そんな事もあり、何となく距離が縮まった2人でありますが、團員氏も彼の身の上は気にせず開き直って「ローマの休日」のグレゴリー・ペッグ演じるジョーを気取って、勤勉氏がそのまま順調に人生を歩めば、決して足を踏み入れないであろう場所に連れて行く様になっておりました。
おそらくホテルオークラのスカイラウンジでは提供されないと思われる、焼酎をビールで割った「ビーチュウ」、はたまた焼酎を赤玉パンチで割った「赤バクダン」なる個性的なカクテルを振る舞う神戸の下町の大変、庶民的な居酒屋や、背中に鮮やかに龍や般若のデザインを施した方々が集う銭湯などを連れて回ったのであります。
後日談ではありますが、潤沢な勤勉氏の懐具合に興味を示さず、ノートの提供のみを求め、頼まれもしないのに怪しげな場所を連れ回しては、ポケットに無造作に入れたヨレヨレの紙幣と小銭で勝手に支払いを済ませる團員氏は極めて奇妙な存在でありまして、いつしか「今夜、時間があったらこの間の豚足を食べに行かへん?」と勤勉氏から誘うようになっておりました。試験前ともなりますと「この講義のノートも要るのんとちゃう?」と勤勉氏からノートを提供するまでに至っておりました。
時は流れ、彼らも4回生になり、團員氏も幹部に昇進しました。勤勉氏は團員氏に分けてあげたい程の単位を取得しておりましたが、尚、興味のある講義を受講する相変わらずの勤勉ぶりであります。ただ毎コマが埋まる程は受講しておりませんので、日によっては講義と講義の間の時間が空いてしまう事があり、その頃になりますと團室に顔を出す様になっておりました。
通常、他クラブの幹部が立ち寄る事は結構ありますが、幹部の普通の友達が立ち寄るのは下級生にとっては面倒なものであります。粗相がない様に且つ適当にやる、というのが基本でありますが、この匙加減が難しいのでございます。
ところがこの勤勉氏、腰が低い上に来る時には必ずドーナツやらハンバーガーやら手土産を持参する上に、昼時でありますと、昼食まで振舞うものですから、「ご学友先輩」と下級生團員から呼ばれ、厚く遇されておりました。
八代目甲南大學應援團OB会広報委員会