なぜかしら物事が裏目裏目に出ることがある。

星の巡りが悪いのか、己の行いが理由なのか、とにかくなにもかもうまく運ばない。

そういう時期は、それが過ぎ去るまで首を引っ込めておくしかないと思うのだが、

今のフルダにはそれもできない。

 

定年間近なのだ。

 

いや、目前と言っていい。

もう少し先のはずなのに、突然、20も下の上司マグヌスに、早期退職を決定されてしまったのだ。

決定である。促しではない。

仕事ができるのは、あと2週間となってしまった。

 

その仕事ですら、今やっていたことすべてが、さっさと別の者に割り振られていて、フルダにはなにも残っていない。

いや、ひとつだけあった。

解決されたことになり、忘れ去られたある事件が、フルダは気に掛かっていたのだ。

 

舞台はアイスランド、レイキャベク。

男社会中の男社会といっていい警察署において、

フルダ・ヘルマンスドッテルは女性警部、しかもその先駆者である。

男性たちに仲間として受け入れられることもなく、

昇進にしても数々の若い同僚たちに追い抜かれてきた。

よって、彼女は無愛想で、頑なで、地味で、真面目な、一匹狼である。

ひたむきに仕事を続け、打ち込んできたというのに、突然、それが終わろうとしている。

 

世界が音を立てて崩れつつある中で、彼女自身ガタピシ身をきしませながら、

なんとか奮い立ち一歩一歩足を踏み出す様に胸を打たれて、一気に読んでしまった。

すぐさま次巻がよみたくなった。

 

ヒドゥン・シリーズと題された3部作の、これは1作目なのである。

2作目が本国では2016年に出版され、作者ラグナル・ヨナソンの最高傑作という高い評判を得たらしい。

 

そう言われると、この『闇という名の娘』の文中に、これは次かその次についてのことかと思われる文がひそやかにある。

作者の頭の中に大きなひとつの物語があって、

これはその第一話、しかも周到に練り込まれたプロローグなのではないかと、そんな予感がするのだ。

 

とにかくまずこの次が読みたい。

でなければ、耐え難いのだ。