誰の戸棚なのだね | まほろばピエロ~島田大翼のブログ~

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オペラシアターこんにゃく座の歌役者・島田大翼のブログです。



オペラ『おぐりとてるて』劇中で、小栗が大蛇の美姫に向かって「一人で何をしておる」という台詞を口にする場面がある。

ひとりでなにをしておる。別に難しく聞こえないような気もするけれど、油断しているとこれ案外噛みそうになってしまうのだ。たぶん特に危ないのは「りでなに」の部分。ラ行、ダ行、ナ行が続いている。

ちなみに『森は生きている』で危ないのは「じゃあ三月の姉さん」という四月の精の台詞の、「のね」という音の部分。のね。短いけれど、ナ行の音が連続している。危ない。

これらが危ないのは、舌が連続で同じような動きをするためだ。舌というのは案外、同じような動きを続けてするのが苦手らしい。

同じく『森は生きている』兵士の台詞に「誰のだね、あれは」というのがある。私はこの役をやったことがないけれど、この「だれのだね」という言葉はとても難しいんだろうな、といつも思う。

細かく分類すると更に別の名前が出てくるんだろうけれど、大まかに日本語のナ行は歯茎鼻音、ラ行は歯茎はじき音、ダ行は有声歯茎破裂音、などと分類され、これらはどれも舌先と歯茎裏を触れさせて発音する。

舌が同じような動きをするということは、一つの音を出した後に一度舌の位置を戻して、また当てにいく、という作業が必要になるわけで。そりゃあ忙しくもなろう。

タカタカタカタカ…」と速く言うことはあまり難しくないが、これが「タナタナタナタナ…」になると突然難しくなる。タカでは舌先と舌の腹を交互に使うのに対し、タナでは舌先を使い続けなくてはいけないからだ。馬の蹄の音を「パカラッ」なんて表現するのはじつに理に適っていると思う。全ての音を違う部位で発音するため、まるで一瞬のうちに言えるのだ。パカラ。

まあしかし理に適っていようがいまいが、発音の難しい台詞を口にしなければならない機会はいつか必ず訪れるものだ。でも「誰の戸棚なのだね」なんて台詞はできれば一生口にしたくない。うまく発音できる自身がさっぱり無いんだもの…。

皆さんも口にしてみてください。「だれのとだななのだね」速く滑らかに言える人、尊敬します。