事由の愛・ラ ヴィ アン ローズ―薔薇色の人生―10 | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

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アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。








月と星が雲に隠され、顔を出せない暗い夜。

闇に紛れた一つの影が、小高い丘に向かって歩き続ける。

その様相は、まるで背後を気にしたり、誰かに目撃されるのを避けているような挙動不審な所作で。

何度も後ろを振り返ったり、周囲を見回したりしつつ、最後には―現在は雲っているが―晴れていれば遠くまで空が見渡せるだろう、その小高い丘の上に到着し。

そこに生い茂る雑草の草むらの中に入り込み。ポケットの中から携帯電話を取り出すと、おもむろに液晶画面を―何か読み返しているかのように―見つめた後、その灯りで辺りを照らし。

グルグルと足元を巡らせ、何かを探し出そうとした瞬間。

その人影は、声をかけられた。

「何やってんの? こんな時間にこんな場所で…」

出し抜けに―けれど、ゆったりと問い質してくる声音に驚き、それでもどうにか、相手にその驚愕を悟られないよう、おもむろに振り返ると。

暗闇から問いかける声が、矢継ぎ早に続く。

「お前、熱があるんじゃなかったっけ? おとなしく寝てなきゃダメでしょ?
それとも―、風邪ひいたってのは嘘だった、って事? ねえ」

雅志?

名前を呼びかけられ、さらなる驚きを隠せない風情の人影が携帯電話の灯りを消そうとしていると、やおら、その場が明るくなり。

大きな懐中電灯で作られた丸い輪が、人影の顔を照らした。

そのあまりの―白く光る光の輪の―まぶしさに、人影―柏原雅志が顔の前で両腕をクロスさせ、明かりをブロックしようとした時。

少し離れた場所から対峙している人物が、暗闇の中―優しい穏やかな声音で―呼びかける。

「まぶしいぐらい明るいよね、この懐中電灯。
…綾さんが風呂入ってる間に、ドラッグストアで買った電池入れ直したから、超明るいんだよね」

「―」

「備えあれば憂いなし、って言うけどさ。車に積んでて良かったよ。お前の探し物は、さっさっと回収出来ちゃったし。
いい武器だよね、あれは~。でもお前には、あんな立派なの分不相応だから
―、俺が預からせてもらう事にしたよ。いいだろ?」

対峙する細長い―暗くて顔はよく分からずとも、通常ならば、その穏やかな口調と耳に心地よく、けれど今現在の柏原雅志には、うっとうしく響くばかりの声音から藤木黎と推測される―人影を。

雅志は、徐々に明るさに慣れた―暗い憎悪を湛えた光を、人工の懐中電灯の灯りの中、一瞬の内にあどけない少年の生気に満ち溢れた輝きに変化させた―目で、好奇心旺盛に眺め。

見る者を魅了する笑顔で愛らしく笑いかけながら、話しかける。

「…黎くん? そこにいるの、黎くんなんだよね? さっきから何ワケ分かんない事、喋ってんの?
『お前の探し物は、さっさっと回収出来ちゃったし』とか、
『いい武器だよね、あれは~。でもお前には、あんな立派なの分不相応だから』とか。―何かと勘違いしてない?
俺はただ、目が覚めたら薬が効いて熱が下がってたみたいで、ちょっと気分も良くなってたみたいだから、天体観測がしたくなってここに来ただけなのに。
宿の部屋の窓からボーッと見てたら、空眺めるのにこの丘、絶好のロケーションだなあ、なんて思って…」

「ヘエ…。こんな星も月も出てない夜に、天体観測か? 変わった趣味持ってんね、お前」

「…、もうちょっとしたら晴れてくるって、天気予報で言ってた気がするから。早目に来て場所取りしてたんだ」

「俺も天気予報見たけど、そんな事言ってなかった気がすんだよね?
お前さあ、熱があっておかゆしか食えずに寝込んでたわりには、元気そうじゃん。あれ? 口のまわりについてんの、ポテチのカケラじゃね? 布団かぶってコッソリ食ってた…、とかじゃないよね?
弟―渉の方は、夕飯の前に廊下でスレちがった時、本気でしんどそうだったけど…。
お前さあ、まさか、弟の熱のおこぼれで測った体温計を蛍子さんに見せて騙したワケじゃないよね? それとも、ママの携帯カイロで測ったとか? 宿の体温計はレトロな水銀のだったからね。高熱があるように細工しようと思えば出来るし」

