第66話 宗教戦争【後編】
古田の秘かな企みは2点ありまして、一つは西宮スタジアムに最寄りである我が校で時間調整を行う、一つは後で分かったのでありますが、様々な事に興味を示し、一度、気になるとマシンガンの如く質問してくるマイクとナンシーの相手に古田は疲弊しており、その労を飲み友達である我が團幹部とシェアしよう、というものであります。
そんな企みなど露知らず我が團幹部を加えた4名で西宮スタジアムへ向かうのでありました。会場に到着し、一番近い入口から入りますと、これから始まる試合で戦う同志社大学の応援席でありまして、同校應援團員が試合に向けて準備に走り回って居ります。対戦校は強豪 関西学院大学でありますが、両校共に当時は特別な友好関係も遺恨もありませんでしたので、たまたま居合わせた同志社側の席で観戦する事に相成ったのであります。
早速、古田は
「アツヤ、あの大きな旗はなんだい?」
「アツヤ、あの奇妙なオスという挨拶は何だい??」
と質問攻めに遭い、下手なジャパニーズイングリッシュで大汗をかきながら説明致しております。すると試合開始前のエール交換となり、日本では稀な全編英語の歌詞という同志社の校歌が流れます。そうです、同志社は大河ドラマ「八重の桜」でも著名な新島襄先生が建学されたキリスト教系大学なのであります。
エール交換が終わりますと古田は、同志社はクリスチャンの大学であること、対戦校の関学は関西はおろか日本でも常にトップを争う強豪中の強豪であること、同志社と関学は関関同立という枠組みの中で切磋琢磨するライバル校である事を説明しております。
時折、対戦校の応援席に視線を投げかけながら、古田の説明を聞いていたマイクとナンシーの表情は徐々に険しくなって参ります。
「アツヤ、これは大変な事態に発展するんじゃないのかい?」
「アツヤ、これは大変な事態に発展するんじゃないのかい?」
と古田を真剣に問い詰めるではありませんか。
慌てて我が校幹部が古田とマイクとナンシーの間に割って入り、事情を聞きます。
マイクが指さす先にある対戦校の関学の横断幕には関学のシンボルマークである三日月が描かれておりまして、それをもって「これはマズい」と主張しているのであります。
何でもイスラム教のシンボルマークとしても三日月は用いられる事があり、何とマイクとナンシーは関学をイスラム教系の大学だと思っていたのであります。よって試合展開如何によってはキリスト教vsイスラム教の戦いが始まるのではないかと危惧していたとの事でありまして、関学もキリスト教系の大学であってその心配は無用であること、関学の三日月は宗教的な意味ではなく別の意味がある事を説明し、ようやく落ち着いて観戦する事が出来たのでありました。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会