【第4話 お使い能力=ポチ以下(後編)】
昨日 の続編であります。昨日、お話に対するメッセージを頂戴致しておりまして、早々の続編と相成った次第でございます。読者の方より「何故、飲み物にしても銘柄、せめてコーヒーとか炭酸系とかお茶とかジャンルを指定しないのか?」という至極当然の疑問を投げかけて頂いております。
これには無論、理由がございまして、当然ながらどうしてもコーヒーが飲みたいとか強い希望がある場合はその旨、指示が出ますが、そうでもない限りは「何か飲み物」という非常にシンプルなオーダーになる事が多うございます。
これは團員に石田三成の三献茶の故事の如く、もてなしの心を習得せしめる為の伝統でありまして、特に指定がない場合はこの先輩は甘いコーヒー、あの先輩は炭酸系、等の好みを自ら気にする習慣を身に付けさせる狙いがございます。
同一人物でも普段はコーヒーだが、練習後は冷たい烏龍茶、この人は年中、ブラックのホット等々、状況に応じた判断が要求される訳であります。
よって気が利く團員の手帳には先輩名が列記してありまして、その横には煙草の銘柄、好みの飲み物、その他、性癖が書き連ねてあったり致します。
ただ今回、登場致しております1回生氏はそういう範疇には入らないタイプでありまして、一番簡単な煙草のお使いでも、誰よりも良い返事をして團室を飛び出すのでありますが、暫くすると凄まじい勢いで煙草の銘柄を訊きに帰って参る羽目になるのであります。良い返事は難事の前触れ、お使いにまつわるエピソードには事欠きません。
【JR長浜駅前「秀吉公と石田三成公 出逢いの像」】
さて、真冬のキリンレモンですっかり冷えた体で團室で團務をこなす幹部氏のもとに、時間を持て余した空手道部の幹部氏が訪ねて参ります。もとよりこれと言った用はございませんので、世間話に終始する訳でありますが、空手幹部氏の視線がある一点に釘付けになります。この時期には秋の学園祭の折に祝儀で頂いた日本酒が團室にズラリと並んでいるのでありますが、無類の酒好きである空手幹部氏はそれが気になって仕方ないのでございます。
我が團幹部氏も酒が嫌い等という無粋な方ではありません、自然と試飲会へと移行する次第であります。そこで團幹部氏、当番の件の1回生に財布に残っていた最後の1万円札を取り出し、乾き物を買って来いとの指示を出します。空手部幹部とは微妙なライバル意識がありまして、こういう場合、應援團幹部としての面子を保つべく1万円札を出すのが通例でございます。
幹部のお使い指令に対し相変わらず非常に元気の良い「押忍」の返事をし、團室を飛び出す1回生氏に、その場に居合わせた3回生氏は嫌な予感を覚え、すぐに後を追い乾き物とは酒のつまみを意味するという事を念の為、教えて万全を期したのでございます。
試飲会は滞りなく進行し、1回生の帰りを待つこと20分、待望の乾き物が帰って参ります。持って帰ってきたダンボールを置き、配膳を始める1回生氏。しかし中から出て来るのはポテトチップス、ポッキー、チョコフレーク等々、酒の肴としては相応しくない有名どころのお菓子が多数、並べられます。
まだまだ出てきそうな気配を感じ
「スルメとかサラミとかはないんか?」
と尋ねると
「押忍!別の箱に入っているかもしれませんので確認します!」
と明朗快活に答える1回生氏。「なぬ?」と1回生氏が向かおうとした團室の入口付近を見ますと、1度に運び込めなかったダンボールがまだ2ケースも積まれているではありませんか。
「レシートを見せてみろ」
と言う幹部氏に、恭しく捧げ渡されたのは全長50㎝に及ぼうかと云う代物でありまして、スナック菓子名がズラリと列記されており、お会計は9,997円。1万円全てでスナック菓子を買い漁っただけという事態に、呆然とする幹部氏。
團室には5名しかおりません。人数を鑑み適量を買うという事、こういう場合の乾き物は遠足のおやつとは違うという事、以上2点を伝えられなかった3回生のミス、という事にするのは余りにも酷かもしれません。
「こんなに買うてどないするんや。お前、明日から昼飯を抜いてこれを食うとけ!」
という叱責に
「いいんでありますか?」
と喜色を浮かべる1回生に、ガックリ肩を落とし
「しばらくあいつを当番から外してお前が一から教えたれ」
と3回生に指示するのがやっとの幹部氏でありました。
八代目甲南大學應援團OB会
広報委員会