流星ひとつ | 小森陽一オフィシャルブログ「一期一会」Powered by Ameba

流星ひとつ

流星ひとつこの人が現れると雰囲気が一変した。華やぐのではなく凍て付く感じ。だから僕はこの人の事がちょっと苦手だった。藤圭子さんの事だ。

子供時代、全員集合はやっぱり定番だった。特別夢中になって見ていた訳ではないが、やっぱりドリフは好きだった。コントもオチが分かっているのに笑えたし、沢山の歌手がドリフと絡むのも面白かった。でも、藤圭子さんが出てくるとやっぱり場の空気が変わる。キャラ立ちしたドリフの面々ですら、あの冷たいオーラには勝てなかった。

『流星ひとつ』、この本を手にとったのは沢木耕太郎さんの著作が好きだからだ。『深夜特急』は何度読み返したか分からない。『一瞬の夏』『テロルの決算』『彼等の流儀』『チェーン・スモーキング』『凍』……、大概の作品は読んでいる。今回、この本を手に取ったのもそんな流れからだけだった。



だが、読み始めてすぐに夢中になった。この本には一切の情景描写が無い。作者の思いも綴られていない。その時の時間が会話だけで書かれている。なのに間を感じる。風景が浮かぶ。お店の中に流れる曲や煙草の煙、お酒の味までが浮かび上がってくる。いや、そんな事よりも藤圭子だ。こんなに活き活きとした藤さんを感じたのは初めてだ。ここに浮かぶ藤さんには、あの凍て付くオーラは無い。無邪気で健気で懸命でユーモラスで……僕が子供の頃に抱いていたイメージとはまったく別の、いや、二十八歳という等身大の藤圭子の姿だった。

藤さんは昨年、命を断った。心を病み、投身自殺したという報が流れた。そのニュースを見た時、僕はあぁ、やっぱりなと思った。僕の中にあった藤圭子のイメージそのままな感じがしたからだ。この本に出会わなければ多分、それは生涯変わる事はなかっただろう。

沢木さん、この本を世に出してくれてありがとうございます。藤さんの明るい笑い声さえ聞こえてくるような、そんな素晴らしい本でした。バーで過ごされた二人の時間に乾杯。



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