「―」

「あれ、黙っちゃった? 無視? もしかして、図星だったとか?
まあ、病院に行って診断書もらったワケじゃなし、小さい子供があどけない顔してハアハア苦し気にしてたら、99%の母親は誰でも騙されるよね。我が子が病気だって自己申告してんだから、疑う余地はねえし。チョロいもんだよね。
…でもね、雅志。残念ながら、俺にはその手の嘘、通用しねえから。これ、俺の特技つってもいんだけどさ。何でかな~、お前みたいな」

性悪な子供(ガキ)の嘘は。すぐに見抜けちゃうんだよね、俺―。

そう言って人影―藤木黎は笑い声を上げ。

暗闇の中、その表情は見えなくとも、彼が閉ざした唇の両端を上げ、キレイに微笑んでいるのが、柏原雅志には、容易に想像出来て。

黎は灯りを柏原雅志に向け、彼を照らし続けたまま。

静かに語り続ける。

「―さっき、お前が言った通り、宿の部屋は全室東を向いてるから、この丘がよく見えるよね。つか、裏を返せば、丘(ここ)からも宿全体がよく見えるって事なんだけどさ。
特にハトの巣があった―ヒナが転がり落ちてた納屋の屋根の上なんか丸見えで。
夕方、あそこに上って周囲を眺めてて、ふと思った。
『ここにいて狙われたら一発だな』、って。これじゃヒットマンに狙撃して下さい、ってお願いしてるようなモンじゃん、って」

ヒットマンとか狙撃って…、発想が過激過ぎね? 黎くん。俺にはよく分かんねえけど、と雅志が肩をすくめ。

「…もしかして頭、どっか打った? 何が言いたいのか、全然分かんねんだけど。
俺が何か、とんでもない事しでかした、とでも言いたいような口振りだけど? 俺が何をしたっての? あっ…、ひょっとして、夕方のハト騒動には、何か隠されてる、とか言いたいとか?
でも、あれは、黎くん自身が、親鳥につつかれて襲われそうになった、って言ってたじゃん。
それとも、もしかして本当に撃たれてたワケ? 綾ちゃんが叫んだ通り」



『黎くん、大丈夫!? お尻―…、撃たれた、って…』



そっ、撃たれてたんだよ、と黎がいたって明るい声で笑い。

「痛かったよ、正直。よく巣を作る迷惑な野鳥を追い払う時に、エアガン使って追っ払うらしんだけどね。ハトは飛んで逃げられるけど、無防備な四つ足の人間じゃ、よける事さえ難しいだろーね」

「お尻に当たったんだよね? 綾ちゃんが叫んでたように…。利き脚側だったみたいだけど、何もケガしなくて良かったじゃん」

「まあね。でも、みんなに余計な心配させらんねーから。ハトファミリーには悪いけど、あいつらに襲われたせいにしといた。
…まあ、時には、嘘をついた方がいい場合もあるって事で」

「そっか…。咄嗟にそんな判断が出来るなんて、冷静な上に大人なんだね、黎くんは。
でも、ご期待に添えなくて悪いけど、俺、エアガン事件には全く関与してないから。俺、夕方の騒ぎの時には、その場にいたんだよ? 俺だけじゃない、俺のキョウダイ全員。母さんが俺達と会話してたのは、黎くんだって知ってるでしょ?
それに。エアガンなんか見た事ないから、よく分かんないけど―、俺みたいな非力な子供(ガキ)が扱いこなせる品物じゃない、と思う。
そんな俺がどうやって、ここ―宿の向かいの丘の上から、黎くんのお尻を撃つ事が出来るんだよ? 一瞬で、ワープ…瞬間移動でもした、って言いたいワケ? エスパーみたいにさ」

「それを言うなら、テレポートでしよ? 自分でもよく分かってない理屈振りかざして、論点ごまかさくていいから。
ねえ、雅志?
いたって現実的かつアナログな方法で対応出来んじゃん。共犯者さえいれば。
だいたい、お前、さっき俺の利き脚がどーのこーの言ってたけど、知ってんの? どっちが俺の利き脚か」

