第30話 怨霊
夏らしく、そしてタイトルにも因んで怪談(怪團)でも書いてみようという初の試みであります。
ある時、早朝から移動せねばならぬ応援がございました。前泊する程ではないのですが、限りなく始発に近い時間に電車に乗らねば間に合わないのであります。
幹部、3回生は現地集合、2回生は乗換がある大阪駅で集合で良いのでありますが、1回生は團旗や太鼓等を團室から運搬せねばなりません。始発で團室に向かっても間に合いません。そこで大学の近辺に下宿している者のところに泊めてもらう様にしたり、團室に泊り込んだりと其々が対策を施しておりました。
いつの世にも不心得者は居る訳でありまして、ある2回生、翌日に備え早い時間に解散になった事を良い事に大学の近所で飲んだくれていたのでございます。杯を重ねているうちに考えもどんどん横着になって参り「どうせ明日は早いし團室に泊まってギリギリまで寝てればいいか…」などと開き直って、千鳥足になるまで飲んでいたのであります。
そして予定通り團室に向かったのでありますが、鍵がかかっておりましたので、團室の分厚い鉄扉をドンドン叩いて、團室に泊まっている筈の1回生の名前を呼びます。しかし何度、呼びかけても返事はなく、予定を変えたのかと一人合点し、大学近所に下宿する1回生宅を訪ね、そのまま泊めさせてもらったのであります。
翌朝、二日酔いの2回生氏は駅で團室から用具類を運んでくる1回生が来るのを待っていたのでありますが、来てみれば、昨日、團室に泊まっていなかった1回生の顔もありましたので、昨日はどうしていたのか、問い質します。すると「押忍、先輩、実は昨夜、恐ろしい出来事がございまして…」と青ざめた表情で言います。
「予定通り團室で寝ようとしていたのでありますが、聞いてはならない声を聞いてしまって、恐ろしくて布団をかぶって念仏を唱えておりました」
「うむ、確かに團室は出ると聞いた事がある」
「やはり…」
「ところでそのお化けは何て言うたんや?」
「押忍、それがどういう訳かずっと自分の名前を呼んでおりまして、あの世へ連れて行かれるかと思いました」
言うまでもなく声の主は2回生であります。想像力が豊かなのも考えものであります。
團室に出るか否かは検証はしては居りませんが、何度も宿泊した事がございますが、1度も遭遇したことはございません。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会