そして昼食。


工場の食堂でみんなと同じランチを食べるんだけど……

これがまあ、なかなかの強者ぞろいだ。
ライスは箸でつかむと、砂時計みたいにサラサラ落ちていくし、
紫色の芋スープは、どう見ても“食べてほしい色”をしていない。
市内のレストランでトゥさんたちにご馳走になったベトナム料理とは、
また、ジャンルが違う食べ物と言ってもいい。

北沢「おい、後藤!」
インスタント麺をトレーにのせて、北沢さんが登場。
後藤:……ん。
北沢「ここ、座っていい?」
そう言うなり、僕の正面にどかっと腰を下ろした。
北沢「ほら、ゆで卵やるよ…」
後藤:北沢さん…ありがとうございます。
北沢「タムさんの家に泊まったんだって?」
後藤:……………
北沢「どんな家だった?」
後藤:う~ん、よく覚えてないんです、ごめん。
北沢「さっきタムさんが工場長に“後藤さんを飲ませすぎたのは私たちです”ってかばってたぞ。」
後藤:……え?
北沢「で、実際どうなんだ? 飲ませたのか?」
後藤:えっ、いやいや、そんな……自分がその場のノリで飲んだだけですよ。
北沢「はは、後藤もベトナム来て早々、イベント盛りだくさんだな〜」


……返す言葉がない。
ほんとにその通りで・・・
北沢さんの一言が、年の差以上に頼れる先輩の風格を感じさせた。


後藤:……北沢さん?
北沢「ん? なんだ?」
後藤:お腹の調子、どうです?
北沢「あ、もう平気。お互い、工場長や課長に心配かけてるよな…」
ほんと、その通り。


北沢「そうだ後藤、仕事終わったら付き合えよ。」
後藤:いいですよ。
北沢「夕方、専務を空港に迎えに行くから、一緒に行こう。」
後藤:……専務が上海経由で来るんですよね。
北沢「で、そのあと。寮で飯食ったらボウリングでも行くか!」
後藤:……ボウリング?
北沢「空港近くの“サイゴンスーパーボール”だよ。」


後藤:ああ、通勤のバンから見えた、あの黄色い建物ですね…
北沢「勝負するか?」
後藤:え、何か賭けるんですか。まさか命とかじゃないですよね。

北沢「タムさん……」
後藤:は? ちょっと待て、急に固有名詞!? 
北沢「いやさ、あんな子と付き合いたいと思わない? 英語ペラペラ、日本語も普通に話せて、しかも美人。

 おまけに性格までいい。…で、欠点がない。いや、強いて言うなら“今、彼氏いない”」


後藤:…………!!? 情報量! 


北沢「いやいや、冗談だって。そんなフリーズすんなよ。」

後藤:…………北沢さん……
完全にボケ倒されて、ツッコミが追いつかなかった。
その瞬間、僕の箸の間から、ボロボロと米粒がまた落ちていった。