えっ、と一瞬ひるみながら。それでも雅志は自身ありげに答える。

「… 、左でしょ?」

「根拠は?」

「―…、だって、左利きだから。脚も腕と同じで左なのかな、って…、それに―、綾ちゃんがそう言ってたじゃん」

「綾さんが?」

「うん。言ってた」

「…そうか。
確かに俺は生まれついての左利きだけど、右手も使えるから。まあ、脚は左のが力、強いのは本当だけど、それを利き脚って言うかどうか分かんねえし。
お前、エラい自信たっぷりに俺の利き脚を左って断言したけど、その自信の根拠は、さっきの、その場で思いついたような曖昧すぎる論理と違って、ハト騒動の後に送られてきた、一通のメールじゃね? それにはこう書いてなかった?」



『…エアガンの弾、アイツの、お尻の左側に当ててやったから』



「―左側…、この言葉に、一緒にメシ食ってる時の俺を思い出して、お前が俺を左利きと判断するのも、ありだろうし。だから、脚も左利き…。そうイージーに思ってもいいかもしんない。
でも、お前にそんな結論を出させた本当の理由は、お前が、ある人間―例えば、共犯者とか―からもらった報告メール一本だけじゃねえの? いろんな事柄に目を光らせて、耳をそばだて注意深く聞いてれば、すぐにそれが嘘だ、って看破出来たのにね。
お前、さっき、『綾ちゃんがそう言ってたじゃん』って答えたけど…。
あの時―、ハト騒動の時、綾さんが何て叫んだか―、マジで覚えてねえの?
―本当は綾さん、こう言ったんだよね」



『黎くん、大丈夫!? お尻―右側、撃たれた、って…』




えっ?、と柏原雅志が一瞬の疑問符の後、無言となり。

藤木黎が、そんな彼を哀れげに見つめ。やがて。

その場にそぐわない、―不思議なぐらい優しい―声を出す。

「右側だったんだよ、俺が撃たれたのは―。左、じゃねんだよ」

「―」

「『お前にそんな結論を出させた本当の理由は、お前が、ある人間―例えば、共犯者とか―からもらった報告メール一本だけじゃねえの』…。
何で俺がお前のメールの内容まで知ってんのか、不思議そうだね。
まあ、その種明かしは、おいおいするとしようよ。お楽しみは最後まで取っとかなくちゃ―」

藤木黎の優しくも、抑揚のない声を聞きながら、柏原雅志は、目を見開き、絶句し。

次に、顔色が変わり。もう余計な事は一切話さない、と決めたように黙り込みうつむき。

反論するのをやめ、貝殻を閉ざした貝のように守りの姿勢に入る。

けれど、耳だけは目の前の男―藤木黎の言葉を一語一句注意深く聞き入っている、そんな少年を見て。

黎が、フッと笑う。

「…全く、お前の頭の回転の速さと、状況を冷静に判断分析する能力には畏れ入るよ。民宿に着いた当日に、そこで見かけた子供がハト大好きな事実を見抜いて、それを利用して、俺に痛い思いをさせよう、なんて計画を立てる事が出来んだから。
俺達―、俺と綾さんが到着してフロントに入った時、お前ら―お前と渉、その場にいただろ?
何せ、俺らが旅行してんのも、どこに泊まるのかさえも、綾さんの部屋の留守番電話やよっちゃんさん―お喋り好きなネズミ―から聞いて知ってたワケだから。
先に到着してたお前らは、近くから綾さん―親戚のお姉さんが到着するのを待って、その隣にいた俺をジッと見てた。そこにあの子供―ハト大好き少年が現れた…」



