決断

引退―――。
役職や身分、現役から離れること。僕はこれまでに幾度か、その決断を聞いたり、目の当たりにしてきた。特殊救難隊の彼がオレンジを脱ぐことになったと報告してきた日。警察官のあの人から、現場から退くことになったと聞いた日。ブルーインパルスのあの人がラストフライトを終え、花束を手渡した日。引退には常に一抹の寂しさがつきまとう。そしてまた、一人の偉大な野球選手が現役を退くと決断した……。



平成の三冠王。この称号は唯一、彼だけのものだ。松中信彦選手。ホークスファンのみならずプロ野球ファンなら、松中選手の名前は脳裏に刻まれているだろう。本当に桁外れのバッターだった。それは他球団の選手達が口を揃えて言うから間違いない。球を捉える技術、打球の速度、打席に立った時の雰囲気、何もかもが図抜けていた。

この写真は昨夜のものだ。久し振りに二人で写真を撮った。本人の口から引退に至る気持ちを聞いた。ただ黙って頷くしかなかった。日に焼けて、身体も引き締まっていた。「まだ大丈夫。現役でやれるよ」、そんな思いも頭をかすめた。でも、これは本人が決断したことだ。そう、本人が決めたのだ。だから、受け止めなければならない。

信ちゃん、現役生活、お疲れ様でした。しばらくゆっくり心と身体を休めて、また新たな道を歩んでください。できれば野球界に戻ってきて欲しい。三冠王のスピリットを次に紡いでほしい。そう、切に願ってるよ。

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