「虐殺器官」と言語学と文学は難しい | 風信子 

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 いらっしゃいませ。こちらは読書日記中心のサイトになります。本を好きな方が一時楽しんでくだされば嬉しいです。

 「Project Itoh」の最終作になってしまった「虐殺器官」を観て来ました。(あとはバレンタインデーのチョコを買いに行ったんですが、あげる人間も同伴というところが滝汗

 

 物語の内容は、9.11後の世界。

 西暦2015年、テロリストによりサラエボへ手製の核爆弾が投下されてしまったことにより、世界は二分化されていた。

 徹底的なセキュリティ管理体制下に置かれながらも平穏な日々を暮らす国。それとは対照的に身食いをするような内乱によってお互いに殺し合うことが日常的になっている国。

 

 そうした紛争地帯の鎮圧化(テロの指導者やテロリストの暗殺というのが正しいのでしょうね)の任務に就いていたアメリカ情報軍特殊部隊のクラヴィス・シェパードに、世界各地で起こる紛争の首謀者とされるアメリカ人の言語学者・ジョン・ポールへの暗殺命令が下る。彼が訪れた国は半年以内に虐殺が始まるからだ。クラヴィスは、プラハへ赴いてジョンの愛人ルツィア<チェコ語教師)に近づき、『虐殺の王』と呼ばれるようになったジョン・ポールを暗殺すべく追っていくのだが…。

 

 虐殺を司る機関とは何なのか? 虐殺の王と呼ばれるジョン・ポールの目的は何なのか。物語はその部分を中心として進んでいきます。

 

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 私が伊藤計劃の作品で一番最初に読みはじめたのは「ハーモニー」で、その後に読み始めたのが「虐殺器官」だったんですね。ともに共通するテーマは死であり、言葉。特にこの作品では心惹かれる一文があり、3作の中で純粋に順位をつけるならば、たぶん1位。

 

 映像作品としては、かなり人を選ぶ描写が続くので、スプラッタ系の苦手な人は観に行かれる前に一考された方がいいかもです。戦争や内紛を描くのでどうししても少年兵が出て来たり、実弾を撃ち込まれるシーンなどはかなりリアル。

 

  人気のある声優さんが主役で出ているのでお若いお嬢さんたちも多く来ていたのですが、前に座った二人組のお嬢さんたちが観終わって一言「難しいよ」

 

 確かにキャラの会話が理屈っぽかったし、内容が少しわかりにくかったよねと久しぶりに一緒に映画に行った相方と苦笑い~。

 

 タイトル自体もそんな感じがあるし、パッと見た感じではこの作品はミリタリーSFっぽいし、予告も戦闘シーンも多いのでそれを求めてくると違うという感じになるのかな……。

 

 戦闘シーンが多い中で言語学上の理論がとか、文法はとか、カフカやベケットの作品について登場人物が話していたり(カフカの「城」はともかく「アメリカ」って出されても知らない人の方が多いのでは? なにより今は絶版してるし、ベケットの「ゴドーを待ちながら」も演劇に興味がないとつらいかもですね。昔はどっちも漫画とか、小説とかでパロディにされることが多かったけど)、原作は大好きですが、映像になると理屈っぽいなーというのは映画を観て、私が最初に感じたことです。

 

 原作そのものは文字でえがかれているものだし、そうした言葉遊びの要素みたいなものは本が好きな人間には楽しいことなんですが、それに慣れていない人だとこの映画は少し観づらいかなと感じてしまったのですよσ(^_^;)

 

 特に主人公がチェコへ派遣されたサラリーマンに扮してジョン・ポールの愛人であるルツィアにチェコ語を習いに行くシーンで交わされる、チェコ語の文法は言葉の変化が200以上あって云々とかのやり取りは、ジョン・ポールがなにをしているのかを知るうえで必要を思いつつ、語学に興味がない人や縁がない人はわかりにくいし、見ててしんどいかもなぁと。

 

 それに加えて原作のある部分をバッサリ切ってしまったのも、私はもったいないなと~。私はその部分が好きなので驚いたんですよね。え、ここ削除しちゃったんだと! この部分があるからルツィアと共感できるんだんじゃないのかと原作を読んだ時に思っていたシーンです。ただ、だからといってこの作品の本質が変わるわけではないんですけどね。残っていた方がわかりやすかったのではないかなと、私個人は思ってます。

 

 ですが、この作品に描かれている紛争であふれる世界が、ある意味では現在進行形で進んでいることであるのも事実なので、こちらを優先にしたんだと勝手に判断。

 

 もっとも個人的な感想としては伊藤計劃の処女作である、この作品には彼が存命であったら書きたかったものがたくさん詰まっていて、それを映像化するのが、とても難しかったのだろうからカットしたのかもと。

 

 あと上映時間が三作品の中で一番短いんですよ。それがもったいなかったかな。倒産の影響もあるのかもですが、元々難しいテーマ(人を虐殺する機関とは何か? 言葉とは何か? が私にはテーマだと思っていたので)を描くにはやはり2時間くらいは欲しかったかもしれない。

 

 決してつまらなくはなかったけれども、前二作に比べるとという気持ちはありますね。声優さんの演技はとても良かったし。もしかしたら、映像よりも朗読の方が向いてるのではないかと思ったりもして、ハリウッドで映画化なんて噂も出ているそうですが(-"-;A

 

 こうして考えてみると感想が書きにくい映像作品ですねf^_^;  

 

 次に観に行くとしたら「相棒」か「ラ・ラ・ランド」(で間違ってないかな?)です。ミュージカルは好きなので。

 

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パンフレット(主人公じゃなくて、キーパーソンの虐殺の王ジョン・ポールというところが)

 

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物語りの冒頭で出てくるカフカの2冊の作品。『城』はくったりしてますね(笑)