マダム・クールジェントル・ジャム? Ⅶ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。





『…春海くんは、本当に罪な男の子なのよ。私との話も終わって、その翌朝、さあ、また上京しようって家を出かけた時-』




送りに門まで出て来てくれてた“ナツミ”ちゃんに、こう言ったんだってね、と。

現在。

吉乃夏美が微笑む。

「また、近い内に帰ってくるから。それまで元気でいてよ。-愛してるよ。また、あの公園まで散歩に行こう。俺がおぶって連れてってあげる。大好きだから、俺が帰ってくるまで長生きして一緒に遊ぼうな-」













その時の記憶を揺り起こしながら。

圭樹春海は、現在。

膝の上辺りにいる吉乃夏美の頭-髪を撫で続け。



-愛してるよ。大好きだから、俺が帰ってくるまで長生きして一緒に遊ぼうな-



その後、彼は確かに“彼女”の名前を呼んだ。“ナツミ”と言うかりそめの名ではなく、“彼女”の本当の名前を。“彼女”は分かっていたのか否か、それは定かではないが。とにかく。

口八丁手八丁の割には、そう言った事には慣れていないかのように見える“愛の告白”におおいに照れながら、それでも約束してくれた、愛しい人間の子供の頬をペロリと舐め。もう年を取って見えているのか見えていないのか、定かではない双眸で。ただ、黙って門から遠ざかっていく、その後ろ姿を見つめていた-。

「…、だから、公園…。年を取って外出も途絶えがちになってたのに、それでも、出かけて、倒れて…、死んだ。気まぐれな、帰ってこない、俺との」

約束を守りたかった、それだけの為に-? 

圭樹春海は。自身がついた、気まぐれな約束を“彼女”がどれだけ、大切にし、楽しみにしていたのか。物言えぬ犬畜生の真意は分からずとも、その行動が示していた意思は明白で歴然としており。ただ、その念に思いをはせ。

けれど、本当にそんな事が起こり得たのだろうか、そんな信じがたい-ある意味奇跡的な-事が。と半信半疑の念に襲われ。しばらく考えた後。やがての事に、フウとため息をつき。静かに目を閉じ頭を振って。

観念する。

-いいや、否。認めろ。圭樹春海。
起こったのだ。信じがたい事が。だって彼女は、そこに赴き、そこで命を落としたのだから-。それは紛れもない事実なのだから。だから-…。

と呆然とし。

次に。

“長生きして一緒に遊ぼうな”

-死んだ、なんて。死んでいたなんて。もういなくなっていたなんて。本当に知らなかった。想像した事も-ましてや-しようとした事もなかった。自分に親しい周囲は、死とは無縁だ、死とは永遠に関係ないのだ、と。

何の理屈もなく根拠もないまま。けれど、そう決めつけ信じて疑わなかった。そんな中、“自分に親しい周囲”-吉乃夏美から聞かされた、事の顛末。

砂を噛むような味気なさ、何とも言えないやるせなさに、ボンヤリと視線を漂わせながら、圭樹春海は。ただ。

…可哀想な事をした、と、自責の念にとらわれる。

同窓会-何せ高校卒業以来逢えていない、吉乃夏美に逢えるかもしれない、と言う一縷の淡い望みを抱いて参加した、けれど結局逢えなかった、不毛な饗宴-が終わってしまえば、もうその町に用はなく。また次に、帰ってくるつもりもなかった。

何故なら、当時既に彼は。

公言出来ない仕事-吉乃夏美には打ち明けていないが、それが原因となって彼女に忘れ難い-殺人の現場を目撃し追いかけられ、殺されるかもしれない-けれど足が速かったから当初中々捕まらずに済んだ、でも、結局捕らえられ-恐怖と暗闇の記憶-トラウマ-を与えてしまった-つまり。

犯罪の被害者と犯人としての“腐れ縁と因縁の特別な関係”となった元の-人を殺める事-を生業とし。吉乃夏美一人ぐらいなら、指一本、指先一つで-実際先ほどの帰宅時、彼女を床に難なく寝転がしたように-容易く倒す事が出来る殺人実技能力を持ち。また、そんな会社に就職しており。何せ今日だって、細心の注意に神経をすり減らして、日常業務-“仕事”をこなしてきたばかりだ。

そんな仕事についている事実によって想定される-子供の頃、体が弱いから静養させて欲しい、などとんでもない嘘八百。実は母親との道を踏み外した禁忌の関係に気づき、激怒した父親-つまり、最終的には両親-に見捨てられたに過ぎない-行くアテもなかった-自身を育て上げてくれた、恩人とも言える親戚家族に-迷惑をかけるつもりは毛頭なかったし。何より。

