先輩團員は数日後、後輩の入院先へ見舞に訪れる事にしました。スキー合宿を無事、完遂し帰神した他のメンバーより、團員の派手なクラッシュは、三武会全体では広く知るところとなっておりました。三武会は仲間意識が強い反面、相互間での微妙な対抗意識も共存しておりましたので、こういう事がありますと
「お前のところの若い衆は底抜けのアホやのぉ。三武会では我が部が最も優秀である事が改めて証明された様なもんや」
などと高笑いされる訳ですから、先輩團員としては、忸怩たる思いでありました。
入院のため合宿に参加出来ないのは止むを得ないとしても、それを喜んでいる様な性根は教育を行う必要がある、と判断した訳であります。果たして病室のドアを開けますと、入院團員氏はTVとビデオデッキを病室に持ち込み、レンタルビデオの鑑賞中でありました。病室にはアンニュイな空気が漂い、枕元には書くを憚られる様なタイトルの猥褻な雑誌が散乱、ビデオを観ながら爆笑しているではありませんか。
「入院先から這ってでも合宿に参加させて頂き、不退転の覚悟を以て應援團道に邁進したいところでありますが、いかんせん医師の許可が出ず、断腸の思いで合宿を欠席させて頂きたい」と申告してきた人間とは思えぬ入院態度に、先輩團員は怒り心頭に発したのであります。
「来週から合宿で同期達がどういう地獄を味わうか、お前も知っとかんと、同期と差が出るぞ。ワシはそれが不憫やから、お前にちょっとだけ教えてやろう」
と宣告するや、入院團員氏の状況を観察します。怪我は上半身に集中している事を見て取りますと、練習の基本の一つである四股立ちを命じます。幸い個室でありましたので、他者の目を憚る必要はありませんが、大声はご法度であります。声を出さず上半身も使えないという普段とは勝手が違う練習は、入院團員氏の体力を瞬く間に奪って行きます。
激しい有酸素運動ではないものの、脂汗を大量に含んだ汗を流しながら、次々と下半身を鍛えるメニューを指示しておりますと、病室の前で靴音が止まりドアがノックされます。
さっさと團員氏はベットに潜り込み、先輩は見舞に来た善意の人として涼しい顔でベットの脇に立ちますと、看護婦さんが部屋に入って来ました。定刻の脈拍や体温のチェックだった訳でありますが、無論、当の本人は息も絶え絶えな状態で大汗をかき、激しく脈打ち、体温は急上昇という有様でありますので、病状の変化に慌てふためく看護婦さん。
「まあしっかり養生せいや」と先輩は言葉を残し去っていったのでありますが、その後、病室ではどういうやりとりが行われたのか、本人に聞いた事はありませんので、謎のままであります。

甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会