ノットヘブンジャム? Ⅸ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。










「吉乃さん…、じゃねーや、夏美?」

「…っ」

「起きて。もう一回、ヤろーよ? ―起きて、…だから、起きろ、ってば。いつまで寝てんだよ~。本気で寝過ぎだって~。夏美ィ~!?」

圭樹春海の声が、だんだん焦って切迫する一方。吉乃夏美は、覚めかけた夢の中で。









エピローグ



…雨が降ってる。

街の中にいるのに。調子を崩してSOSを出しても誰も気がついてくれない。親友も。会社の上司も。仲間も。

でも。

同じ部屋にいる彼は。彼は、私のSOSに気がついてくれてる…。  

気がついて。私を安全な場所に避難させてくれる。どこかに避難しなくちゃ。どこかに…。でも、どこに。

ここは、何でもある街の中。そう。大好きな、彼との部屋もある街。それが全て。





…それに。あれだけのイケメンだもん。その気になったら、秋刀魚だろうが、鱸だろうが、鰤だろうが、鯖だろうが食べ放題だよ。





食べさせないから。私の、彼だから。私以外の―その辺りに転がってるモノは毒、だから。毒を口に入れたら死んじゃうから。

彼を守るために。私は、私以外のモノは、食べさせない。鯛にでも秋刀魚にでも鯖にでも、何にでもなって。彼の欲を満たしてみせる。

それで彼が喜んで、私の傍にいてくれるなら―。

願いは、それだけ。

親友が教えてくれた事―疑惑―が嘘か本当か。私には一切、分からない。もし嘘なら、どうして―何の得があって―親友がそんな嘘を、ついたのか。

親友の事なら、何でも分かってる、って思っていたけれど。彼と私をどうしたくて、そんな嘘を、ついたのか。全て知っているはずの親友の気持ちが、分からないなんて。…そう、全く、分からないなんて。

あの、まあるくて可愛いばっかりの親友にも。秘密がある? 私にも解読不能な謎めいた顔? それを親友が持っているかもしれない、なんて。ただ。

…彼の傍にいたいから。私は、きっと。親友の教えてくれた疑惑が、嘘でも真実でも―どちらでも―。

…目を閉じて。耳を塞ぐ。

真実から目を背けないで。耳に響きのいい言葉ばかり都合よく選択し過ぎ、って注意されても。

人の言葉より、彼の言葉を信じる。その方が、きっと。後から後悔しないから。自分の目で耳で確かめて。それで真実が分かれば。

…分かれば?

分かった時、私は、…。

―それより。

彼が、私の言葉に逆らわずに。従って指をカットしようとした時。目の前に置かれた包丁の刃先が、冷たく冴えざえと光って。ライトのあかりが反射して。一瞬、眩しくなってまぶたを閉じて、次に開けたら。彼が、小指の上に包丁を押し当てているのが見えて。

―何でだか、私の小指が痛くなって。最初は鈍くて小さな痛みだったのに、どんどん、ガマン出来ないぐらい痛くなって、最後にはズキズキと血が逆流し始めて。…ああ、彼は、私の一部、なんだ、って。その一部をカットする事は、自分を傷つける事と同じなんだ、って。