親戚家族は、あくまでも親戚、であって、自身の家族-実家-ではない。この町-この家-に帰ってくる権利など、実子ではない自身には、最初(はな)っから、-ないのだ、と。

諦め思い込んでいたところに、突然帰省最終日に提案された、下宿先の家主の妻からの申し出。

それは-。



「-…どうして受けなかったの? おばさまからの、養子-家族にならないか? って提案。私、おばさまとはほんの少し話しただけだったけど、とても大らかで正直な裏表のない人だな、って思えた…。
私、圭樹くんからは、実のご両親とはずっと逢ってないって話しか聞いてないし、その理由を無理矢理聞き出そうとした事ないから、何とも断言出来ないけれど。
圭樹くん、いろいろ考えるところもあったんだろうけれど、受ければ良かったのに。おばさま、残念がってたよ。未だにちゃんとした返事がもらえてないって-」



『“-少し考えさせてもらっていいですか? ちょっとゆっくり考えたいんです”
…そう返事をにごされてから、早もう何年過ぎたかしら? 春海くんは、私達夫婦にとっては実子も同然。頭も切れるし、優しいし。常識的だし。性格や所作だって穏やかだし。かなり彼の人間性を認めて切り出した話だったんだけれど…、受けてくれるとばかり思っていた話の返事を保留された辺り、まだまだ、彼を理解仕切れていなかったって、事なのかしら? それとも…、やっぱり』

本当のご両親が恋しいのかしら。何だかんだ言っても、親だしね。

『…おばさま、』

『優しい子だから。誰の事も見捨てる事が出来ないのよ、きっと。だから、返事がいつまでたっても宙ぶらりん…。
でも、じゃあ、春海くんの心は? 彼の心は、誰が救い上げてあげるのかしら。何があっても味方の人間は?
何があっても、見捨てない人間は?
ううん、人間じゃなくてもいい。彼を見捨てない心は?
それが、親-見返りなしの絶対的な味方-って存在だと思うの』

『…』

『熱くなってしまってゴメンなさい。春海くんの事になると、私、どうしてだか、見境なく熱くなってしまうのよ。
そうそう、あのコ…、“ナツミ”は亡くなる前、変な行動をよくしていてね。目もあまり見えなくなってただろうに、春海くんの席の辺りを寝転がってぐるぐる回っていたの。最後、ダイニングテーブルと椅子の脚の間に体を挟んで出られなくなって悲鳴を上げたりして―。
それって、もしかしたら、長生き出来てしまった事による、脳の衰えがもたらす現象だったのかもしれないけれど』

『…、脳の、衰え…、いろんな機能の働きが悪くなる、って事ですか?』

『ええ。でも、分からない。ただ、あのコは春海くんに逢いたがっていたから…。なにかしら、見えていたのかもしれないわね。あのコには。
それが、あのコにとっての幸せだったなら…』

『…』

『なんにせよ、自分以外の気持ちなんて―、人でも犬でも、分からない。これっばかりは、真実が分からない、永遠のミステリーよ。気持ち―心理が一番、この世の謎…』

『謎…、ミステリー…』

『いなくなってしまったら、何もしてあげられない。
永遠に声を―、聞く事が出来ない答と謎を抱えて、解決出来なくて、後悔して、もがいて、苦しんで。それでも遺された者は生きていくしかないから…。
頑張るしかない、から。
そう思えば、人生そのものがミステリー小説なのかも。そんな事を粋に考えて楽しむのも、気が紛れて心が安らいでいいかもしれないわね』

『…-』

『たかがワンコに大袈裟よね? でも、たかがワンコ…されど、ワンコなのよ。愛してしまえば“家族”だから。
-あら、もうこんな時間。話し込んでいてすっかり遅くなってしまったわ。
あと少しで終電の時間だけれど。
吉乃さん、ウチに泊まる? 主人は今夜は仕事で帰ってこないし。誰もいないから、気兼ねなく泊まってくれていいのよ。どうする? 何だったら、春海くんのお部屋-“吉乃写真展”に泊まって…』

『-いいえ! さすがにそれは図々しいので-、でも、おばさま。吉乃写真展、って…、ちょっと恥ずかしい…』





この後、連絡先交換して。私、早々に撤退させてもらって。車で駅まで送ってもらって-何とか終電に間に合って。お礼を言って、お別れして。

で、実家に戻って、お風呂に入って、グッスリ爆睡した、ってワケ。










だからね、と。時間は現在に戻り。

吉乃夏美は、圭樹春海の足首辺りにフンワリと頭を移動させ、屈託なく笑いかける。










to be continued