職場が仲良しクラブである必要はありませんが、異なる価値観や考え方に対して互いにリスペクトし合う関係ができていることは組織にとって大変重要なことです。近年、組織開発において注目されている心理的安全性という概念は、組織を構成する人たちが”仲良し”なのではなく、むしろ仲良くなくても、リスペクトし合えている関係の中にこそ生じると考えます。

 

リスペクト(respect)を英和辞典で引くと、最初に出てくるのは「尊敬する」という語釈ですが、一語で日本語に言い換えるのは難しい語かもしれません。私はむしろ「(他者を)認める」という意味に捉えるとしっくりきます。英和辞書の中にも「大事にする」「尊重する」といった語釈が書かれているものがあり、こちらのほうが意識としてrespectに合っていると思いますし、ロングマンの英英辞典では、admirationとconsiderationの語が示されており、行為としてのrespectがイメージされやすいように思います。

 

私たちの園では、一般的な園と異なり、保育をクラス単位で行うことはあまりありません。異年齢保育を重視しており、かつ、保育理念「チャレンジする心、チャレンジする子を応援する心をはぐくむ」を実現するための、保育者の行動指針として「全職員、全園児の担任」という意識と行動を重視しています。実際に、多くの保育者はこの行動指針を実践してくれており、私としては日々感謝しています。

 

しかし、一方で、どうしても目立つチャレンジや華やかな体験は、年齢の大きな子どもたちが行いがちで、保護者に認識されたり、メディアに取り上げられたりするのも、4、5歳児が多くなります。つまり、4、5歳児の担任保育士”だけ”がそのような保育をしていると勘違いされてしまうわけです。そのような活動や取組みが実現できるのは、全員によるお互いのアドバイスや協力、支援があるからです。他の保育者によるアドバイスや協力を、他の保育者や、園長・主任、保護者に伝える行為は、アドバイスや協力をしてくれた他者当人への敬意や感謝に留まらず、敬意や感謝を他の保育者、園長・主任、保護者と共有することによる”称賛(admiration)”につながります。そして、この一連の行為により、アドバイスや協力をしてくれた他の保育者を”大切(consideration)”にしたことになります。英英辞典のリスペクト(respect)の語釈が具体的行為をイメージしやすいと上記に書いたのは、このような理由に拠ります。

 

このような考えを保育者たちに伝えたくて、リスペクトのコミュニケーションを園内研修プログラムの一つにしました(保育者も学ぶ(1)園内研修) 。これは、これまで授業でも行ったことが無い、今回の研修のために初めてつくったプログラムです。

私たちの職場では、アドバイスや協力をしてもらった相手に感謝をしない保育者はいませんが、してもらった行為を他者に伝えることこそがリスペクトになるのだということを意識していた人は少なかったようでした。事例で示すと、自分もリスペクトのコミュニケーションができていなかったと気づいた人もいました。

 

「全職員、全園児の担任」を重視している私たちの園で、卒園式に「ありがとうございました」と言ってもらえるのが担任保育者だけであることに違和感を覚えていたので、リスペクトコミュニケーションのメインテーマとして、「卒園式に、私たちの園のすべての保育者が『ありがとう』と言ってもらえる園にするためにできることは何か」というタイトルで、ブレインストーミングによるアイデア創出をしました。もちろん「感謝される」というのは、私たちの保育実践に対しての結果に過ぎないので、「ありがとう」を求めるような態度や、感謝されることを目的化することは本末転倒です。この場では、象徴的な状況を例にすることで、チーム保育のアイデアを多数だしてもらうためにこのようなテーマ設定をしました。

 

非常勤の保育者からも、0歳児を担当することが多かった保育者からも、年長担任の保育者からも、すべての保育者から様々なアイデアが出ました。その多様なアイデアや積極的な取り組み姿勢は、テーマを提案した私も驚くほどでした。ついつい自画自賛してしまいますが、そんな保育者たちの熱量に心から感謝です。

 

実現可能性の高いアイデアが多かったので、実践時期や担当なども決めてすぐに実践することにしました。そのうちの一つが下記の「せんせいのしょうかい」。まずは全員の顔と名前を覚えもらおうというもの。これはむしろ、どこの園でも行っているものかもしれません(^^; 私たちも以前、一時期行っていたのですが、ここまでしっかりつくったことはありませんでした。N先生、すぐにつくってくれてありがとう!

 

 

研修で学んだことを”お勉強しました”にとどめず、日々の保育や環境づくり、人間関係の形成につなげていく、これからもそんな園であり続けたいと思います。