その時、気づいて―、自分がどれほどひどい事を―罪深い行為を―させようとしていたのか、身震いして、息が詰まりそうになって、苦しくなって、

彼と私が共倒れになって、二人ともいなくなっちゃう、って―、そんなのイヤだ、って―、思わず止めた―。

その後。彼からの英語の質問に。どうにかニュアンスだけ聞き取って、以前出されてた宿題の答をアレンジして答えて。何でだか知らないけれど、彼はとても喜んでくれて。

それから、ここ数日。真っ暗闇の中にいて。いつもなら。誰といても怖くてたまらないのに。

彼、となら、怖くないなんて。きっと、暗闇が怖いのを克服出来るかもしれない、なんて希望さえ抱いて。彼との幸せな未来を、思い描いている。

眠って起きて、抱き合って。たまに彼が缶詰やレトルト食品や、デザートの―洗っただけの―ストロベリーを持ってきて、口に入れてくれて。

でも、その食べさせ方がユニークで。





「…目ェ、閉じて…。俺の声が聞こえる方向いて口、開けて…、ご飯食べさせたげる。
そうそう、いい感じ。ちゃんと噛んで食べて飲み込んで…、今度はこっち―、溶き卵のスープだよ…、
あれ? ダメじゃん、間違えちゃ。そっちじゃねえよ、こっちだって、…あ~あ、太ももに垂れた。ちょっ、舐めたげるからジッとしてて…、動かないで。目ェ、一ミリでも開けちゃダメだよ。開けたら、その時舐めてるトコに噛みつくから」

「っ…、」

「あれ? ここ、垂らしてないのに。ちょっぴり濡れてる、…何で?」





されるがまま。言われるがまま。何をされても…どんな事を囁かれても。

私は、ただ黙って食べて。顔を洗って。眠って。その繰り返し。

幸せで。けれど。それでも。それなのに。そんな時。見る夢は決まっていて。やっぱり。





―…見たね?





自分の叫び声で目覚めながら。彼に、抱き締めて背中をさすってもらいながら。

ふと、思う。

子供の時。あの―機械的な声で呼びかけられた―暗い夜に、背後を振り返っていたら。

私は、どうなっていたんだろう?声の主の顔を見て―、殺されていたんだろうか? もしかしたら。大人になった現在でも、街や道でスレ違えば。私を殺そうと追いかけてくるのだろうか? 走っても走っても。ぴったりと、くっついて離れない、記憶にあるように。殺すためだけに、追いついてくるのだろうか。

―あの時、振り返って顔を見ていれば。未来と現在が変わっていたかもしれない、なんて。

でも。





"見たね?"





今、そう呼びかけて私に話しかけるのは。

―彼。

振り返って。その顔を見ても。私を殺す必要なんて―そんな怖れも―全くない、能天気な、でも優しい、私の、彼。





"吉乃さん? 俺のジーンズのポケットの中、見たね?"

"…洗濯するのに、変なモノが入ってたら困るから。この前ポケットティッシュ入ってて、知らずに洗濯機回したら、服にティッシュがついて、取るの大変だったんだもん。だから、ポケットから抜き取って―"

"―その時、見たんだね? 俺がコッソリ買ってた、映画のチケット。吉乃さんが観たがってたから、サプライズで渡して驚かせようと思ってたのに~。俺のパソコンの上にチケットが何気に置かれてるから、おっかしーな~、何でこんなトコに? って思ってたら、もう見ちゃったなんて~。
俺のプラン、台無し。この責任、どう取ってくれんの? ねえねえ、どうするんだよ~?"

"…じゃあ、うん…、今週末、観に行く?"

"やった~。久々のデートだよ。ねえねえ、ついでにショッピング行かね? 俺行きたい店があんだよね~。多分、吉乃さんも好きそうなアイテムがあって。
…他はどこに行く? どこに行こうか?"





結局。その映画もショッピングも。ダメになってしまったけれど。

でも。

熱が下がった。雨が降ってる…。

それに、部屋の中は。いつだって、明るくて。雲一つなく晴れてて。私のSOSに気づいて避難させてくれる。





"安心して、それ―左の小指―持って地獄に行きなよ、ううん、一緒に行こっか?"




…真実が分かっても、分からなくても。―ううん、分かったところで。

好きになってしまったら、―ヘビーで、闇で、ドロドロ―、それでジ・エンド。

そこが天国じゃない(ノットヘブン)と言うなら―、いったい、どこが、それだ、と?

たった一つの。時に舌に刺すようにほろ苦く。でも、結局どこまでもむせるほど香り高くて、…人を好きになる痛みまでをも味わわせてくれる、

私だけのストロベリージャム―。











ノットヘブンジャム?






the end