとして、この本は間違いなく、買い!である。



生命の跳躍――進化の10大発明

日本カエル図鑑



図書館から借りてきたら、妻と娘が、「気持ち悪~い」とかなんとかキャーキャーいいながら盛り上がっていた。おひおひという感じだったが、まあ、よしとする。

なんといってもぬめっとした質感がリアルに写真に収められている。しかも実寸大だ。ウシガエルのでかさをまじまじと心ゆくまで実感できる。

これ、いくら?と妻が聞いてきたので、7,000円くらいだろうと思いつつ、5,000円くらいじゃないと答えたら、定価はその5倍だった。こういうものをなにもためらわずに買えるようにお金持ちになりたい。

前書きを読んだら、カエルの図鑑じゃ売れないってことで紆余曲折はあったらしい。そりゃそうだろう。ぜひ、全国の図書館は、こういった貴重な書物は買うように!

学生時代に見た深夜番組でやっていたのだが、アダルトビデオは、レンタルビデオショップのせいで売り上げが落ちると思われていたのが、むしろレンタルショップのおかげで発注数が見込めて作りやすくなったという。同じように、お札1枚では買えないような図鑑類は、ぜひ図書館でそろえてほしい。

ところで、この図鑑の見方だが、妻のおススメは、後から読むこと。カエルの名前を見て、それからどんなカエルか想像してページをめくる。それからドドーンと出てきたカエルを楽しむ。これがいいらしい。ちなみに、初めから見ていくと、いきなりヒキガエルからになる。うちの庭にはヒキガエルが出るから私は見慣れているが、カエルを見慣れていない人にはいきなりエンジン全開になるかもしれない。って、そういう人は、ふつう、この図鑑をわざわざ手にはしないか。ぜひ手にしてみてほしいのだが。




タヌキたちのびっくり東京生活 ‐都市と野生動物の新しい共存‐ (知りたい!サイエンス 35)

家の近くで二度ほどタヌキを見たことがあり、都会に生きるタヌキには少なからぬ興味を持っている。それもあって読んだのが、『動物の見つけ方、教えます!』だが、読んでいて途中で気づいた。同じ著者だった。こちらのほうがタイトルにあるとおりタヌキに内容が特化しているので、興味深い話が満載。都市と鉄道、そしてタヌキとの関係はとりわけ興味深かった。緑が多いところにタヌキが多いのはすぐ理解できるが、高低差の多いところにタヌキが多いというその理由(仮説)にも納得。間にわかりやすいマンガが入っているのもいい。都会にすむタヌキにはまだまだわからない点が多いが、今後の調査にもぜひ協力してあげたくなる内容だった。

私が写真に収めたタヌキが病気ではなく、幼獣であろうということもこの本を読んでわかった。


「自然との共生」というウソ

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