第61話 君の名は。(後編)
対戦校にも応援団が来ている場合、試合前の打合わせでその辺りを確認出来るのですが、時としてそれ以外の項目の打合わせに時間を要したり、うっかり聞き忘れたりする事もありまして、その際は相手校が自軍にエールを送る時に聞き耳を立て、急遽、対処したりするのであります。
相手校が来ていない場合は、確認の仕様もクレームを受ける心配もありませんので、勝手に「こうだろう」と思う名称で呼んでいたりもしておりました。
相手校が来ていない場合は、確認の仕様もクレームを受ける心配もありませんので、勝手に「こうだろう」と思う名称で呼んでいたりもしておりました。
ある時、硬式野球の試合での出来事であります。我が校が所属する阪神大学野球連盟は、応援団がある大学が少なく、我が校が応援に駆け付けましても、相手校は応援団がいないという事が結構ある訳であります。
この試合では対戦校には応援団も観客もゼロ、我が方も応援団以外は観客ゼロという、特に何かをしでかした訳ではないのにも関わらずペナルティを課せられた様な状況でありまして、それ故の緊張感の欠落が発生しておりました。
この試合では対戦校には応援団も観客もゼロ、我が方も応援団以外は観客ゼロという、特に何かをしでかした訳ではないのにも関わらずペナルティを課せられた様な状況でありまして、それ故の緊張感の欠落が発生しておりました。
試合開始前に学園歌を斉唱し、自軍と対戦校にエールを送る事から応援が開始される訳ですが、相手校をどう呼ぶか周知がないまま、團長の指揮が始まったのであります。
先程、分からない時は事前の打合せ時に確認すると記載しましたが、この打合せと同じくらいに大切なのは、決定事項を速やか且つ確実に全団員に周知する事であります。その基本が守られないまま学園歌が始まった訳でありますが、下級生もすっかりこういう状況には慣れておりまして
「團長がエールを送る際に聞き耳を立てていればいいや」
という感じで高を括っております。
そして緊張の一瞬、相手校へのエールが始まると、團員一同、驚愕致します。
「フレー!フレー!ピン大!」
と團長の野太い声が木霊したのであります。
関西在住の方ならご存知の方も多いかと思いますが、対戦校は校名に桃という字が入っておりまして、桃色=ピンク⇒ピンク大学、略してピン大という呼び方が巷では一般的だったのであります。これは特段、応援団業界に限らず、京都大学を京大と略すのと同じ位の市民権を得ていた呼び方でありました。
色とは不思議なもので、色彩を表す以上にそこから派生する意味が強く込められる事が多く、中でもピンクという色は様々な想像を掻き立てる色であります。どちらかと言えば呼ばれて嬉しくはない別称であると言えましょう。
さすがにそういう別称である事は我が團員とて十分に理解しておりますので、躊躇いはあるものの他に手がない以上、團長と同様にエールを送るしか手はありません。
かくして我が團は"ピン大"に精一杯のエールを送ったのでありました。何事も事前の確認は重要であります。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会