それでもいじめられているという感覚は長くは続かなかった。
入院中にみんなが書いてくれた寄せ書きは確かに持っていたし、先生がみんなによく言い聞かせていたから。
それにぼくはわざと頭を触らせたり、自分からおちゃらけて見せたりした。そうしてないと常に痛む頭と、常に痛む身体に負けそうになるから。
誰も知る人のいなかった教室。通った記憶のなかった通学路。ランドセルではなく、肩かけ鞄で通学をしていたぼくに、積極的に話しかけてくる同級生も最初は少なかった。
悪意のない子供のストレートな言動にも、すぐに耐性ができた。おちゃらけてみせながら、だんだんと孤独にも慣れてきたと思った矢先、ぼくに話しかけてきてくれた女の子がいた。
その子は大柄で、急激に身長の伸びたぼくよりも少し背が高いくらいだった。性格は、とてものんびりとしたおおらかな女の子。
その子はぼくの見た目のことなんてこれっぽっちも気にしていないようで、あれこれと気にかけてみんなとの関係をとりもってくれたりして。復学後、とても仲良しになれたお友達の一人になった。
「私のこと好きって言ってくれたの覚えてる? 思い出してよ」
しばらくたって学校にも一人で通えるようになった頃、その子がぼくに言った。
ぼくはずっとちっちゃくて、一度も後ろで前ならへをしたことがなかったくらいほんとにちっちゃい子だったって。そんなちびが、ぼくよりもずっとおっきいその子に告白をした。
その時のぼくはどんな思いだったのか。そしてその子がなんて答えたのか。今になっても思い出すことはない。その時はそう言われて、なんだか妙に残念に思った気持ちと、その一方ではまるで他人事みたいに思ったことは、今でもよく覚えてる。
ぼくが復学をしてしばらくした冬の寒い日に、その女の子は旅立った。
風邪をこじらせ、ばい菌が背中に回って助からなかったって聞いた。
冷たい雨の降りしきる中、煙突から立ち上る煙を見上げながら、記憶も思い出も何もなかったぼくの、ぼく自身の初めてといっていい思い出のお話。