『―黎くん? どしたの? どうかした?』

『何でもね。ちょっと視線感じて振り返ったんだけど、誰もいねえし。
俺の気のせいだったみてえ』

『そお? 黎くんカッコいいから。どこ行っても注目されてる…』

『綾さん、ほめすぎ。つか、ん~っ…、参ったな。
綾さんと部屋に二人っきり…。ほめられて嬉しくなって調子に乗りそ。夜までおとなしく待ってられっかな、俺』
 
ポツリと。

黎が綾の目を覗き込みながら、そうつぶやいた時。

―どこからか大柄な―あどけない顔つきの中学生ぐらいの少年がやってきて。

『おばちゃん、今日はあのコ達来てる?』

『いらっしゃい、守くん。あのコ達はもう来ないよ。みんなの迷惑になったらいけないから、よそに遊びに出かけてもらったの』

『えっ、どして? 僕、あのコ達大好きだったのに…。寂しいよ。もう逢えないの? イヤだよ…』



その時の。

おかみさんと、なぜだか今にも泣き出しそうな『守くん』との会話の風景を思い返しながら。

藤木黎は、ポツリポツリと続ける。

「―あの時は、人間の子供の話をしてる、とばかり思い込んでたけど」

真実は、違っていた。

『あの子達』とは、民宿の周囲を飛び交うハト達の事で。『守くん』は、そんなハト達の様子を、いつも丘の上から眺めて楽しんでいた近所の子供で。

ただ、ここ最近、飛び交うハト達の数が激減し気になっていたので、民宿まで来て事の真偽を尋ねていたのである。

ハトの数が激減した理由は、明確だった。営巣されたり、その結果不潔な環境になるのを怖れた民宿の主人夫婦―主におかみさん―が平地で捕獲し、到底戻ってはこられないだろう、遠い山中に放していたのである。

けれど、帰巣本能のあるハト達は、やがて戻ってきて。

一時減っていたのに、ここ最近戻りつつある、との宿の主人夫婦の嘆き―ハトの数の増加―は、その結果だった、と言うワケである。

それは先ほど。麦茶オレを作るため、塩や蜂蜜を借りに行ったついでに、宿のおかみさんから藤木黎が何気に聞き出した真実だった。

「―俺達が部屋に案内された後、その場に残った『守くん』にお前は話しかけて―、いや、その前に」

俺の頭、オモチャの鉄砲で撃ってきただろ? お前か渉か、が。

と。

藤木黎が柔和な表情でポケットから小さな―夕飯前に綾にも見せ『何だと思う?』と尋ねた、丸い銀色の粒を取り出し。

左手の親指と人差し指でつまみ、懐中電灯で照らしながら。雅志の鼻先に突きつける。

「フロントから部屋に行く時、床に落ちてたのを拾ったんだよ。歩いてたら、スリッパ越しに何か踏んづけたな、って違和感があったからね。
で、さっきの夕飯の後に部屋に戻ろうとしたお前の母さん―蛍子さんに、これ見せて、誰が持ってるか訊いたら、簡単に教えてくれたよ」



『あら、珍しい。レトロな鉄砲の玉じゃない。多分、こんなの持ってるのは、渉よ。あの子、旅行先にまで持ってきてたのね。何だかね、最近よくこう言うの使って遊んでるの。どっから手に入れたのか知らないんだけど。レトロな物だから、そう危なくもないだろう、と思って放っているんだけど…。
でも、どうしてこんな玉(の)、黎くんが持ってるの? あっ、…イヤだ、もしかして、渉から撃たれた?
とか…』



「―渉が水鉄砲とオモチャの鉄砲にハマってるから、おそらく間違いないだろう、って…。ったく、こんなオモチャで俺を撃ってきやがって。男キョウダイのいない、一人っ子の綾さんには銀玉鉄砲なんて想像つかなかったみたいだよ。まあ、どんな事言っても、綾さんは可愛いから許すけどね。
…話が脱線しちゃったね。元に戻すよ。
とにかく、俺と綾さんが部屋に行くのを見送った後、お前は『守くん』に近寄ってた。もちろん、もしかしたら彼が何かに利用出来るかもしれない、と計算しての行動だよ。ダメで元々だったんだけど、お前の読みは幸運―、いや、不幸にも当たった」

柏原雅志は、目の前で繰り広げられる推論に、一向に反応を示さない。

けれど、藤木黎は淡々と続ける。

「話してる内に彼のハトへの愛着心と、お前ら家族が到着して早々に発見してたハトファミリーの巣―空の天敵―カラスやトンビからは見えにくい―つまり、丘の上からも発見されにくい瓦の隙間に作っていた巣、それと―おそらく、これが一番お前にアイデアの神が降りてきた瞬間だったんだろうけど―、『守くん』が図体こそデカイけど、実は自分より年下の小学生と分かって彼を利用する事を思いついた。
お前がさっき言ってた通り、エアガン―特にライフルスタイルのは、ある程度体がデカくないと、上手く撃ちこなせないからね。お前の体格と腕力じゃ、撃った瞬間に体が後ろにのけ反って、絶対に命中しないから」










to be continued